「人間の品位って、きっとその方の目と口元に現われると思うの」




サユミは一人だけしらふで


コリンズグラスの底にひしゃげた


グレープフルーツジュースの果肉を


わざと氷で音をたてるように


マドラーでぐるぐるかき混ぜた後にそれらしく、


しっかりと言った。




「なあんだ~??


退屈しちゃったのかなあ~??」


派遣先の女の子に連れられて


なんだかよく分からないうちに


数時間前まで他人だった人たち3人と


ご飯を食べていたのだった






目の前には遠慮の塊の


くろい焦げたツラミが


あんなおいしそうだったのに


もうすっかり炭になっている




その前に髭の生えた最も『だらしなく』酔った


たれ目の男が言った








「お酒飲めないの~??


人生損してるよー」




ああ、もうなんて救いようのない人だ


サユミは絶望を通り越して心底嫌気がさしていた






「サユは~、結構不思議ちゃんなんだよね~


でも会社では~信頼厚いんだよぉ」




茶色い髪のこれまただらしなく酔ったエリが


右乳を男の二の腕にひっつけながらかわいいっぽい声を出して言う




気を引きたいなら私を話に入れなくていいのに


と思いながらなるべく自然に見えるように笑った








エリの彼氏はその課の課長で


いわゆるヒトメボレで付き合う事になった。


今年30になるが、年齢は気にならないという。


たとえ報われない恋だとしても、


自分は満足してるし、それに相手の家庭を壊すようなことはしない。



えらく細いタバコを吸いながら社の屋上のテラスで話してくれた。






エリはきっと美人だと思う。


派手好きには物足りないけれど、


中年受けしそうなすっきりした


在る意味それだけの


スラリとした美人だ。


ただそれは今の彼氏の趣味に合わせたものだという。


今日はただならぬ気合が垣間見える


花柄のシフォンスカートを履いているが


それはそれでいいな、とサユミは思った。




ただこの男はエリっぽくないな、


そう思って灰になったそいつに目線を移した。






「どうして目と口?」




いつのまにか隣に座っていた


左斜め前に居た男が、サユミに話しかけた。


「目はわかるけどな。」




なんて印象の無い顔なんだろうと思ったが


横顔になったらやたら鼻の大きい男だな、と思った。


「刑事が、前科者を探し出すときに、


目だけを覚えて街へ繰り出すそうよ。


目の形と目と目の距離で数百の顔を一度に覚え分けるんだって。」




「へー。それ、おもしろいね。普通だったら覚えられないよねそんなに。」


しかしまあ、決まって横顔ばかりだな、と思ったら


鼻男の目の先に、白いシャツからみえるかみえないか、ゆれるエリの胸が。




サユミは思わず笑ってしまって


遠くに置いていたグラスを引き寄せ


氷をガラスにぶつけながら高速にマドラーを動かし、咳払いをして俯いた。


そのためにこの席に来たわけ?と


笑いを堪えて震える肩をわざとに大きくさすって寒いなあ~


とつぶやいた。寒いわけがない。目の前には


ますます黒く小さくなってゆく


ツラミを載せたコンロがあるというのに。




目を白黒させていると


いいタイミングなのかなんなのか、


携帯が着信を知らせてゴゴゴゴと鈍い音をたて


机の上を少し移動した。


母からだ、とソーラーパネルの下の小窓を見て知ると


サユミは小さな声で失礼、と言い


携帯を持って個室を出、騒がしい店内から外へ出た。




電話の先には母が良い気分らしく。


次に戻ってくるのはいつになるのだ、


と間の抜けた声で聞く。




仕事が来月で契約更新だからねー


その後次第かなー




と言いながら


ふと見上げた丸い月に


思わずハッと声をだしてしまった。






ぴっかーん!と光輝く月に見とれて


そう


まさに


ぴっかーん!!


と輝いていたので




ちょっとー!サユミー!と母に全力で叫ばれるまで


電話を耳から遠ざけて居た事に気付かなかったのだった。