昨日早朝。
時計の針は5:30程であっただろうか。
普段であればまだ夢の中であったが、その日は違った。

ブログで度々登場してはいるが、僕には4つ下の妹がいる。
その妹が珍しく部屋に入って来て僕を夢の世界から引き戻したのだ。

妹は世界の終焉を目の当たりにしたかのような顔で言う。

「ちょ、虫っ!虫おる!」

いつの時代も女というものは虫が苦手なものだ。
虫の一匹や二匹ぐらい自分で始末できるほどになって欲しいものである。


僕は深く溜息を吐き布団を出た。

眠たい目を擦りながら妹の後を追いリビングに入る。
少し大きめのテレビがあり、ソファがある。
どこの家にもある普通のリビングだ。


だがしかし、その時のリビングは普通ではなかった。
いつもと同じ筈なのに何かが違う。
具体的には言えないのだが、いつもの雰囲気とは一変して異様な雰囲気で部屋中が包まれていた。


妹は立ち止まりドアの影に隠れ、指を壁の方に向ける。
その指が差す方に目をやるとそいつはいた。
一目でわかったよ。
そいつがただの虫じゃないってことは。


湾曲した長い触角、禍々しい漆黒の装甲。







彷徨える黒い弾丸
ゴキブリ







有利な個々の変異を保存し
不利な変異を絶滅する
ー チャールズ・ダーウィン




生物とはその環境に合わせ進化していく生き物。
が、しかし、彼等ゴキブリは3億年もの間、一度も姿を変えていないのである。
これはどうゆことか…。

そう、多くの生物が生き、絶滅していった過酷な環境ですら彼等には生ぬるいということである。


言わずもがな彼等の瞬発力、跳躍力は害虫界でも随一。
まさしく黒い彗星。
さらに自重の50倍の物を牽引するほどのパワー、そして恐るべき生命力を持つのである。

野球選手であれば走攻守揃った最高の選手であろう。

だが敵は害虫の王ゴキブリ。
決してここで逃してはならない。



目標を12時の方向に捉え、右手に新聞紙、左手に対G用殺戮兵器ゴキジェットプロを握る。


どれくらい時間が経っただろう。
僕と害虫の王は静寂に包まれる。
いざ対峙すると恐ろしく強大に映るものである。


相手は3億年と姿形を変えていない生きた化石。
だがこちらは500万年の歴史と言えど、幾度となく進化して来た人間。

僕の肩には人類500万年の歴史がズッシリとのしかかっていた。


ここで負けてはならない。
負けてしまえば500万年の歴史が無駄になる。
さらにここでこいつを取り逃がしてしまえば、人類の存亡に関わる大事になりかねない。
今こそ鬼神となって闘う時。




今こそ人間とゴキブリの争いに終止符を…。





その時、突如として静寂を切り裂く声。








「全てを無に帰してやるっ!」
「てぇやぁぁぁあああっ!!」





人の声。
いや、僕の声だ。


僕は叫び渾身のゴキジェットプロを発射していた。




…。






ゴキジェットプロ恐るべし。
噴射口から発射されたその刹那、ゴキブリは呆気なく散っていった。





僕は身を切り裂くような緊張感から解放され、安堵の表情を浮かべる。


死闘は終焉を迎えたに見えた。
だが、妹の発言により再び絶望に突き落とされるのである。

「1匹ゴキブリおったら30匹おるらしいで。」



この家は日々の掃除の甲斐あってゴキブリとは無縁だと思っていた。

しかし約5年振りの彼等の出現。
そのゴキブリはただの先遣隊。
どこかに30匹。
いや、それ以上が住まうゴキブリの巣窟と化してしまったのだ。
僕は膝を付き天を仰いだ。




戦いは今まさに始まったばかりだと知る。
全ては序章に過ぎなかった…。





僕は心に決めた。



害虫どもめ、一匹残らず駆逐してやる。




To be continued…