最近すっかり昼寝が習慣になってしまったりすこです。
お出かけしたくてたまらんのだが…
おのれ、コロナめ…
そんなわけで本をせっせと読んでおります。
読んでも感想を書いたり書かなかったりですが、
今回は書いてみようかな。
あのカササギの続きが出ると聞いてとっても楽しみにしてた『ヨルガオ殺人事件』。
以下ヨルガオ、カササギの両作のネタバレを大いに含みます。
ご注意を。
『カササギ殺人事件』は私にそれはもう、大変な衝撃を残していきました。
ミステリーの中にまたミステリー!?
確か解説に入れ子式ミステリーと評されていたんだけど、まさにその通り。
作中作ってまあ珍しいものではないけど、一本丸々入っちゃってるのすごくね?すごいよね!すごく面白い!という衝撃が一つ。
もう一つはアラン作の暗号、ピュントシリーズの作品名の頭文字を繋げると「アナグラムとけるか」という挑発的な言葉になること。
これに気づいた時の私は、めっちゃ喧嘩売られてる!と思いました。
小説に煽られたのって初めてだったから…
そのアナグラムがちょっと日本人には解けないものだったのは残念でしたね。
せめてスペルぐらいわかればと歯噛みした記憶。
ヨルガオを手に取り、私は最初にページをぱらぱらめくりました。
作中作、またあるのかしら…
ありましたね!
『愚行の代償』!!
「アナグラムとけたか」の「グ」を読めることに私はささやな感動を覚えました。
そしてホロヴィッツさん、ピュントシリーズは全部書いてくれ…と密かに願った。
カササギが上下ですっぱり分かれていたのに対して、愚行はヨルガオの上巻の三分の二あたりから始まるので、ヨルガオの方が入れてある感が強かったな。
ちょっと何を言ってるのかわからないですね、すみません。
ギリシャでアンドレアスと幸せに暮らしているスーザンが今更事件に巻き込まれるなんて…と思っていたら、そうハッピーそうでもないことにびっくりした。
…こんな状況が、わたしとアンドレアスの関係に影を落としているのは当然のなりゆきだろう。
まじですか。
とはいえ、実をいうと、わたしたちは結婚しているわけではない。
…えー…まじですか…
カササギの終盤、私などはアンドレアスの男気にぐっと来たのに…
アンドレアスはとってもいい人だし、ヒーローみたいにスーザンを助けてくれたのに、彼女はそれに応えなかったように思えてさ。
今回、スーザンは行く先々で嫌われている。
アンドレアスとの関係をうやむやにして、置いてくみたいにイギリスに戻ったスーザンを私は好きにはなれないんだけど、それでも同情しましたよ。
スーだって乗り気なわけではないのに。
温かく迎えてくれたのは妹のケイティと作家のクレイグぐらい。
よく投げ出さずに頑張りました。
それもこれもアンドレアスの力が大きいんですけどね。
探偵が嫌われ気味、といえばホロヴィッツのホーソーンシリーズの方がひどいかもしれない。
すぐ目の前にあってーーわたしをまっすぐ見つめかえしていたの
『愚行の代償』を読み終えたセシリアはそう言い残して失踪したというので、私もこの作中作を何度か読み通したよ!
読んでみてわかったことは…よくできたストーリーだということ。
これ一本で間違いなく本格ミステリーなのに、惜しみなく作中作にしてしまうなんて…
ホロヴィッツさん、すごいよ…
時系列で並んだ出来事に辻褄の合わなさを感じ、真実を見つけ出すピュント。
さらに第二の殺人の犯人まで、わずかなヒント(これも日本人にわからないところもあるけど)から見事に言い当てる。
いや、本当にもう、立派な一冊の本ですって。
そんな『愚行の代償』にメタ視点で色々注文つけるスーザンもすごいや…
いや、編集者だから当たり前なんだけど。
そして私は案の定、レオにも散りばめられたライオンにも気づかなかった。やっぱりね。
あとはなんといってもアンドレアス!
少年漫画の主人公かよ!!
スーザンのピンチには颯爽と駆けつけてくれる!
