白熱した駒音が広い和室に響く、周りには静かに見守る中に入れる権利をもつ準決勝以上2部決勝以上の、親御さんたちとスタッフ。大きなテレビカメラが入っていた時間もある。そろそろスポンサーと棋士の先生方も表彰のために集まっていることだろう。
必死の息子に対し、序盤優勢をとれたお相手は心の緩みがあったようだ、余裕の表情に徐々に焦りが生まれる。
遠目から見る僕にとっては因縁のライバル対決(倉敷の時は当たることがなかった)、妻も何よりもこの対戦を心待ちにしていた。はっきり決着をつけてほしい。
緩んだ相手は軽いミスを繰り返したようだ。
ただし、軽いミスは将棋の世界では致命的な差となって現れる事が多い、自分と全く同じ力をもった駒たちが攻めてくるのだ、ワンミスが命取りになるのはプロの世界では当たり前、アマでも強豪になればなるほどそれが顕著だ。
いつの間にか盤面の形勢はひっくり返されていたようだ、ふたりともまだまだ伸びしろのある低学年。僕の持論だが、究極に磨いた球は大体小学5年くらいから、磨くところがなくなってきて探しまわって磨かなければならなくなる。はやくから磨けば磨くほどに。本体局のふたりは、まだまだ磨き放題だ、もうそのへんの大人ではかなわないのに。
優勝を決めた息子は感想戦のあと軽い足取りで受付に報告に向かう。そして笑顔でぼくのところにくる。
そして、
「お父さん、勝ったよ!」
…いつものひとことだ。
了
⑥(蛇足なおまけ)へつづく