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                                  2023年2月1日
                                   VOL.459
                   評 論 の 宝 箱
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 第459号・目次
 【 書 評 】  亀山国彦 『ニュース ダイエット』
             (ロルフ・ドベリ著 安原実津訳サンマーク出版)          【私の一言】  加藤 聡 『高齢者の「遠吠え 』



【書 評】
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◇                  『ニュース ダイエット』
◇      (ロルフ・ドベリ著 安原実津訳 サンマーク出版)
└────────────────────────────────────┘
                                 亀山 国彦

 著者は1966年スイス生まれ。30代前半にスイス航空の子会社数社でCFOやCEOを務め
た、現在は作家、実業家として活動している。
主要著書に「最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法」「誤っ
た先入観を捨て、より良い選択をするための思考法」等があり、本書も「思考法改
善」に関するものである。

 著者の言う「ニュース」とは、「短くまとめられた世界各地からの情報」で、例え
ば、オーストラリアのバス事故、ガテマラの地震、大統領Aが大統領Bと会談、女優C
がDと破局、イタリアの内閣改造、贈収賄スキャンダル、クーデター等々である。こ
のような「ニュース」を見聞き(消費)した場合の問題として著者は次の点をあげ
ている。
・これらの「ニュース」は自分の人生や家族、キャリア、健康やビジネスに関して、
より良い決断を下すのに役立ったことはあるまい。
・脳はどぎつい「ニュース」に過度に反応する。
・「ニュース」は「時間の無駄」である。まず、「ニュース」を読むのに時間がか
 かり、「ニュース」に気を逸らされる前までしていた何かに再び集中するまでの
 時間が無駄になるし、「ニュース」の内容や写真は時間が経っても頭の中をさま
 よって思考を妨げるからである。
・「ニュース」を消費すると、自分は世界を理解しているという錯覚に飲み込まれ、
 「自信過剰」に陥りやすくなる。だれでも「自分のお気に入りの見解に反する情
  報」は自動的に排除する一方で、「自分の核心を後押しする情報」には敏感に
  なるが「ニュース」はこのような「確証バイアス」を強化する。
・他方、長い形式のものー-新聞や雑誌の長文記事、エッセー、特集記事、ルポル
 タージュ、ドキュメンタリー番組、本などは「ニュース」の対極にあり有益であ
 る。しかし、「ニュース」を消費すると、脳の生理的な構造が徐々に変化してしま
 う。短い情報にざっと目を通すときに必要な脳の領域を鍛えることになる。そして、
 それに伴い、長い文章や、思考をつかさどる回路は退化する。かつては大の読書家
 であっても4~5ページ読むと疲れてしまうのはこのためである。

 このような問題を回避し、より良い思考法を取り戻すために「ニュースを断つ」こ
とが必要で、まず30日間一切の「ニュース」を見ない聞かないことに挑戦すべきであ
る。それが極端すぎると感じるならば、日刊でない週刊誌(新聞)1誌だけに絞って
1時間だけ読む、次の段階で毎号決まった数の記事だけを読むことを著者は勧める。
「広い知識」よりも「深い知識」が得られるだろうと主張する。

 日に何回もテレビニュースを視聴し、長い文章を読むのに苦痛を感じている評者は、本書に刺激されて「ニュースダイエット」を試みたが、とても「断つ」ことは出来なかった。ただし、テーマを絞ることによってある程度「深い知識」に近づくことは出来たように思う。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

             『 高齢者の「遠吠え」 』
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                                  加藤 聡

  過日 携帯電話の機種変更のことで電話会社のショップに相談にいった。そこで勧
められたのは、携帯電話は日進月歩だから、少々値がはってもできるだけ多機能化に
対応できるようなものがよい、ということだった。おすすめ機種は10万円を超える
という。
 私のような高齢者(80歳代半ば過ぎ)にとっては、携帯電話はせいぜい通話、メー
ルのやり取り、地図による待ち合わせ場所確認、ルート確認くらいであって、近頃普
及しているいわゆる「おサイフケータイ」などは、使えば便利だろうとはわかってい
ても、使うのに尻込みしてしまう。

 考えてみると、近時携帯電話に限らず、AI、IT、SNS、メタバース、サイバー空間、
スタンドオフ(防衛能力)…と新しいことばが次々に使われるようになったが、高齢
者はとてもついていけない。また省力化、合理化の名のもとに、利用する側の意向を
確認することなく、一方的に変更されていくことも多い。

