休日、昼下がりの表通りは人がひしめき合っている。

まだまだ暑い、9月初旬の街は夏を持て余し、淀んだ空気が渦巻いている。


遅い速度で歩いていると、遠くに何故か人が寄り付かない穴、のように、人の集合が薄いところが見えるではないか。
僕は特に気にならなかったのだが、その輪に近づくにつれて目が離せなくなっていた。
どうやら女の人が通りすがりの人々に何かを尋ねているらしい。女が揺れるその周囲には人が居ないのだ。


しかし何が人々を寄せ付けないのだろうか。近づくにつれて女の形相が明らかになってくると、無関心が一転する。

その女の髪は黒く、手入れをされてる風でなく、ただ生えるがままに肩に垂れている。 ピンクの麻のジャケットにTシャツ、ベージュのプリーツのスカート、白いパンプスという、特におかしくない服装だし、太って居るわけでなくむしろ細いくらいだ。

おかしいところと言えば異様に老けていて、とても疲れた顔をしている。遠目に見ても明らかだ。

その様子が、想像を、はるかに越えているのだ。

目は弛み、瞼が垂れ下がっている。目の下、脇のシワは数え切れないほど細く、ごく数本がひどく深い。口の端も生気なくへの字に地面にのびている。それだけではない。目は淀み、視線は少し先に
飛び続けるハエを追うがごとく安定せず常に動いている。
目は閉じられる事なく赤く濡れている。

思わず目をそらせず見続けて歩いていたのか気がつけば女が目の前にいるではないか。


女は僕を見るなり目を大きく見開き、いきなり右腕を掴み

「西はどっちか」

とだけつぶやいた。とても小さな声だった。
不意に聞かれたのだが、頭は冷静にそちらを指差していた。

「あっちだと思うのですがね…」

と応えると
掴んだ腕を放し、ゆらゆらと歩きだした。
2・3歩 進んだところで振り返った女の顔は、今の自分の彼女と同じ顔をしていた。

僕が酷く混乱した間に、女は雑踏に混ざって消えていったのだった。