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                                      2022年11月15日
                                                           VOL.454

               評 論 の 宝 箱
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  第454号・目次
【 書 評 】  三谷 徹 『 21世紀の難問に備えて 』(ポール・ケネディ著 鈴木主税 訳 草思社 ) 【私の一言】 岡本弘昭 『 日本の行く末……日本の世界での立ち位置 』



・【書 評】
┌────────────────────────────────────┐
◇                     『 21世紀の難問に備えて 』
◇        
(ポール・ケネディ著 鈴木主税 訳 草思社)
└────────────────────────────────────┘
                                                                         三谷 徹


 30年近く前、表題の本を読み、なるほど面白い見方だと感心した覚えがある。著者
が見据えた21世紀も20年余りが経過したところで、改めて本書をとりだしてみた。

当然のことながら当時の想定は今となっては随分異なる部分もあるが、一方ではやはりそうかと納得できることも多い。以下は再読をしてみた感想である。

 21世紀の難問は2001年9月に起こった米国の同時多発テロから始まったと言ってもよかろう。この他、主な難問を列挙すると、地球温暖化の進展による異常気象の連続と災害の頻発、新型コロナを始めとする感染症の多発、イスラム原理主義の台頭と種々のテロや地域紛争の続発、中国の急速な経済成長と覇権主義の弊害出現、アフリカを中心に飢餓難民・戦争難民の増加、先進国人口の停滞と発展途上国人口の著増というアンバランス拡大、先進国での貧富格差の拡大とポピュリズムの台頭、これらに加え、今年に入りロシアによるウクライナ侵略戦争が加わった。
 1990年代初頭に著者が2025年頃までを見据えて最大の問題として指摘したのは、地球上の人口の急激な増加とそれによる食糧危機の発生、地球環境の悪化である。彼は「人口論」を引用して、19世紀におけるマルサスの懸念は移民(奴隷を含む)、農業革命と工業化(産業革命)によって何とか乗り切れたとする。一方、21世紀にはすでに新大陸はなく、専ら技術進歩によって乗り切るしかない。その中身は主に食糧生産におけるバイオテクノロジーの進化と工業分野におけるロボット化、省力化の拡大である。1990年代すでにグローバリゼーションが始まっており、その基盤として通信革命、金融革命が原動力になっているとする。しかし、これらの恩恵に浴することができるのは、資本力、技術力、人材を有する一部の先進国に限られ、そこからあぶれた発展途上国は旧来技術に頼ることしかできない。かくて労働集約的一次産業を継続するアフリカ、中南米、南アジアなどの発展途上国は人口増加が収まらない。1980年代まで技術進歩と耕地面積の増加により、人口増加を上回る成果を上げていた食糧生産分野も90年代に入ると耕地可能面積の制約と気候条件の悪化などの要因により、増加ペースが逆転している。この傾向が今後の難問をもたらす根本原因だとするのが著者の見解である。一方、先進国は種々の事情で人口の停滞と高齢化が進むが、一部の産業を除くと省力化・通信、技術の進歩と金融機能の効果によってカバーできるので前者と後者の格差は一層拡大し、世界の分断と社会の不安定化が進むとする。
 
 ここで著者が想定していた世界人口の増加は1990年の53億人が2025年に83億人になり、今世紀中には100億人を上回るとの国連の推計によるものである。現在この数値は2025年で75億人程度、ピーク時人口90億人程度と幾分下方修正されている。しかし、著者が懸念していた難問の継続自体は変わらない。食料生産は人口増加に追い付かず、飢餓人口も拡大している。先進国と発展途上国の格差の拡大に加えて、感染症の蔓延、政治的、社会的な対立要因が加わって、ケネディの想定以上に世界は先行きの見えない状況になっている。そしてこの弊害は貧困な国、貧窮者ほど大きな負担を被る。このような時こそ資本、技術、教育などの分野における国際協調が必要となるが、現実は巨大グローバル企業の影響力拡大、ナショナリズム・ポピュリズムの台頭、先進国内部でも貧富差の拡大や社会分断の拡大などでますます協調が難しくなっている。

 この本の後半では主要国の難問と対応力についての考察がなされており、発展途上
国はますます難しくなり、米国や欧州の先進国はほどほどの対応を示す一方、日本、
ドイツ、スイスなどは比較的にうまくこの難問に対処できるだろうと楽観的な見解を
示している。しかし、現実には日本はバブルの後遺症に20年以上悩まされてきたし、
他の国々も決して楽観できない状況にある。改めて読み返してみて、この時期にはま
だ中国やインド、再生ロシア世界への影響力についてあまり重視されていなかった。
逆に日本はバブルの後遺症やIT戦略の立ち遅れが過小評価されていたのかもしれない。