 高齢者にとって身近で不都合な現象を思いつくままに列挙すれば、
・銀行の最寄りの支店が次々と統廃合により、なくなっていくこと
・銀行の預金通帳の廃止、ネット取引への移行の推奨
・健康保険証のマイナーカードへの移行
・スーパーマーケットでのレジの縮小
 (買い物客自身が商品の袋詰めや代金の精算をする)
・カード払いの奨励
・ポイント制度利用の推奨 など

 これらは銀行やスーパーマーケット、病院、あるいは行政当局などサービス提供者
にとっては省力化、合理化になるだろうが、利用する側にとっての利便性という視点
はあまり考慮されていない。銀行の支店がなくなることなど、利用者(とくに高齢者)
にとっては不便なこと極まりない。
とかく最近は高齢者のことが無視されてしまっていることが多すぎる。

 現在の日本の状況は、「少子高齢化」の時代だといわれている。
 このことばはどうもマイナスのイメージがつきまとっているようだ。「高齢者の医
療費負担増」などという見出しが新聞にでる。
 「少子化」とは出生数の減少により低年齢層の人口ウェイトが低下していること、
「高齢化」とは平均寿命が長くなって、男女とも全人口に占める高齢者の割合が増加
していることをいう。そのため労働人口(いわゆる現役世代)の比率が相対的に低下
する。
日銀の統計によると「家計」部門の貯蓄額が2021年末に2000兆円を超えたという。
「家計」部門の貯蓄額は、2000年代の前半に1400兆円台で横ばいを示していた時期があって、その当時は今後現役世代がどんどん退職していくこと、現役世代の収入も伸び悩んでいることから、これからは「家計」部門も貯蓄の取り崩しを余儀なくされる。
「家計」部門の貯蓄1400兆円はいまがピークで、今後は減っていく、と予想する人が
多かった。ところが2000年代後半から、また「家計」部門の貯蓄は増えてきて、2021年末には2000兆円を超えるに至った。
 この家計部門の貯蓄は、実は高齢者が若いときから老後に備えて消費を控え貯めて
きたものだ。
 わが国はGDPが550兆円くらいで、国債発行残高が993兆円だから、国債発行残高の対GDP比は180%を超え、先進諸国中でもずばぬけて高い。「家計」部門の貯蓄が2000兆円あるから、国債は1000兆円あっても大丈夫という人もいるが、これはまちがっている。「家計」部門の貯蓄は個人が将来に備えてきたもので、国が流用できるものではないことは明白だ。高齢者の蓄えを国に当てにされては困る。
 
 ここまで高齢者にとっての不都合な事実、現象をいくつか見てきた。考えてみると、高齢者はこれまであまり文句をいわず、すなおに従いすぎてきたような気がする。
高齢者は、もうリタイアした身だからと、なにも遠慮することはない。老人であって
も、こんなことはおかしいと思ったら、声を大にして、納得できないこと、まちがっ
ていると思うことを指摘し、是正を求めて、世間に対して発言をすべきだ。
声を上げる方法はいくらでもある。同じようなことを考えている老人仲間も多いはず
だ。ただし、世間に向かって発言するからには、それなりの裏付け、根拠が必要なこ 
はいうまでもない。当然世の中の進歩に遅れまいという気持ちとそのための勉強も必
要だろう。同年配の高齢者諸氏に、そのことを承知してもらうことを前提として、もっと発言しようではないかと呼び掛けたい。


編集後記
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 世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」というのがあります
世界の政治や経済のリーダーや有識者が、スイス・アルプスの高地に一堂に集まり、
その時々の世界の諸課題について議論する場で、今年は1月16日から20日まで開かれ
ました。今年のテーマは、グローバル化とブロック経済、インフレと景気後退、ウク
ライナ情勢の行方、気候変動などの環境問題の4点だったそうです。2700人以上が世
界中から集まったそうですが、会議には、プライベートジェットで参加ししたケース
も多いそうで、大量のC22を排出しながら環境問題の解決策を語る人々を本当に信用
できるだろうか」という批判も出ているそうです。(秋田魁新報)
 これは常日頃の主張と行動とが一致してない事に対する批判ですが、この現象は各
所に見られるようです。世の中を動かすためには各自が理念と行動が一致するよう努
力することが求められているといえましょう。。
今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

追伸 先号で予告いたしました幸前成隆氏の【私の一言】『 与うる所を視る』は都合
により3月1日号の掲載に変更させていただきました
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 第460号・予告
 【 書 評 】  片山恒雄『理系に学ぶ。』
           (川村元気著 ダイヤモンド社)                    
 【私の一言】  福山忠彦『ロサンジェルスで感じたこと 』

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■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
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