〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
                                2022年10月15日
                                          VOL.452

                評 論 の 宝 箱
               https://hisuisha.jimdo.com
             
                  見方が変われば生き方変わる。
                  読者の、筆者の活性化を目指す、
                  書評、映画・演芸評をお届けします。

                      
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
 第452号・目次
 【 書 評 】 桜田 薫  『ザリガニの鳴くところ』 
            (ディーリア・オーエンズ 著 友廣純 訳 早川書房)
 【私の一言】 小林基昭 『日本経済の現在地と持続可能な社会とは~再生可能エネルギーの重要性』
             


・【書 評】
┌────────────────────────────────────┐
◇                   『ザリガニの鳴くところ』
◇       (ディーリア・オーエンズ 著 友廣 純訳 早川書房)
└────────────────────────────────────┘
                                                                        桜田 薫


 ニューヨークタイムズが「痛いほどビューティフル」と評した物語だ。2019年に
米国で一番売れた小説で長期間、同紙のベストセラー・リストに入っていた。米国探偵作家クラブ賞にノミネートされ、殺人事件から始まるミステリー部門のカテゴリーに入っているが、抒情的感動的な物語として重厚な魅力がある。

 舞台は南部のノースカロライナ州の荒涼たるマーシュ(湿地帯)、奥まった沼地から海に続く森の中の一軒家で主人公の少女カイアが成長していく。両親兄弟が家を捨てた後に1人残された6歳の彼女は、沼でムール貝を掘って街の黒人が経営する燃料店に売って、たくましく健気に生きて行く。や14歳になってエビ漁師の息子テイトと仲良くなり、読み書きを教えてもらう。広大な自然と豊かな生態系の中での二人の交友は美しく、清純な恋愛物語でもある。ある日カイアとテイトは、荒波の海を子船に乗ってザリガニが鳴く場所を探検に行く。

 本書の読者はいろいろな読後感を持つはずだが、私にはまずカイアたちの住む自然環境―水草が浮き水面が彼方の空に溶け込む広大な風景が印象深い。そこには樹木に覆われた沼地や海の多様な生物や空の鳥たちがカイアと一緒に生きている。米国の南部に観光旅行したことがあるが、苔のぶら下がったオークや松が鬱蒼と茂る光景が目に浮かぶ。本書の魅力の一つは、米国にある階級社会あるいは貧富や人種による差別が自然に描き出されていることで、米国南部の湖沼地域で暮らす人々の貧しい生活が想像できる。

 カイアの家庭は、ベトナム戦争から負傷して帰還した父親の暴力で破壊された。孤独なカイアの生活を親切な黒人家族が優しく見守る一方で、彼女を無視し、侮辱する街の住民がいる。小学校の親切な教師は彼女を学校に通わせようとするが、彼女はライフスタイルを変えようとしない。カイアを庇護する黒人家族との人間関係も感動的だ。

 恐らく米国の地域社会にはこのような環境に住む家族が少なくないだろう。大都会に住む人々とは全く異なる隔離された社会が存在する。殺人事件の結末は本書の骨子になる重要な部分だが、ここで明かすわけにはいかない。
原文はWhere the crawdads sing 著者 Delia Owens, 出版社Putnam


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

          『日本経済の現在地と持続可能な社会とは~
                                      再生可能エネルギーの重要性』
─────────────────────────────────────
                                 小林 基昭

 はじめに
 私は2014年から再生エネルギーにつき我が家の太陽光発電の実績を含め定点観測をしながら再生可能エネルギーの現状報告をしてきました。

 今回は、再生可能エネルギーのその後と日本経済没落の現在地と今後の復活のためにはどうすべきかの一つの視点を紹介します。

 1.まずバブル崩壊後の失われた10が30年へと拡大した日本経済は21世紀に入ってさらに凋落ぶりが著しくなっている。日本のGDPの世界経済に占めるシェアを戦1950年から時系列でみてみると、1955年3%、戦後復興、高度成長を経てバブルピーク1988年に16%、そして1994年17.9%をピークに下り坂に入り2000年に14%へダウン、2010年には7%へ半減、2020年に6%、そして2021年には5.1%まで急激に下がっている。さらに今後も従来同様の目先対策に終始すれば2060年には3%になるという予測まで出ている。なんと戦後50年でJapan as No1まで駆け上り、60年かけてもとの3%に戻るという情けない数字である。

