パイの甘い香りが、劇場いっぱいに漂う…

はずだった。たぶん、そうなったろう、コロナ禍がなければ。

ミュージカル『ウェイトレス』@ブロードウェイでは、

幕間の客席でパイが売られ、客席を甘い香りで満たしていたのだ。

だから、日本上演版でもそこは踏襲するかな、と思っていたのだけど、

この状況じゃ、そりゃあムリってもので。

 

主演の高畑充希 (写真提供:東宝演劇部)

 

 作品自体は後味最高の上出来パイの味。

久々にミュージカルの舞台に戻ってきた

高畑充希が、ほんっと魅力的。

自立していくヒロインを爽やかに演じている。

 

 物語の舞台は、アメリカ南部のいなか町。

おいしいパイが評判のダイナーで働くジェナ(高畑充希)は、

モラハラ夫のアール(渡辺大輔)から逃げ出したくて仕方ない。

アイディア豊かな新作パイを次々に作り、せっせと貯金して

自立を目指している。

 

左からLiLiCo、高畑充希、宮澤エマ (写真提供:東宝演劇部)

 

 ところが、ある日、アールの子供を妊娠していると分かった。

診察に行った産婦人科医ポマター(宮野真守)と、

なんだか気持ちが通い合う。

 

 ウェイトレス仲間もまた悩みを抱えている。

ちょっぴりオタク体質のドーン(宮澤エマ)は、

男性との出逢いに臆病。

姉後肌のベッキー(LiLiCo、浦島りんこのWキャスト)は

夫の介護と仕事の両立で、ついギスギスしてしまう。

 

左から、宮野真守、高畑充希 (写真提供:東宝演劇部)

 

 ダイナーのオーナー(佐藤正宏)に、

パイ作りコンテストへの出場を勧められたジェナは

コンテストで優勝し賞金を得たらアールと離婚しようと決心する。

 

 さて、ジェナ、そしてドーンやベッキーの、その先は…。

という物語の原作は、2007年の同名映画

(邦題『ウェイトレス~おいしい人生の作り方)。

この映画の監督・脚本・製作を手がけたエイドリアン・シェリーは、

惜しくも映画公開前に亡くなったけれど、

志は映画からさらにミュージカルとなって受け継がれた。

 

左から、浦島りんこ、勝矢 (写真提供:東宝演劇部)

 

 ミュージカル『ウエイトレス』のブロードウェイ初演は2016年。

作詞・作曲は、サラ・バレリス。

さらに、脚本(ジェシー・ネルソン)も演出(ダイアン・ポーラス)も

振付(ロリン・ラタッロ)も女性。

ブロードウェイ史上初の女性スタッフによるミュージカルだ。

(※スタッフ名の一部の表記は東宝版表記と異なります。)

 

 実際、甘えず頼らず、でも助け合い、支え合って

軽やかに自立していくヒロインたちの姿に、

女性スタッフの心と視線が行き届いている。

 

3月30日まで、東京・日生劇場

4月4日(日)~4月11日(日) 福岡・博多座

4月15日(木)~4月19日(月) 大阪・梅田芸術劇樹メインホール

4月29日(木)~5月2日(日) 名古屋・御園座