…そのとき、何か黒っぽい影が動き、誰かがわたしに体当たりしてきた。
玄関の近くに立っていた男性だ。
その腕がわたしを抱きかかえ、わたしの胸を肩に乗せて、まるでラグビーのタックルめいた体勢で、危険な位置から遠ざかるように倒れこむ。
あ、スーがヒロインなのかな?
ホテルをほっぽって迷わず来てくれたアンドレアス…
どんどん株が上がるよ。
それしてもアンドレアスのパソコンの不具合も思い出さず、メールの返事がないことをもやもやしてふわふわしていたスーザンよ…
ヒースハウスの嫌な夫婦の不自然な振る舞いの理由も上手いなと思う。
なるほど、自分を犯人のように匂わせたマーティンか。
でも実際にフランクを殺してないわけだから、捕まることはない。
殺人事件をうまいこと利用したつもりだったから、スーがどうにも目障りだったんだね。
レオが誰なのか。
非協力的な人物ばかりの中で、ただ会話の中から真実を手繰り寄せるスーザンは探偵の素質があると思う。
相手の言葉の中のちょっとした違和感を敏感に感じ取るのは、言葉を扱う編集者だからなのかな。
私なら確実にスルーする上に、あとから思い出そうとしても思い出せないみたいな…
全然だめじゃん…
レオ=エイデンで、エイデンがフランクと知り合いだったことやエイデンの過去は仄めかされていた。
仄めかすというよりほんのり漂わせるぐらいかもしれないな。
ミステリーを書く人はみんな持ってるこの技術、すごいですよ。
そして何より『愚行の代償』が『ヨルガオ殺人事件』を解決するためのヒントにちゃんとなってることがすごい。
面白い作中作ってだけじゃないんだよ!
ちゃんと鍵になるように書いてるんだよ!
すごい…すごいしか言ってない。
そしてさ…
『愚行の代償』の第二の犯人マデレン・ケイン(Madeline Cain)がエイデン・マクニール(Aiden MacNeil)のアナグラムだと明かされた時の私の気持ち…
まさにやっちまったー!です。
だってこの二人はちゃんと英語表記もされてたじゃないですか!
スペルのわからない私のために!(違う)
アナグラムまたとけなかった、です。
悔しい。
最後に本当に細かいところだけど、スーザンがピュントについて思うシーンがなんとなく好きなんです。
ーーそれでも、この部屋のどこかにピュントがいるという奇妙な感覚を、わたしは拭い去ることができずにいた。
空いている椅子のひとつに腰をかけ、杖をかたわらに立てかけて、わたしが口を開くのを待っている姿が、まざまざと目に浮かぶほど。
わたしが事件にとりくむときの姿勢ーー関係者から話を聞いたり、証拠を調べたりーーは、どこかピュントやそのご大層な著作『犯罪捜査の風景』の影響を受けていると、しばしば思うことがある。
結局のところ、わたしはかの探偵に、温かい気持ちを抱きつづけているのだ。
自分にとって、ピュントこそは師のような存在なのだと。
しょせん架空の存在にすぎないうえ、そもそもの生みの親である作家は大嫌いだったことを思うと、どうにもおかしな話なのだけれど。
私もスーザンに同意。
世の中にはいろんな探偵がいるけれど(いろんな探偵小説があるけれど)、ピュントは私も好きな探偵。
紳士で物腰は柔らかいけど、頭は切れて優しくて、嫌みなところがなくて…
よくミステリー小説に出てくる探偵にありがちな変人、奇人な面は全然ない。
アランがこの人を大嫌いだと思いつつ、何作も作品を送り出した挙句、最後にピュントの名を傷つけようとしていたことはひねくれているとしか言いようがない。
それでもアランが生み出したものの中でピュントは唯一温かいものだって気がする。
ピュントシリーズはこれからも新たな殺人事件の火種になったとしてもね。
あとは創作物の登場人物に勇気をもらったり、励まされたりすることは全然おかしくないんだなと改めて思った。
この世界に生きていないキャラクターでも、力を与えてくれることはあるんだなと。
ピュントに励まされるスーザンもまた小説の登場人物に過ぎないんですけどね。