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                                                 2021年8月1日
                                                        VOL.423

                    評 論 の 宝 箱
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 第423号目次
 ・【書   評】  片山恒雄 『死はこわくない 』  (立花 隆著  文芸春秋)
 ・【私の一言】  吉田竜一 『有事への対応』



             
・書 評
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◇                   
                                『 死はこわくない』
                     (立花 隆著  文芸春秋)

└─────────────────────────────────┘
                                              片山 恒雄


 私には、生命の謎として知りたいと思うことが二つある。一つは、死後の世界が存在す

るかどうかであり、今一つは、人間ひいては生物は、生育のどの段階で「意識」ないしは

「心」を獲得するのかである。つまり生まれる時と死ぬ時に関する不思議・神秘である。

孔子は論語の中で、「未だ生を知らず、いずくんぞ死を知らん」(私は生すら知らないの

に、どうして死を知っていようか)、また西洋の哲学者ヴィットゲンシュタインは、「語りえ

ぬものについては、沈黙せねばならぬ」と述べており、東洋・西洋の賢人はともに死を

語ることを避けている。しかし曽野綾子は、自著「戒老録」の中でこう述べている。

「死出の旅という長旅に出るのに、行く先も知らずに出かける人はいない」と。

 死後の世界は存在するのかどうか。完全に死んでから生き返った人はいないのだか

ら、聞きようがない。しかし、仮死状態で意識を失った後に、生き返った人はいるので、

その人に聞くとかはできる。その一つに「臨死体験」または「神秘体験」がある。典型的

な例では、体外離脱の後トンネルを抜けて、まばゆい光に包まれた世界へ移動し、美

しい花畑で、先に亡くなった家族・友人果ては超越的な存在である神に出会ったりする

という。

不思議なことに、臨死体験を経験した人は、細部に多少相違があってもほぼ同じことを

言う。中でも死の間際に幸福感に包まれるという報告が数多く寄せられている。それが

一段と神秘性を深めている。

 アメリカのケンタッキー大学のネルソン教授は、「進化的に古い脳である辺縁系が神

秘体験に関わっており、実は人間の本能に近い現象である」と指摘しており、「死ぬとい

うのは夢の世界に入っていくのに近い体験である」とも言っている。動物実験ではあるが、

死の瞬間にネズミの脳の中で、セロトニンという幸福感を感じさせる神経伝達物質が大

量に放出される現象が確認されている。
死は恐ろしいものか。ギリシャの哲人エピクロスは、「あなたが死を怖れる時は、死はま

だ来ていない。死が本当に来た時あなたはそこにいない。だから死は怖れるに当たらな

い。」と言っている。一種の三段論法であり、それで死の恐怖がなくなるとは思えない。

キュープラー・ロスの有名な著書である「死ぬ瞬間」の中で、死に至るまでの心理の過程

を書いている。それによれば、人間は自分の死を受け容れるにあたり、次の順序で心理

的な過程を辿るという。
「否認・孤立」(嘘だ、自分だけが死ぬ筈はない。どうして自分だけが。)
「怒り」(納得できない。理由が分からない。)
「取引」(死は受け入れるが自分の望みも聞いてくれ。)
「抑鬱」(気持ちが沈んでくる。)
「受容」(納得。いつ死んでもいい。)

 昭和63年のベストセラーに元検事総長伊藤栄樹氏ががんの宣告を受け(当時は一般

的に医師から患者へのがんの告知は行われていなかった)、死の床で綴った「人は死

ねばゴミになる」が、ひと時世間の話題になった。しかし、肉体はゴミになっても、精神は

どうなるのか。そこが知りたい。精神も消滅してしまうのか。精神だけはいったん天上に

上り、次の止宿先を探すのであろうか。私の疑問は残る。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

                      『有事への対応』
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                                            吉田 竜一


 新型コロナウイルスを巡る日本の対応を振り返って、自粛頼みで、対応は統一がとれ

ず、後手に回っている。それは「緩く、バラバラ、呑気」というこの国の問題点に原因があ

るという指摘(日経2021/5/31なぜコロナウイルスに敗れたのか)がある。
「緩い」のは制度で、法体系でそうなっており、個人への規制、行政への統制が緩やかで

あること、「ばらばら」というのは政府内部。国と地方などの機関の運用の問題である。

「吞気」というのは、人、特に政治家の危機意識の欠如を意味する。いずれももっとであ

るが、特に重要なのは「吞気」で、具体的には「危機意識の欠如」、「危機管理の弱さ」、

「低いコミュニケーション力」であり、有事に弱い体質である事を意味する。

 1946年に公布された日本国憲法は、アメリカ軍占領下にその占領政策に沿って作られ

たものである。また、1951年のサンフランシスコ講和条約締結と同時に締結された日米

安全保障条約は,軍隊という高コスト組織はアメリカに任せ、日本は身軽に通商国家を

目指すという路線を示すものであった。これらは、アメリカ本意のものであり、その後よ

り自主路線を目指すものとして、1960年には日米新安保条約が締結された。しかし、ア

メリカ依存の体制は、見返りとして経済的発展もあり、実態はアメリカ追随路線を踏襲

し今日に至っている。
 これは国防をアメリカに依存するため、いろいろな面でアメリカの言いなりになる、ある

いは、ならざるをえないということを意味し、それは日本人の行動様式にも影響を与えて

いるという。つまり、自主性が乏しく責任感がない土壌を作り、これが、有事の危機管理

もままならない政治風土を作っているということである。具体的には上記の「緩く」、「バラ

バラ」、「吞気」ということとなる。

 世界の諸情勢は日々変化する。政府はその変化に合わせ、国民の生命、自由、安全、

財産を守る方策をとる必要がある。現行の憲法と現在の防衛体制が現状のままでいい

ものかどうか。
コロナ禍を機に、改めて国のあり方を十分に議論すべきであるとの意見がが増えてい

るように思う。私もそう思う。


 編集後記
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Times Higher Education(THE)社」が公表するWorld University Rankingsによると、2021年

の上位はアメリカやイギリスの大学が占めています。またアジアの大学も中国の清華大20位、北

京大23位、シンガポール国立大25位と健闘しています。
 これに対して日本は、100位内に東京大36位、京都大54位。このため、我が国の大学は、欧米

のトップ大学はもとよりアジアの大学の中でも存在感が低下していると指摘されています。
日本の大学が世界で存在感を持つことは将来の日本のためには不可欠です。現状を良く認識して、

改めて大学に意義、あり方を考え直す時期が来ているといえましょう。

 今号もご寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)


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第424号予告
・【書  評】  庄子情宣 『能寿命を延ばす――認知症にならない18の方法 』
                 (新井平伊著 文春新書)
・【私の一言】 岡本弘昭 『終戦の日に考える』

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      ■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
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