やっぱり感動的だった。

ミュージカル『RENT』の来日公演だ。

本来なら2020年に来日するはずだったのに、

コロナ禍で2年も遅れて、

ようやく実現した来日公演だ。

 

 今回は「25周年記念」と「フェアウェル・ツアー」と

銘打たれている。

ブロードウェイ初演からすでに4半世紀かぁ、と驚きと同時に

今後ツアー公演の予定がないってこと?と寂しく思う。

いや、まさか…。

 

撮影:ヒダキトモコ

 

 いわゆる”レントヘッド”のようなコアなファンではないけれど、

『RENT』はブロードウェイ初演以来、

日本上演版も来日公演版も全ヴァージョン見てきた。

なかには、ん?と思う演出ヴァージョンもあったけれど、

楽曲を聞けば、いつだって、それだけで胸が震える。

それほど楽曲が魅力的なミュージカルなのだ。

 

 だから今回も、開幕早々の「チューニング」から

タイトル・ナンバー「RENT」で一気に舞台に引き込まれた。

1980年代のニューヨーク、イースト・ヴィレッジに住む

ロジャーとマークは貧しくて家賃が払えない。

そのことを歌っているのだけれど、

ここには「人生は神からの借り物」といった意味も

込められている。

これが、テーマ・ナンバー「ノー・デイ・バット・トゥデイ」に

繋がっていく。

 

撮影:ヒダキトモコ

 

 作詞・作曲・脚本を手がけたジョナサ。ラーソンは

オフ・ブロードウェイでの開幕直前に亡くなった。

『RENT』をみるたびに、その才能を惜しまずにはいられない。

ミュージシャンのロジャーが歌う「ワン・ソング・グローリー」を

聞けば、ラーソンと重ねてしまう。

人生で、たった一曲でいい輝かしい曲を作りたい、と歌う

美しいバラードだ。

 

 2幕最初のナンバー「シーズンズ・オブ・ラヴ」では、

いつもながら感涙スイッチが自動的にオンになってしまう。

「1年をなにで計ろう…愛で」という歌詞もさることながら、

ちょっぴり哀愁を帯びたメロディが、もう堪らない。

 

撮影:ヒダキトモコ

 

 はたまた、ゲイのカップル、トム・コリンズとエンジェルの

優しいバラード「アイル・カヴァー・ユー」。

こうして1曲ずつ書いていくとキリがなくなってしまう。

全曲が素晴らしい名作だから。

 

 もちろん、オペラの『ラ・ボエーム』を下敷きにした

物語も胸にしみる。

ロジャーとミミのラブ・ストーリーを中心に、

若く貧しいアーティストの愛と夢と葛藤を描いた物語。

そこに、当時は死に至る病と言われていたエイズの猛威を織り込み

人生の意義を問いかける。

と、まあ、大雑把に言えば、こんな話。

 

撮影:ヒダキトモコ

 

 この公演は、オリジナル演出とされていて、

マイケル・グライフのオリジナル演出を踏襲したもの。

だから、廃材で作ったようなクリスマス・ツリーをはじめ

舞台美術もオリジナルと同じ。

ただし、あちこち少しテンポ・アップもしている。

たとえば、マークの元カノ・モーリーンのパフォーマンス

「オーヴァー・ザ・ムーン」が短くなっていたり。

 

 そうそう、オリジナル・モーリーンはイデナ・メンゼルだったなあ、

などなど、各ナンバー、各シーンごとに

いろんな想いが浮かんでくる。

気付けば、この作品、誕生から25年目なわけで、

周囲の観客にはまだ生まれてなかった人もいそう、とか、

いまエイズの恐ろしさを知る人はどれだけいるだろう、とか。

 

 こもごもの想いは個人的なものだけれど、

そんな思い入れなどカケラもなくたって、

この楽曲、このミュージカルに魅了されない人など

いないはずだと、これは確信する。

 

5月29日(日)まで東京・渋谷の東急シアターオーブ