【舞台観賞】「長井柚引退公演 ウェディングドレスと機関銃」 | ヒトデ大石のなんとなくレポート置場

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2011年8月「ヒトデ大石のどんなブログにしようか検討中。」からタイトル変更。
ライブイベント、舞台観劇のレポートを中心に書いていこうというブログ。
以前はmixiが主戦場だったけど、今はこっちが主戦場(笑)

11月20日。
 
都営三田線「御成門」駅から1分もないある専門学校。
 
出勤前の自分はここにいた。
 
その目的は「舞台」を拝見する事である。
 
 
大よそ5年以上前の自分を知る人は、当時の自分のもう一つのライフワークが【舞台観賞】だった事を知っている方も多いだろう。
 
月に数本、年間で10数本の舞台を観劇するような時期が数年続いていた。
今でこそ、年に一本、二本であるが、それだけ熱心に観ていた時期があった。
 
そんな最中、自分は一人の舞台女優と出会う。
 
 
彼女の名前は長井柚。
 
身長、僅かに139cm。
その小柄な体格と、当時演じた小学生役が印象に残って、当時のブログにも彼女の名前と共に述べている。
 
・【舞台観賞】「思いの鳥」(CAPTAIN CHIMPANZEE)
https://ameblo.jp/hitode0014/entry-11034540617.html
 
2011年10月……もう8年前の話である。
 
↑のブログを見て頂ければお分かりいただけるが、この時、当の柚嬢からコメントをいただいている。
 
それからだろうか……年に数回の頻度で彼女の出演する舞台に誘われるようになった。
 
可能な限り行けるところは行くようにした。
特に彼女が常連のように客演をしていたCAPTAIN CHIMPANZEEは良く観に行った思い出ある。
 
 
そんな彼女も数年前に結婚し、一線を退き舞台でその名前を拝見する機会が無くなった。
折しも自分も【舞台観賞】から離れた時期で、もう彼女の舞台は観れないかも……そう思っていた。
 
そんな彼女から今年に入り「引退公演」の知らせが入った。
 
ほんの少しの懐かしさと、久々に会える楽しみ、そして彼女が引退するという寂しさという感情がないまぜのまま、自分は会場にいた。
 
「音響芸術専門学校」
 
長井柚が過ごした専門学校。
彼女が最後に選んだのは母校の一階にあるステージだった。
 
 
前方に用意された座布団と、後方に用意された椅子席。
「ゆず」の帽子をかぶったスタッフたちが席の案内をする。
(どうやらご家族など身内が多かった模様。しかもその中の一人が彼女の旦那さんだった模様……)
壁には「柚の木」をモチーフにしたメッセージボードが用意されている。
そこに葉っぱの形をしたメッセージカードにコメントを添えて、貼りつける。
そしてBGMは少し懐かしいヒット曲の数々と……どこかで聴いたような声の主の歌声(笑)
 
まさに長井柚の世界がそこに広がっていた。
 
やがて開演時間となり、長井柚、最後の舞台の幕が上がる……。
 
 
それではざっくりとしたあらすじをば……。
 
 
引退公演「ウェディングドレスと機関銃」の公演を控える、長井柚(本人)。
楽屋でどこか落ち着かない様子で、ガウン姿のまま右往左往する。
 
知人からの電話の激励に元気を出すも、恩人である「いけちゃん」とは連絡がつかないまま、不安だけが募っていく……。
 
そんな折、楽屋に現れた宅配業者の女。
怪しげな日本語で、引退公演を控える長井柚に根ほり、葉ほり色々聞き出す。
 
突然、元々爆発しない時限爆弾を渡すなど挙動不審な面を見せたが、爆弾に使われた時計を見て柚は気づく……。
 
宅配業者の女の正体は!?
思わぬ再会を経て、長井柚が振り返る役者人生とは!?
 
そして引退公演「ウェディングドレスと機関銃」の行方は……!?
 
 
本当にざっくり(笑)
 
実は今回の舞台「ウェディングドレスと機関銃」という引退公演を行う、長井柚の控室での出来事を中心にして起きる出来事。
いわば「ウェディングドレスと機関銃」は劇中劇という扱いである。
 
ただこの公演の大部分を占める、控室の出来事の数々はまさに彼女のこれまでの人生を振り返る内容と言って過言でない。
 
自身の高校時代までの話。
専門学校に入って舞台女優を志した話。
数年前に結婚した話。
 
そして舞台女優を引退する決意に至った話。
 
 
まさに等身大の彼女がそこに詰まっていた。
 
そんな彼女に華を添えたのが、謎の宅配業者の女……「いけちゃん」こと池上映子である。
 
前述したCAPTAIN CHIMPANZEEの看板女優で、長井柚との共演も非常に多く、長井柚の舞台女優人生を語る上でなくてはならない人物である。
恐らく彼女をずっと観てきた方なら、最後の最後に共に舞台に立つ人物として、誰もが納得いく人選だっただろう。
 
そんな訳でこの公演、登場人物はこの二人しかほぼほぼ出てこない。
(自分が拝見した12時の回で、少しだけ舞台監督が現れたくらい。他の回は知らない)
 
途中、スライドでそのCAPTAIN CHIMPANZEEでの場面がスライドショー形式で映し出される。
本当に色んな役をやってきた事を思い出す。
様々な思い出と共に、長井柚にとって「師匠」とも言って過言でない尊敬する大先輩と共に、舞台女優として最後の舞台に立つ……。
 
