「私もあのピンクの丸いヤツがほしい」
ヨシノはそういって空中をまっすぐ指差す。
「それがどういうものか、はっきりわかっているの?」
と
母は振り返って言う。
外は季節外れの陽気。
日曜の午後の日差しは手でつかめそうなくらい、明るく優しい。
ヨシノは応える
「はじめから結果がわかって居るものなど、
無いと思うわ。
失敗こそ、人を成長させると思うし、
だからこそ挑戦する事に意味が在る。」
誰も見ていないテレビには、車に乗り込む家族のcmが何度と無く流れている。
「あら、随分とはっきり断言するのね。
でも、母さんはそう思わないわ。
それには在る程度、自分の行動も操作できるという条件がつくと思う。
ルールが在る自由というのかしら。」
母はフキンで手際よく皿の水気を拭いていく。
ヨシノはそれに気付かずに、まだ空中を見ている。
「母さんもおもしろくない大人の一人なのね。」
ヨシノは若干低い声で言う。
「何を言っているの。母さんだってそんなころはあったわ。」
母は何故かとても楽しそうに、乾いた声で笑った。
「父さんに、紅茶淹れるか聞いてきて、」
母は仕切りなおしてヨシノに言った。