この夕日を見る度に、あのとき心が振り乱された事がありありと思い出される。
夏を迎えた立山は緑にしっとりと包まれ、美しい風景を見せる。山は好きだが、ここまで美しいと思ったことはなかった。
自然が美しいと言うことが初めて実感できたのだ。 大学を卒業する前の、夏だった。
ひょんなことで、また立山に行く機会があった。
それが一昨年の冬。
冬の雪の立山もまた、威厳を増してそこにそびえていた。
そこで初めて訪れたときとまた違う感覚に胸をうたれた。
なまめかしい色を付けた薄い赤をまとった立山。
最初に体感したあの夏から私は年をとったのだ。年をとって成長したと思っていた。仕事もある程度一目置いて貰えるようになったし、結婚もした。
一人の人間として、生きていたはずだった。
ただ、それだけ?
神々しい山々を前にしてみれば、そんなことは小さい事だ。
赤色に染まる立山は日々に乾いていた私に生きる気力を与えた。
なぜなら。
久しぶりに自分の存在を、実感する事ができたからだ。 自分以外の壮大で太刀打ちできぬものの前に来てやっと。
自分のおろかさを赤に染まる立山に見た。
美しく壮大な存在感に、少し恐怖をいだいた。
深い、暗い、決して人間が抗うことのできない恐怖。