この二人の関係性を知っていれば、こんなに泣ける展開は無い。
 
そんな池上映子の台詞の中で一つ印象的な台詞があった。
 
終盤、池上映子が用意したウェディングドレスに、長井柚が着替えるシーンでの台詞。
 
「あなたがこれからの人生を幸せになる事で励まされる人がいる。
 だからあなたは、これからの人生も幸せになるために頑張れ」
 
……という趣旨の台詞。
(流石に細かいところまでは覚えていないけど、ニュアンスとしてはこんな感じ)
 
池上映子からの舞台を降りる彼女に対する、何よりのはなむけの言葉だと思う。
例えこれが脚本に書かれた台詞だったとしても、これ以上無い台詞だったと思う。
 
恐らくこういう事を言って絵になるのは、池上映子以外には考えられなかった。
 
そしてこの台詞の後、ウェディングドレスに着替えた長井柚は「ウェディングドレスと機関銃」という、役者人生最後の一人舞台に……人生最初にして最後の主役に臨む事になる……。
 
これも劇中で言われていた事だけど、長井柚は役者人生において「主役」級の役がほとんど無かった。
 
そんな長井柚、役者人生において最初で最後の主役の場面は……ほんの数分だった。
だがそのラストシーンで見せた、どこかおどけたような満面の笑顔が、今でも脳裏から離れない。
 
 
こうして長井柚の舞台女優として最後の舞台は幕を閉じた。
(厳密には、自分が観た後の2回の公演は残っていたが)
 
上演時間は大よそ40分だが、それ以上の時間をかけて、長井柚はこの日訪れた、一人、一人の客に声を掛けて挨拶していく。
 
私生活でも親交が深いであろう人、恐らく関係者と思われる方、そして自分のようにかつて彼女の舞台を観続けた人……様々な人がいただろう。
この引退公演は彼女にとって、舞台女優としての「締め」でもあり、そしてこれまでお世話になった方に対する挨拶の場でもあったのだろう。
 
そして長い時間をかけて、自分の前に彼女は現れた。
久々に対面した彼女はやはり小柄だった。
 
恐らく正味、話をした時間は数分だっただろう。
だけど数年ぶりだけど短い会話を通して、様々な思い出が瞬時に蘇ってきた。
 
話をしていて、彼女が引退するのがどうにも信じられなかったし、またどこかで会えるような気がしてならなかった。
 
実際、彼女とのこの日の別れ際の挨拶は「またお会いしましょう」という言葉だった。
恥ずかしながら彼女にその言葉の真意について聞いてみた。
 
すると彼女からは「また劇場で」という言葉が返ってきた。
また劇場で……役者を引退しても、観に行った舞台で客同士として会う事も……。
 
そういう趣旨の言葉だった。
 
確かに今後、彼女が舞台に立つ事はないだろう。
だから狙って彼女に出会える可能性はほぼ無いだろう。
冒頭で話した通り、昨今、自分の観劇のペースは激減している。
 
下手すれば今生の別れになる可能性だってある。
 
それでも彼女は「またお会いしましょう」と言って、自分と最後に言葉を交わした。
 
ちょっと嬉しくもあり、少し切なくもあった。
だけど少なくとも彼女の中では、自分は舞台を愛する客の一人、ヒトデ大石のままだったと前向きに捉えている。
それ故のその言葉だったと思っている。
そういう意味では舞台女優・長井柚とは最高の別れが出来たと自分では思います。
 
こうして彼女との挨拶を済ませ、自分はその場を後にしました。
 
その後も彼女は、自分の次に待っていた人と、また話をしていた。
こうして彼女はこの日、多くの人に舞台女優・長井柚としての別れの挨拶を繰り返していった……そう思います。
 
 
 
そんな彼女から会話の最中、最後に一つだけお願いされた事がある。
 
それは【舞台観賞】のレポートを書いて欲しいというものだった。
 
近年、ご存じの通り、舞台についてのレポートは書いていない。
 
数少ない観劇も全て、Twitterで短く所感を述べるのみとなっている。
 
だけど……最後に彼女が望んだ事ならば……という事で、今、このレポートを執筆している。
 
もっとも引退公演からもう半月以上経ってしまった。
割と記憶も曖昧な部分もあっただろうし、以前と比べてあらすじをなぞる作業は極端に下手になってしまった。
 
それでも彼女は喜んでくれるだろうか?
期待に沿えない内容ではないだろうか?
そんな心配をしながら、今、締めの文章に取り掛かろうとしている。
 
 
それでも今回、このレポートを読んで知って欲しい事がいくつかある。
 
かつて自分が偶然出会って応援し続けた、同郷出身の「小さな大女優」がいたという事。(偶然ではあるが出身地はお互いに近い)
そんな彼女が引退公演当日、30歳という人生の一つの節目を迎えて、舞台女優を引退したという事。(実は11月20日は彼女の誕生日でした)
 
そしてこれからは……一人の女性としての幸せのために、一所懸命生きていくことを誓った事。
 
それだけは伝わって欲しいと心から願う。
 
最後に長井柚の一人のファンとして、以下の言葉を贈り、このレポートを締めます。
 
 
 
今まで素敵な舞台をありがとう……長井柚。
そしてこれからの人生を頑張れ……増田柚。