楽しんで、ちょっと考えさせられて、

とてもよい時間を過ごした。

ブロードウェイ・ミュージカル『IN THE HEIGHTS』再演だ。

このミュージカル、登場当時「ヒップホップ・ミュージカル」とも言われ、

カリビアンのリズム多彩な楽曲とダンスが、大きな魅力だ。

そうそう、いまやブロードウェイのフロントランナーとなった

リン・マニュエル・ミランダの出世作でもある。

 

【撮影:源 賀津己】

 

 タイトルの『イン・ザ・ハイツ』のハイツは、

ニューヨーク・マンハッタンの北部にあるワシントン・ハイツのこと。

ラテン系移民が多く住んでいる地域だ。

そこにあるドミニカからの移民コミュニティが、物語の舞台。

 

 小さな食品雑貨店を営むウスナビ(Micro、平間壮一のWキャスト)は、

移民2世。育ての親は、近所のおばあちゃんアブエラ(田中利花)だ。

彼女は、ウスナビの店で宝くじを買うのを習慣にしている。

ウスナビは、近所の美容院で働くヴァネッサ(石田ニコル)に、

惹かれているのに、アプローチできないまま。

ダニエラ(エリアンナ)がオーナーのその美容院は、

数日後には家賃の安いブロンクスに引っ越してしまうのに。

 

【撮影:源 賀津己】

 

 独立記念日を翌日に控え、町が浮き立っている日、

小さなタクシー会社の娘ニーナ(田村芽実)が帰って来た。

名門大学に進学した彼女は、この界隈の希望の星。

ところが、バイトと学業の両立ができず、

大学を中退することにしたのだった。

 

 タクシー会社に勤めるベニー(林翔太、東啓介のW)は

ニーナに恋心を抱いていた。

再会した二人の仲は急接近していく。

一方、ニーナの父ケヴィン(戸井勝海)は、娘の学費を作るため

裸一貫から築き上げた会社を売ろうとする。

 

 そんな人々が紡ぐ、温かな人情味あふれるドラマが、

独立記念日の前日から独立記念日の翌朝まで、

大停電や宝くじの大当たりといった騒動を織り込みつ展開する。

 

【撮影:源 賀津己】

 

 人と人との絆が強いコミュニティの温かさと、

明日への希望が胸に残るエンディング。

 

 初演から続いてウスナビを演じるMicroがこなれたなあ、と。

林翔太が、ラップも披露。彼、この前ストレート・プレイの「キオスク」で

見たばかり。もう、ただのアイドルじゃない。

田中利花、エリアンナ、ほんと安心できる存在感。

ダンサーたちの技術、初演より上がっている気がする。

というか、最近のミュージカル、アンサンブルのレベルが高い。

 

 と、上記のキャストは4月24日(土)マチネのもの。

緊急事態宣言が出た翌日だ。

カーテンコールで、Microが「毎日、千穐楽のつうもりで」と

言っていたけど、どうにか27日までは上演するらしい。

あと1日で千穐楽なのに、と思うけれど、

まだ幸運な方なのかもしれない。

ついでながら、この日は各所からの公演中止メールの嵐だったのだ。

 

 ちょっと横道に逸れた。舞台のことに話を戻す。

これ、ブロードウェイ初演(2008年)に見た時は、

移民ゆえの差別にあいながらも、登場人物たちが

絶対的に信じている「アメリカの希望」も思った。

当時は、ブッシュ(ジュニア)政権の末期。

翌年にはオバマが大統領に就任する。

でも、トランプ以降の差別と分断が顕著になった今は、

希望を見出すのも容易ではなくなった感じ。

とか、そんなことも考えてしまった。

 

 時間を超えて愛されていく作品って、

作品そのものの楽しみと同時に、いろんなメッセージを

発しているものだなと、改めて感じ入る。

『イン・ザ・ハイツ』はは映画化もされ、

この夏には全米と、日本でも公開される予定。

 

企画・製作:アミューズ、ぴあ、シーエイティプロデュース

 

本来なら、4月28日まで東京・赤坂ACTシアター

その後、大阪、名古屋公演予定