どれくらいたったのだろうか。 でもそれはどこからどれくらいなのだろうか。

ベットが個室から相部屋に変更になった、見ず知らずの他人なら拒否反応がでないことがわかったからだ。

 身近に人間がいても一人と変わらないような気がした、周りはみんな製品で自分だけ不良品のように思っていたから。まあここは病院だからみんなそれぞれの形で悪い部位はあるのだろうけど。そう思うと、ここにいるだけで全員が不良品ともいえなくはない。そんな考えを持つ自分は人一倍醜いな、なんて考えた。

 そんな醜い自分が嫌だったから、かもしれない。 でもたぶんもっと自分主義的な考えから、周りとなじみたいと思うようになっていた。

 最初は挨拶をするようにしてみた、最低限話しかけられたら対話しようと試みた。最初に発した声がなんだったかなんて忘れたけど、低い自分の声が聞こえて安心したのを覚えてる。男ありたいとそんなに強く思っていたんだ、と気づかされた瞬間でもあった。単に今のままでいたいだけかもしれないけれど。なにかに気が付いた瞬間だったことには変わりはなかった。



 「結論から言うと、君は女性になる。」

突きつけられた事実はどこまでも現実離れしていた、事実はどこまでも現実的なはずなのに。

「どの程度女性になるかはわからんが、男性を名乗れるかもしれないし、女性を名乗れるかもしれないが、どちらもかなわないかもしれないという意味だ。」少し現実に近づいたような気はする。

「病気というより成長と思ってもらった方がいい、病気ではないから体に関しては我々には何もできないよ。」

きれいな女医が話しかけてくれていても。きれいだなとしか思うところがなかった。

「体に関してはとりあえず異常ではあるが大丈夫だ、それが原因で死ぬことはない。君に大事なのは心のケアだよ。」なんでもお見通しだって様子で診断結果を伝えてくる。

「もうずいぶん誰とも会ってないらしいじゃないか。」

痛いところを土足で入ってくる感じから、この人は精神科医ではないのだろう。

このころから引きこもりが始まったんだ。病院内だから誰しもがそうなのかもしれないけど。

僕は肉親とも、家族とも、恋人とも、友達とも会うことを望まなかった。あの日のように拒否反応が出てしまうから。男性として扱ってくれた人たちに今の自分を見てほしくなかったから。






 人は自分がどちらの性であると、どのようにして自覚できるのだろう。

そんなことをうだうだと考えながらもう一週間引きこもっている。

もう布団の中も十分すぎるほどに堪能したわけだし、外に出ようか、布団の外だけどね。

きっと髪は寝癖でボサボサ、顔は寝すぎでダルダルで、体ははたしてどうなっているやら。


 ベットから、寝すぎで凝り固まった関節をいたわるようにし、とりあえず柱に背を預けピンと立ってみる。

「5mmほど縮んでる。」

落胆の溜息の反動で洗面所へ向かう、立ち止まりたくないから。

洗面所の鏡には布をかぶせてるから安心だ、浴室の鏡は取り外したからだいじょうぶだ。

あとは体を見ずに服を脱ぐだけ。

目を閉じ服を脱ぎ浴室へ入る。

そこでようやく自らとの対面だ。

覚悟を決めゆっくり目を開ける。

「より男性的であるより、より女性的であるよりかはショックも少ないな。」

目に映るのは男性とも女性とも取れない、のっぺらぼうのような自分の体だった。


 始まりは彼女だった。僕には彼女がいたんだ。

最初は彼女からのメールや電話に嫌悪感を抱くだけだった。

大したことのない、いつものことだと思っていた。


 彼女と待ち合わせの場所に彼女よりも早く着いた日曜日。

待ち合わせ時間の10分遅れでいつもどおりな彼女の到着、と同時に何かが崩壊した。

今までの彼女との出来事が走馬灯のように脳内を巡り、そのひとつひとつの矛盾点をつきつけられて、ぼくはその場に倒れたんだ。