いつ見ても心が潤う。

ミュージカル「ファンタスティックス』のことだ。

もうすぐ東宝上演版の『ファンタスティックス』が始まるけれど、

いま書こうとしているのは別プロダクション版。

もう一か月近くも前に見た舞台だけれど、やっぱり書いておこう。

 

『ファンタスティックス』は1960年オフ・ブロードウェイ初演ミュージカル。

以来、劇場は変わったりしたけれどロングランを続けている。

日本では1967年に初演され、以降さまざまなプロダクションで

上演され続けている。

 

 このミュージカル、『シラノ・ド・ベルジュラック』で知られる

エドモン・ロスタンの『レ・ロマネスク』を元にした作品で、

隣同士に住むルイザとマットの初々しい恋とその後を描いたもの。

瑞々しく、また切ない物語もさることながら、

「トライ・トゥ・リメンバー」をはじめ心優しく美しいナンバーが

とびきり素晴らしいミュージカルだ。

 

 で、先日見たのは、そのニュー・ヴァージョンの

『ボーイ・ミーツ・ボーイ版』。

『ファンタスティックス』のクリエイティヴ・コンビ(ハーヴィー・シュミット&

トム・ジョーンズ)と長く親交を結んできた勝田安彦の

演出による日本初演舞台だ。

 

(プログラム表紙)

 

 トム・ジョーンズが新たに手を加えた新台本は

青年と少女の恋が、タイトル通り、男性同士の恋に置き換えられている。

ここではルイザがルイス(大根田岳)という名の少年になり、

隣家のマット(北野秀気)と恋に落ちるのだ。

元の版では父親たちだった役も、母親たち(杉村理加、宮内理恵)になっている。

ルイザじゃなかった、ルイスが心惹かれるエル・ガヨは

原作通り男性(柳瀬大輔)のまま。

 

 見に行く前は、ボーイ・ミーツ・ボーイに慌てる両親の構図とか

考えてしまったのだけれど、そこは波乱なく

母親たちは恋の後押しをしていたので、ちょっと驚く。

でも、演出の勝田氏に「♪ラヴ・イズ・ラヴ♪ですからと言われ、

自分のアタマの硬さに思い当たり、ガク然。

脚本家も演出家もジェンダーの壁なんて軽く超えてしまっていたのだ。

(ちなみに、♪ラヴ・イズ・ラヴ♪は作中ナンバーのフレーズ)

 

 そんなこんな、いろんな思いを抱きながら見た

『ファンタスティックス ボーイ・ミーツ・ボーイ版』だったが、

やっぱりドラマは柔らかく胸にしみ、楽曲の魅力も改めて噛み締めた。

そして、今回初めてミュート(斎藤かなこ)に目を奪われた。

ミュートは、名前通り台詞なしで、壁になったり道具を出し入れする役。

通常は演技派の男優が演じるけれど、ここでは女優が演じている。

その役の斎藤かなこの動きが、なんともまあ美しかったのだ。

バレエをやっている人の動きだなあ、と見惚れたほど。

なんだか、いろいろトクした思いの『ファタスティックス』新版だった。

 

 さて、次の東宝上演版はどんなかなー?

楽しみは尽きない。

 

『ファンタスティックス ボーイ・ミーツ・ボーイ版』は

タチ・ワールド製作で、9月14日~19日まで東京・目黒ウッディ・シアター上演。