中国のとある高校の職員室で不思議な出来事が起きた。

 

”あの、先生、何でしょうか”。色白な女子生徒が後ろ手で大きな鞄を引っ提げながら職員室に入った。

 

”李さん、職員室に呼びだしてすまないが、原因はもう分かってるでしょう”。顔立ちの整ってる女教師が微笑みながら言った。

 

”は、はい。。。やはり、髪のことですよね”

 

”わかってくれると話が早いわ”。若い先生が穏やかな物腰でパイプ椅子に座って、李さんという生徒が必死に背後に隠そうとしてる鞄に視線を注いだ。

 

”そこにシートが敷いてあるから、遠慮なく君の髪の毛を鞄から出して、シートの上に置いてね”

 

”それは、ちょっと。。。”。李さんがためらった。

 

”何か不都合でも?”

 

”わ、私の髪は、長すぎて。。”

 

”だから見せてと言ってるのよ”。優しそうな口調とは裏腹に、何か有無を言わせない威圧感がありありと美人先生の弧を描いた唇から滲んで出る。

 

”転校してきて早々悪いが君の髪の毛が目立ちすぎて教師としては見過ごせないわ”。先生がデスクから一冊の本を取り出して、太ももの上で広げた。”。うちの高校では生徒の髪型に関してかなり厳しい校則があるんだから、これから君の髪の毛は校則違反に当たるかどうかを審査する。早くしていただけると助かるわ”

 

李さんは仕方なく鞄を床に置いてからゆっくりと鞄から自慢の三つ編みを取り出し始めた。

 

あんまりにも長すぎる三つ編みだから、シートの上には三つ編みの塊が見る見るうちに出来上がっていって、そばで見てる先生も思わず目を見張ってしまった。やがてシートの半分以上が黒一色に覆われた。

 

シートがやや小さめのせいで、10メートル以上もありそうな三つ編みはシートから床に零れそうなので、李さんは優しく自分の三つ編みをシートから持ち上げて、右肩に載せた。

 

それだけでなく、右肩から長々と床に向かって垂れてる三つ編みを膝下くらいのとこでまた折り返して、左肩に載せてからまたもそのまま三つ編みを垂らして、今度はまっすぐにシートに触れた。三つ編みの一部を自分の体に載せたおかげで、シートの上の三つ編みの一部は窮屈しなくなった。

 

 

この一連の動きはあんまりにも現実離れした光景だから、美人の先生もただただ驚いてばかりで、口に手を添えたまま一言も発さなかった。

 

身長の数倍よりも長い自分の三つ編みをこうやって無防備に職員室という公な場所で大っぴらにさらけ出した李さんはこれから何が起こるのかわからないままただただ大切な三つ編みを守ろうとする一心でその場で固くなっている。

 

万が一の場合、自分でこの三つ編みを守る!と心の中でそう決心したことでしょう。

 

か弱い女の子一人で10メートル以上もある超長い三つ編みを守るにはさすがに無理がありすぎた。

 

”こ、これは。。。”先生も口ごもってしまった。

 

”先生、お願い、どうか私の髪だけは。。。”李さんは涙声で先生に助けを求め始めた。

 

劉佳というこの美人先生は李さんが転校してきたその日に李さんの鞄に気付いてた。頭の後ろから一本の三つ編みがすらりと鞄に入ってるとこから想像すると、まさかその子の三つ編みは身長よりも長いから、その三つ編みを床から遠ざけるがためにわざわざ三つ編み用の鞄を用意して登校してるってことはあり得るかなと劉先生は思った。

 

もしかして3メートルもあるんじゃないかなと劉先生は想像したけど、李さんは転校してから一度も自分の三つ編みの全体を鞄から取り出したことはなかった。

 

教頭先生も李さんの不思議な姿に気付いて、学校で鞄を引っ提げての出で立ちは容姿的にはちょっとと劉先生にほのめかしてたから、劉先生がその生徒を説得してその胡散臭い鞄を学校から消すというミッションを得た。学校で一番若い女教師だから話しやすいと教頭先生は思ってるでしょう。

 

でも実際に目の前に李さんの三つ編みの全体を見て、その長さに気を取られて何も言えなくなった劉先生が職員室にいた。

 

”先生、お願い、どうか私の髪だけは。。。”、李さんの声で気を取り返して、震えてる手で校則集をぺらぺらと捲ってみると、校則の中では生徒の髪の毛の長さに関しての校則はないことに、劉先生は気付いた。

 

さっきの’うちの高校では生徒の髪型に関してかなり厳しい校則がある’っていうのは劉先生の適当に口走った嘘で、教頭先生も言ってたんだからその手の校則はあるんでしょうねと高をくくったに過ぎなかった。

 

可哀そうに自分の長ーーーーーい三つ編みを手で撫でながら視線を寄せてくる李さんの姿には劉先生にとって一種の神々しささえ現れてきた。

 

”つまらないことかもしれないけど、その髪は本当?”。劉先生はやっと声を出せた。

 

”うん、本当の髪です。。。”。と李さんはまた涙声で返答した。

 

”信じられない。10メートルもあるんでしょう”

 

”12メートルもあるんです。三つ編みに編むと、11メートルくらいになるんですけど”。髪の毛の長さについて話してると、なぜか李さんの声がちょっと明るくなった。長さは相当な自慢のようだ。

 

”正直驚いた。こんなにも長い髪が存在するなんて、リアルラプンツェルと呼ぶべきか”

 

”それは。。。”李さんが赤面し始めた。

 

”校則では”

 

”。。。”李さんの顔がまたこわばってきた。

 

”残念ながら、生徒の髪の毛の長さに関する内容はないわ”

 

”それなら。。”

 

”そう。肩より長い場合、一つに束ねることとだけ書かれてるよ”

 

”じゃ、私の三つ編みは。。”

 

”校則違反には当たらないのね。おめでとう”

 

”ありがとうございます、先生!”。今度こそ、李さんの目元には涙が滲んで出る。

 

”でも、その鞄だけはちょっと”

 

”鞄ですか?でも鞄がないとちょっと。。”

 

教頭先生のお話も無視できないから、残念だけど、劉先生は鞄だけは取り上げるつもりでいた。

 

”これから鞄なしで登校してもらわないとダメみたいだけど、いいかな”

 

”う、うん。頑張ります”。辛うじて切らずに済めたんだから、これくらいはと李さんは考えてた。

 

”そういえば、君は三つ編みの一部を肩に絡めてるけど、いっそのこと、三つ編みを全部体にグルグルと巻いたらどうかな”。劉先生が提案を出してみた。

 

”それは。。。”。李さんにとってやったこともない自分の三つ編みの運び方のようだ。

 

”せっかくだから、手伝いましょうか”。劉先生がパイプ椅子から立ち上がって、李さんの後ろに立って、シートから李さんの三つ編みを持ち上げて、優しく三つ編みを李さんの体に巻き付けた。

 

初めは美人の先生に自分の三つ編みを握られて緊張感を漂わせた李さんなんだが、劉先生の優しい手付きに安堵して、大事な三つ編みを全部劉先生に委ねた。

 

何周巻いたことか、やっと三つ編み全体を李さんの体に載せられた。

 

”これでよし”劉先生は微笑しながら自分が仕上げた’芸術品’を鑑賞した。

 

この日から、この高校では、またも伝説的な光景が現れた。