 2.なぜこうまで日本経済の存在感が落ちているのか?たしかにバブル崩壊の影響は大きかったが、21世紀に入りその下落スピードは加速している。なぜそうなったのか?アベノミクスで成長と分配を指向してきたのではないか?その理由ははっきりしている。95年から25年間のGDPを米中と比較すれば一目瞭然である。日本は25年間5兆ドル前後で推移し、ほとんどゼロ成長だったいうことである。1995年のGDPは5.5兆ドル、2021年のGDPは4.9兆ドルである。
一方、アメリカ7.6兆ドル→22.9兆ドル、3倍、中国6兆ドル→112兆ドル、18倍である。日本は円ベースでみても2012年からの9年間で年平均0.9%の成長率であり、世界全体の年1.7%を大きく下回る。この結果は異次元金融緩和だけに偏ったアベノミクスでは経済成長は無理だったという事実である。アベノミクスの2年でマネタリーベース2倍、2%インフレ実現の異次元金融緩和の調整インフレ政策では、民間銀行所有の国債が日銀へ移動しただけで物価は動かなかった。結果は日銀準備預金残高、日銀国債保有残高が急増しただけで、国債対GDP比率G7中最悪のGDP比263%(過去の最悪は1946年英国269%)となった。動いたのは急膨張したマネーにより7割の円安と2.7倍上昇した株価だけである。
 次にアベノミクスの国民への影響を見てみる。
勤労者可処分所得は2000年47.3万円/月、2020年(除くコロナ給付金)で47.1万円とほとんど横ばい。家計消費額では、1世帯当たり2012年28.6万円/月、2020年27.8万円/月と縮小している。トリクルダウンといっていたアベノミクスの効果はなかったわけである。そして、豊かさの指標である1人当たりGDPランキングは、24位から28位へ、アジアでも第4位と唯一実額減少している。国債格付けランキングも韓国、中国以下の24位である。

 3.以上日本の凋落ぶりを見てきたが、なぜそうなっているのか原因を考えてみる。
現在世界は歴史的に大転換期にきているのではないか?無限成長を前提に400年成長してきた資本主義も限界にきているのではないか?文明評論家ジェレミー・リフキンによれば今第3次産業革命の入り口にあるという。
産業革命とは、1)通信技術 2)エネルギー 3)輸送手段 の3つの革命が融合して新しい経済社会政治システムへ変革する状態をいう。90年代に民間へ開放されたインターネットが成熟化し全てのモノがつながるIOTインフラにより再生可能エネルギーのスマートグリッド化やEV燃料電池車による新輸送手段が融合したスマートエコノミー社会が誕生しつつある。EUはドイツのメルケル前首相の卓見により第3次産業革命の到来をいち早く認識し「スマートヨーロッパプロジェクト」がスタート、再生可能エネルギー化に舵を切りスマートエコノミー社会への転換を明確化した。なんと中国も李克強首相がリフキンの第3次産業革命の到来を認識し、「チャイナ・インターネットプラス」プロジェクトを開始、再生可能エネルギーへ大転換を図り今や太陽光、風力の設備やEV車導入で世界一の年間実績を上げている。

 4.第3次産業革命ではIOTをベースに3つの革命により、機械、企業、住宅、乗り物が相互接続したインテリジェントネットワークを形成し自動化システムで総生産性を劇的に向上させ、限界費用をほぼゼロにする新しい経済社会が生まれる可能性が高い。
特に再生可能エネルギー分野では、原料費がかかる化石燃料や原子力のウラン燃料に比し、原料コストゼロの太陽光や風力などの優位性は明らかである。しかし、日本は歴史的大転換期という第3次産業革命の到来を認識せず、まだ第2次産業革命時の成功体験に引きずられて、旧来の原子力への回帰を表明するなど再生可能エネルギーへの転換は進まない。もし旧来のエネルギーたる原子力に固執すれば、コスト面で産業競争力は劣後し、世界GDPシェア3%というのも現実化しかねない。
日本が復活するためには、第3次産業革命という歴史的大転換期を認識し、これに積極的に対応するしか道はあるまい。今後IOTを強力に進める必要があるが、戦後成功した工業生産力モデルで蓄積した技術を活かして対応する力が日本にはまだ残っていると思う。

