神社名にある十市御県（とおちのみあがた）は、初期の大和王権の直轄地である六御県のひとつです。

六御県とは・・・

　高市御県（たけちみあがた）
　葛木御県（かつらぎみあがた）
　十市御県（とおちみあがた）
　志貴御県（しきみあがた）
　山辺御県（やまのべみあがた）
　曾布御県（そふみあがた）

のことで、各県（あがた）には神社および行政長官である県主（あがたぬし）が置かれていましたした。また、各御県に置かれた神社は、いずれも『延喜式神名帳』に記載される式内代社です。

当社の祭神は豊受大神。宇賀様と同神とされることもある食物神または穀霊神で、稲荷神社によく行く自分にはなじみの深い神格。ちなみにウガノミタマ神のことを、源九郎宮司さんは親しみを込めて宇賀様と呼んでました。

しめ縄が左ない始め。縄の頭（始まり）を向左に置く閉め方で、大神神社や出雲大社がこの方式のしめ縄です。悪く捉える場合は「封じの縄」ともいわれることがありますが、それはケースバイケースでもあり正確な意味は分かりません。ともあれ一般的ではなく少数派のしめ縄です。

碑にある名前は十市遠忠。十市氏は、郡山城を建てた筒井氏とやり合ったりくっついたりした大和武士です。当社のある地域は十市氏の本拠地で、近くには十市城跡もあります。

上記した六御県に置かれた神社のうち、私的に最も興味を持つのが志貴御県坐神社および磯城県主で、この氏族は最初期の大王家の外戚となっています。十市御県神社のある場所にいたと思われる十市県主は磯城県主の同族とされており、十市遠忠を出した十市氏は、十市県主の子孫である可能性も指摘されています。

余談的にいうなら、多神社（田原本町）のある場所は、古代には春日県であったとされ、そこにいたと考えられる春日県主は、磯城県主や十市県主と同族とも考えられています。

一つの神社の話を、霊的な方向やトンデモ説から捉えることはもちろんでき、また、中世史・古代史の方向に考えを発展させることができるというのは大変面白いことだと思います。

十市御県坐神社