 著者はその解決策の方向としてすべての国における適度な生活水準の確保、人口と
環境に対する全世界レベルな対応、紛争による対応策停滞の除去を上げている。また、発展途上国には教育の充実によるバース・コントロールも必要と述べている。確かにその通りであり、こういう時こそ国際機関やNGOなどを通じて国際協調が行われ、環境問題、紛争、分断、飢餓などに知恵、資金、援助を傾注してほしいが、現実はウクライナ問題一つをとっても世界の意見の一致は極めて困難だ。

 我々の世代は近い将来いなくなるが、次世代、次々世代はこのような悪環境の中を
生き抜いていかねばならない。気の毒とは思うのだが、私たちにできるのはせいぜい
国際機関を通じた食糧支援などに寄付することや少しでも環境悪化に抗する日々の生
活を送る位しかないのだろうか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

           『 日本の行く末……日本の立ち位置 』
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                                  岡本 弘昭


 OECD(経済協力開発機構、加盟38カ国)の各国の1人当たりGDP(市場為替レート
によるドル換算値、世界銀行のデータ)の平均値を1とする指数は、先進国の水準を
表す指標と考えられるそうである。日本の場合、1970年頃からOECD平均よりも高い
水準を維持してきた。しかし、現在は、OECD平均とほぼ同じ程度の水準にある。し
かも、いまはそこから滑り落ちる寸前にあるという。具体的には、日本の1人当たり
GDPは、この指数ではこれまでの約50年間は1以上で先進国の地位にあった。しかし、現在は、OECD平均とほぼ同じ程度の水準に落ちつつあり、この上昇・下降の推移は、日本がOECDに加盟した1964年以降95年まで上昇線、その後の下降線が左右対称形で推移している。この傾向が続くと、日本の1人当たりGDPは、2030年頃にはOECD平均の半分程度の水準になってしまう可能性があり、日本の世界での立ち位置は大きく後退すると予想されるという。(野口悠紀雄:一橋大学名誉教授)

 日本の世界での立ち位置を示す指標の一つとして、「世界競争力ランキング」が
ある。これは、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が「インフラ」「経済パフォー
マンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」の4つの因子からのランキングで、
毎年発表されている。日本はこの調査がスタートした1989年当時は1位であった。
しかし、その後、年々順位を落とし、22年版では34位となっている。また、技術力
の視点でいえば、20年における日本のPCT(特許協力条約)国際出願件数は約5万件
だったが、これはトップの中国とは1万8000件もの差をつけられているという。つま
り、日本の現在の世界での立ち位置は、いろいろな面から見て大きく後退しつつあるということである。この大きな原因として、90年代以降世界ではITが急激に進歩し、主力産業は製造業から知識産業に移行するという産業のパラダイムシフトが生じているが、日本はにこれに乗り遅れた。しかし、日本の国民にはこの認識はなく、従来に固執したまま今日を迎えているということが指摘されている。

 「ゆでガエル理論」というのがある。これは、カエルを熱湯の中に入れると驚いて飛び出しますが、常温の水に入れて徐々に熱すると、カエルはその温度変化に慣れていき、生命の危機と気づかないうちにゆであがって死んでしまう、という話である。ゆっくり進行する危機や環境変化に対応することの難しさを戒める話である。
日本の現状は、これに似ているのではないか。つまり、日本では経済成長の鈍化や産業のパラダイム等の状況変化は国民は意識せず、かつての経験に固執して今日に至っているということである。

 現在の日本は、変化に対応出来る風土、いつでも新しい事に挑戦しイノベーション
を起こし得る力と風土を必要としている。しかし、戦後の教育は、過度の平等主義や
画一主義に陥りがちなものであり、時代や社会の大きな変化に対応していく柔軟性に
乏しいものである。これでは、激変する世界の大勢にはついて行けない。時間はない
が、個性の尊重、高等教育の個性化や高度化、創造性や国際性の涵養等に向けて教育
の抜本的改革が不可避である。これなくして日本の世界での立ち位置の回復はないの
ではないか。


編集後記
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 11月10日付の日経新聞・大機小機欄によると、「2021年の日本企業の社長の平均年齢は60.3歳で、1990年から31年連続で上昇したとのことである。90年当時の平均年齢は54歳であった。(中略)若い世代にバトンをわたし、躍動感が取り戻せるかは日本の課題で、平時よりも危機の時こそ、

その問いかけは重くなる」としています。
 変化に対応するには早期の世代交代は重要で、植物の世界では世代交代の早い雑草ほど変化に強い

と言われています。人生100年時代と言われていますが、それが世代交代に影響を与えているとすれ

ば問題だと思いますが。
今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

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    第455号・予告
 【 書 評 】 西川紀彦 『 教養としての中国史の読み方 』(岡本隆司著 PHP研究所)
 【私の一言】 幸前成隆 『 人を引っ張るのは 』
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