 5.最後に我が家の太陽光発電の現在地を紹介したい。2012年7月に太陽光パネル21
枚を屋根に設置、10年が経過しFIT期間も7月に終了した。設備投資は9年で回収し、
今年7月から自家消費電力限界費用ゼロ時代へ突入した。FIT終了後は、日中発電分は蓄電池容量一杯まで充電、17時以降夜間使用分は放電で賄う形とした。FIT終了前後の7月と8月の電力実績を見ると自家消費割合は7月47%、8月85%、売電量/発電量は7月78%、8月56%となった。自家消費割合は約2倍になり買電量7月106kwh、8月47kwhと半減し、支払料金と売電料金(単価は1/4)で差引ほぼゼロになった。さらにレフキンのいう限界費用ゼロの自家消費分を加味すれば実質電気費用はマイナス=収入と見ることができる。
限界費用ゼロ時代は実現できると再確認した次第である。

 6.レフキンは、住宅のみならず建築物全てに太陽光パネルを装着し小型発電所化してスマートグリッドでつなげば、風力その他の再生エネルギーで地球全体の電気エネルギーはカバーできるとしている。IOTインフラをベースにスマートグリッドによる再生可能エネルギーインターネットが接続できれば、水素を中心とした蓄電技術や事前の発電見込みやネガワット取引等多様なデジタル対応が可能となろう。
マネジメント面の技術革新も期待できる。輸送・ロジスティクス面もIOTによるビッグデータ活用の相互革新が期待できる。現在の技術社会システムは化石燃料ベースで、中央集中、垂直統合型、大規模化、規模の利益独占型の社会経済システムとして発達したが、実体経済の低成長化、投資先の枯渇、過剰マネーによるバブルの繰り返しで資本主義体制が壁にぶつかっている。
 一方、再生可能エネルギーベースの第3次産業革命は分散、水平展開型、オープン、協働型、Peer to Peerの社会経済システムであり、すでに部分的に大転換が始まっている。現在の化石燃料、原子力ベースの技術は、究極的にはほぼ限界費用ゼロの再生エネルギーには太刀打ちできない、将来座礁資産となるおそれもあるという。産業革命は第1次も第2次も約40年でシステムが完成している。第3次産業革命も約40年とすれば2050年カーボンニュートラルまでの30年が人類の生存へのキーポイントとなろう。日本はJapan as No1となった技術を第3次産業革命に生かすことこそ復活への道であると思う。


    編集後記
    ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
    アメリカでは、1990年にアメリカ国立がん研究所が「デザイナーフーズ計画」を発表し、生活

  習慣病と取り組み始め効果があったと伝えられています。
  これは「野菜や果物を中心とした食生活を心がけることで、大病を防ぐ効果が期待できる」とい

  うもので、その食材をピラミッド型にまとめたのがデザイナーフーズ・ピラミッドです。野菜果

  物に含まれるポリフェノールやカロテノイドなどの「ファイトケミカル」が、健康に役立ってい

  ると考えられています。
  我々もこれを意識した食生活から生活習慣病対策を講じ、平均寿命と健康寿命の格差の短縮化を

  図ることが、人生100年時代の大きな課題と考えられます。
  デザイナーフーズ計画によって選定された食品群(重要度順)は下記の通り。(ウィキペディア)

    (高)              にんにく
    ↑ …………………………………………………………………………………………… 
    ↑      キャベツ、甘草(リコリス )、大豆、ショウガ、
    ↑      セリ科の植物(ニンジン、セロリ、パースニップ )
      ……………………………………………………………………………………………
           タマネギ、お茶、ウコン(ターメリック)、玄米、全粒小麦、
           亜麻、柑橘類果実(オレンジ、レモン、グレープフルーツ )、
           ナス科の植物(トマト、ナス、ピーマン )、
           アブラナ科の植物(ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ )
      ……………………………………………………………………………………………
       マスクメロン、バジル、タラゴン、カラスムギ、ハッカ、オレガノ、キュウリ、
       タイム、アサツキ、ローズマリー、セージ、ジャガイモ、大麦、ベリー
      ……………………………………………………………………………………………
  今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

  ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
  第453号・予告
  【 書 評 】 片山恒雄 『「サイエンス・カフェ」にようこそ』
             (滝澤公子他編 冨山房センター)
  【私の一言】 幸前成隆 『決断の話』

  ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
       ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。
       ■  配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
               ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
               Mail;hisui@d1.dion.ne.jp