図書館には、なんか砦(とりで)っぽいイメージがある。

本や資料でいっぱいの知識の砦とか、

読書をする穏やかな空間を守ってくれる砦とか、

そんなことを思ってしまうからだろうか。

 

 この映画に登場する図書館も、砦と化す。

ただし、全く異なる意味の、文字通り砦になってしまうのだ。

 

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 舞台は、米国・シンシナティの公共図書館。

街を大寒波が襲った日、閉館時間になっても居座る人々がいた。

70人ものホームレスたちだ。

シェルターにも入れず、外で一夜を過ごせば凍死もしかねないと、

一夜を図書館で過ごさせろと主張する彼ら。

真面目な図書館員スチュアート(エミリオ・エステベス)は

彼らへのシンパシーと規則の板挟みに悩んだすえ、

ついに彼らを守る決心をする。

 

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 笑いをちりばめたスリリングな展開。

そこから貧困や格差社会、センセーショナリズムに

走るメディア、といった社会的テーマものぞく。

 

 実話ベースだけれど、監督も務めるエステベスの

脚本が、多彩なエピソードを織り込んで温かい。

スチュアートの出自とか、事態収拾に来た

刑事(アレック・ボールドウィン)と息子の関係修復とか。

 

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なにより素敵なのは、本の力を信じているスタンス。

けっこうなキーワードとして、ジョン・スタインベックの

名著「怒りの葡萄」が出てくる。

これ、必読書だと思うけど、いまや誰も読んでなさそう。

ジョン・フォード監督で映画化(40)もされてるんだけどね。

 

「怒りの葡萄」の名せりふ「I will be there」は、

この映画でも使われ、テーマともなる。

つまり、想像力と共感力。

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なんて、いろいろ考えてしまうけれど、

そんなの抜きにしてもユーモラスでシニカルで

スリリングな展開を楽しめば十分かも。

 

配給:ロングライド

 

7月17日から、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開