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                                                                     2022年10月1日

  •                                                                      VOL.451
                      評 論 の 宝 箱
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      第451号・目次
     【 書 評  】  吉田竜一  『それからの海舟』(半藤一利著 ちくま文庫)
     【私の一言】  佐藤広宣  『小説家浅田次郎の昭和文化回顧談』


     
    ・【書 評】
    ┌───────────────────────────────┐
    ◇                          『それからの海舟』
    ◇                   (半藤一利著 ちくま文庫)
    └───────────────────────────────┘
                                                                              吉田 竜一


     幕末の動乱期、幕臣の中心として江戸城無血開城を成し遂げた勝海舟について、
    西郷隆盛や中江兆民などは高く評価していた。一方、福沢諭吉は、三河武士なら勝
    ち負けを考えずに薩長と勝負するのが本来であるはずなのに、負けることを前提に
    へらへらと和睦して、しかも維新後は新政府の禄を食むとは何事かと名指しで『時事新報』で批判した。これに対して勝海舟は、「行蔵は我に存す。毀誉は他人の主張、我に与らず」とし、これを無視したと伝えられる。これらの影響も少なからずあるのか、明治維新の担い手の中では相対的には人気がないように思われる。

     確かに勝海舟の行動には、当時の幕臣の目から見て不可思議な点もあったように
    も見受けられる。例えば、明治維新前に撮られたと思われる薩長藩閥と関係ある多
    くの人物のなかに一緒に幕臣である勝海舟も写っている写真があったと記憶する。
    また、維新後は明治新政府に参加したことは、幕臣として不満を抱く人もいたことは事実で、これが相対的に不人気の原因であろうか。

     本書は、江戸っ子で薩長嫌いの著者が、同じ江戸っ子の勝海舟の維新後の活動・
    生活を多くの資料をもとに取り纏めたものである。
    維新後、勝海舟は、新旧相撃つ中で、静岡では旧幕臣にお茶の栽培を奨励・支援し、
    旧幕臣たちの生計をたてるため道を探ったり、福沢諭吉らの批判を受けながらも明
    治政府の内部に入り、旧幕府勢力の代弁者としての発言力を確保したりした。さらに徳川慶喜と明治天皇の会見を実現し、また、一方では逆賊とされた盟友西郷隆盛の名誉回復に尽力した。これらの維新後の勝海舟の行動を幅広く取り上げたのが本書である。
    本書による勝海舟は一言でいえば、まれに見る大局観の持ち主であり同時、信念の
    人であったといえる。ただ、反骨精神に富み毒舌家であったため誤解も生じたという事である。なお、静岡茶の起源は勝海舟の行動にあるといわれ、陰徳の人ということであろうか。

     本書の解説を書いた阿川弘之氏は、本書には苦笑したくなるほどの一方的な礼賛
    の言葉が作中至る所に出てくるが、その裏付けになる史実も丹念に調べられており、
    著者半藤一利の個性と相まって実に面白いとしている。
    勝海舟については、本人の氷川清話をはじめ多くの資料があり、これらに比して本書は半藤一利の礼賛集のようにも見えるが、明治維新についての多様な見方を示すものの一つとして、大変参考になるし面白い。


    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

                『小説家浅田次郎の昭和文化回顧談』
    ─────────────────────────────────
                                                      佐藤 広宣


     最近、よく聴くラジオ番組が文化放送「サンスター 文化の泉 ラジオで語る昭和のはなし」。
    この番組は、ゲスト・リスナーのお便り・懐かしい音や音楽などで「新しい時代に語り継ぐべき昭和の文化」を掘り下げる一時間番組です。

     先日のゲストは、小説の大衆食堂と言われるベストセラー作家の浅田次郎。名作映画「鉄道員(ぽっぽや)」の原作者で、私は、清末の西太后の時代を描いた大河歴史小説「蒼穹の昴」(そうきゅうのすばる)を読んで以来、愛読しています。

     浅田次郎の話で、面白かったのは下記2点。
    1.金持ちだが家に本が無い環境で育った作文好きの少年がいかにして直木賞作家
      になったかという文学遍歴。
    2.デジタル社会の到来は文化面での黒船襲来。現代の文化状況は、明治維新の混
      乱が今に続いているようなもの。
      インターネット文化は便利でおもしろすぎて、自分の頭で思索する貴重な時間を奪       うのが大問題で、流されるままだと世の中の文化が痩せ細る。
      (時間を奪う極端な例は頭がゲームに乗っ取られるゲーム中毒)

     「サンスター文化の泉」は毎週日曜日夜11時からの1時間番組で、老来、朝型人間に変身した私は「ラジコ」の録音機能で聴きました。
    含蓄のある聞きごたえのある放送だったので、デジタル録音して、インターネット書庫「Googleドライブ」に入れましたので、興味がある方は、下記アドレスをクリックしてお聴き下さい。
    https://drive.google.com/file/d/1n2P3C6-5TKrZWHmulQXp2PYB2o81yppr/view?usp=sharing

                   
    編集後記
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     世界競争力年鑑による日本の2021年の総合順位は31位で、中期的に低迷が続いているそ

  • うです(三菱総合研究所)。これは、日本の人口が減少の一途であり、市場規模も小さくなりつつあるためとも言われています。この対応には人材の育成と日本人の「グローバル化」が不可欠だと指摘されています。しかし、近年の日本の海外留学生は約3万人で世界ランキングでは33位であり、外国人留学生の受け入れ数は13万人強で世界ランキングは8位にとどまっています。
     いつの間にか日本人は内向性が強くなってしまったようで、このままでは日本は中流国に転

  • 落する可能性があります。コロナ問題の沈静化を機に、改めて中長期視点に立ちグローバル

  • 化策を練り直す事が日本の喫緊の課題ではないでしょうか。

    今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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    第452号・予告
    【 書 評 】  桜田 薫  『ザリガニの鳴くところ』
                   (ディーリア・オーエンズ 著、友廣 純 訳 早川書房)
    【私の一言】 小林基昭  『日本経済の現在地と持続可能な社会とは~
                    再生可能エネルギーの重要性』
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          ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。
          ■  配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
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