青年は山奥で倒れていた。
何故倒れているのか、
自分でもわからない。気づいたら
倒れていた。
ただわかることは、もう、助からない
ということだけだった。
「(もう・・・だめか)」
そのまま、青年は目を閉じた。
目を覚ますと、そこは白い世界だった。
白いベッド、白いシーツ、白い壁・・・
青年はここが病院だと言うことを
理解した。
ガラガラガラ
「お、目を覚ましたか。どうだい?調子は」
「はい、だいぶよくなったと思います」
そう言いながら、青年は思った。
(この人、誰だ?)
全く知らない人だった。白衣も着ていない。
年齢は見た感じ40はいっていそうだ。
「きみ、あんな山奥で、一体何を
していたんだい?」
「山・・・奥?」
「なんだ?覚えてないのか?君、
山で倒れてたんだぞ。傷だらけで」
そういえば、体の傷が多いな、と青年は
今更ながら思った。
ガラガラガラ
「おし、起きてる起きてる」
ドアが開かれ、また男の人が入ってきた。
しかし、今度はちゃんと白衣を着ていた。
年齢は30くらいだろうか。
医者と思しき男は、青年の目の前にいる
男にも目を向けて、話しかけた。
「美杉さん、お疲れ様です。そろそろ
診察に入らせてもらって
構いませんか?」
「ああ、もう済んだよ。待たせてしまい
すまないな」
「いえ、大丈夫ですよ。それじゃあ
行こうか」
「あ、はい」
ガラガラガラ
「ふう」
病室に戻ると、あの男が待っていた。
「お、きたきた。随分と長かったな〜」
そう言われて、病室の時計をチェック
してみた。もう12時前だ。出たのが
確か8時前後だったから、実に4時間も
経っていた。
「はい。実はいろいろ問題が
ありまして・・・」
「その問題だが・・・もしかして、
記憶喪失のことじゃないか?」
ズバリと言い当てられ、動揺する。
男の言う通り、青年は医者から記憶喪失
と言われていた。ちなみに、診察に
長時間かかったのも、九分九厘
記憶喪失の検査でドタバタしたからだ。
「あ、あの・・・記憶喪失であることが
わかったり、朝早くから病院にいたり、
あなたは誰で、どういう人何ですか?」
そう訊くと男はキョトンとした顔に
なって、小さく笑いだした。
「ハハハ、そうだった、まだ自己紹介も
してなかったな。私の名前は美杉信幸。
城北大学で心理学の研究をしている」
そういいながら名刺を渡してきた。 受け取ると確かに城北大学心理学専攻
教授と書かれていた。
「ほう、文字が読めるのか。君の
記憶喪失はどうやら全てを
忘れている面倒なタイプじゃ
なさそうだな」
「はあ」
「記憶喪失にもいろいろあるんだよ。
特定のものだけ思い出せない一時喪失、
何もかも忘れる全喪失、とかね。私が
ここに来たのは木野先生・・・さっき
の先生ね。その人に、君に記憶障害が
あるかもしれないから、少し力を
貸して欲しいと頼まれたから何だよ。
で、君の名前は?」
「すいません、実は自分の名前を
忘れてしまって」
さっきの診察でわかったことだが、
青年は自分の名前を覚えて
いなかった。
「あ、でも食事マナーとかは
覚えていますよ」
「ん?ということは食事以外にも
交通ルールなどもわかるのかい?」
「はい。さっきの診察で何を憶えていて
何を忘れているのかわかりましたから。
僕の場合、忘れているのは自分自身の
ことだけで、生活ルールなどは
憶えて・・・」
キーン
そのとき、青年は不思議な感覚を
味わった。いきなり音がしたのだ。
しかし耳で聞いたというより、体で
感じた、という感じだ。これが何を
意味するのかはわからない。だが、
不思議と自然に体は動いていた。
「すいません、トイレに行ってきます」
「ん?ああ、行ってらっしゃい」
その言葉はもう耳に届いてはいなかった。
青年がきた場所は、病院の焼却炉の近く
だった。そこに人はいなかった。
代わりにいたのはチーターの様な姿を
した謎の生き物だった。普通の人
ならばまず、驚くだろう。なにせ
二本足で立っている。おまけに動物
とは思えない異形な歯。では、
驚いたあとは?人は直感的に理解する
だろう。殺されるということに。
しかし、青年はそんな怪物を見ても
全く動じず、慣れた手つきで右拳を
前方に突き出し、自身の体に近づける。
すると、ベルトらしきものが出現
した。さらに右手を伸ばしながら
静かに言った。
「変身」
そして両手をベルトの側面に当て、
ボタンを押した。すると、青年の体
は光に包まれた。光が晴れた時には
もう青年の姿はなかった。代わりに
いたのは敵とは別の異形の戦士だった。
角が2本生えており、目は赤く
よく見ると昆虫の様な複眼だ。全身は
黒を基調とした色で、上半身や腕には
金色の鎧の様なものが付いている。
謎の異形戦士はチーターの怪物に
ゆっくりと近づいていく。敵は
ようやく異形戦士に気づいたようだ。
しかし、気づくのが遅かった。
異形戦士は怪物の顔を3回殴った。
その後怪物の腹に蹴りを加えた。
簡単な攻撃だが威力は充分で、怪物は
うめき声を漏らした。
今度は怪物が反撃に出た。しかし、
どんな攻撃も異形戦士には
効かなかった。
そこで怪物は一度体を縮め、何やら
力をため込むような素振りを見せた。
次の瞬間怪物は超スピードで
突進してきた。力単体の攻撃では
異形戦士にダメージを与えることが
できなかったが、スピードも
上乗せして、異形戦士はダメージを
受けた。その後も怪物の超スピード
攻撃は続いた。スピードについて
いけない異形戦士は大きくジャンプ
して、焼却炉の上に乗った。怪物は
ジャンプしても焼却炉の上には
届かなかった。その間に異形戦士は
変身した時と同じポーズをとった。
するとベルトが変わった。基本的な
造形は一緒だが、中央の円形部分が
さっきは金色だったが、今度は
青色に変わっていた。もう一度右手を
伸ばした。その後、異形戦士に変身
した時と同じようにベルトの側面の
ボタンを両手で押した。すると、
また異形戦士は光に包まれた。光が
晴れると、異形戦士の姿が少し
変わっていた。基本的なスペックは
変わらないが、腕以外の鎧部分の色が
金から青になっていた。
姿が変わった異形戦士はベルト中央の
円形部分から薙刀の様な物を出現
させた。そして焼却炉から飛び降り、
怪物の前に立ち塞がった。
怪物はまた身を縮め、力をため込もうと
した。その隙を異形戦士は
逃さなかった。薙刀を思いっきり怪物
の左肩に突き刺した。
「グギャ!」
怪物は悲鳴を上げて後ろに倒れた。赤い
血が止まることなく流れてくる。
異形戦士はその間に鎧が金色の元の姿に
戻っていた。しかし角の本数が
増えていた。最初は2本だったのが
今では6本になっている。
次の瞬間、地面に謎の紋章が浮かんだ。
角らしき物が6本生えている。
異形戦士は怪物の様に身を縮め、次に
大きく飛んだ。そして右足を前に
突き出して怪物目掛けて直進した。
蹴りが怪物にヒットし、そのまま貫通
した。その時、怪物は呟いた。
「ア、アギト・・・」
怪物は爆散した。
続く
