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                          2020年2月15日
                                    VOL.388

                評 論 の 宝 箱
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第388号 目次
・【書評】  稲田 優 『米中覇権戦争の行方』(北野幸伯著 育鵬社)
・【映画評】 三谷 徹 『「男はつらいよ お帰り 寅さん」を見て』

             
・書 評
┌─────────────────────────────────┐
◇          『 米中覇権戦争の行方 』
◇            (北野幸伯著 育鵬社)
└─────────────────────────────────┘
                               稲田 優

 モスクワ滞在28年、気鋭の国際関係アナリストの北野幸伯が、まず米中覇権
戦争が起きた理由とその経緯を分かりやすく解説します。
1972年にニクソンが中国を訪問し事実上の同盟関係を結びます。なぜアメリカ
は中国に接近し、中国はなぜアメリカと和解したのか。アメリカは中国が自国
の市場となることを期待し、近代的な技術等を無償で大盤振る舞いし、レーガ
ンは空軍、陸軍、海軍およびミサイル技術までも中国に売ることを許可した。

 しかしその後、1989年に天安門事件が起こり、1991年にソ連が崩壊したころ にアメリカ政権内部には強力な親中派グループが形成されていた。国家安全保 障担当補佐官のトニー・レイク、同副補佐官のサンディ・バーカー、国家経済 会議議長のロバート・ルービン(元GE会長、後に財務長官)、財務次官ローレ ンス・サマーズ(ハーバードの経済学者、ルービンの後に財務長官に)。

 大統領になったクリントンは当初中国に警戒的だったが1993年末に「クリン トン・クーデター」と名付けられる中国側の取り込み工作を受けて、クリント ンは中国を「大儲けできる国」とみなすようになったという。この辺の考察が この本の真骨頂の一つです。

 その後、2001年にバブルがはじけ、その年の9月11日にアメリカがテロ攻撃を
受けるや、ブッシュはアフガニスタン攻撃に出ます。この時ブッシュ大統領は
国内のキリスト教右派、軍産複合体、石油業界、イスラエルなどの“過激派に
牛耳られていた“と断定。そして2008年9月に起こった「100年に一度の大不況」
が米中関係悪化の始まりのはじまりと振り返ります。
 ピルズベリー著の「Chaina49」でも、「2009年以降、中国はアメリカとその 新しい大統領であるバラク・オバマに対する態度を明らかに変化させた」と指 摘しているとの由。アメリカはもはや怖くない、と勘違いした中国、その一例 が2010年9月に起こった「中国尖閣漁船衝突事件だったと推測します。中国は 勢いを得てAIIB設立構想と一帯一路構想を世界に公表、オバマ大統領は各国に 無視を促したものの最友好国のイギリスを先頭に57か国がAIIBへの参加を表明、
これを「AIIB事件」と呼んでオバマが中国おそるべしと目覚めた大事件と強調
します。

 2017年1月にトランプが大統領に就任。同年4月に又もや中国の政界取り込み の大工作が施され、トランプの娘イバンカ、夫のシャレッド・クシュナーに巨 額なビジネス・ディールが舞い込んだと言われます。しかしトランプはこの中 国側から仕掛けられた「トランプクーデター」を撥ね退けて、米中覇権戦争に 突き進みます。

 2018年9月のペンス副大統領の歴史的な対中国との演説は、アメリカの中国に 対する宣戦布告であり、「米中覇権戦争の勃発」と正確に認識していない日本の 安倍政権に危うさを感じていると警告します。

 第二章では、米中覇権戦争の結末を大胆に予想しています。アメリカの弱点
として「アメリカファースト」の最悪のスローガン、戦略的でないトランプ大 統領、対して中国最大の弱点は習近平だと指摘します。そして結論はあっさりと 「結局アメリカが勝利するだろうと思っています」と予想します。
(ただ、著者は最近のメルマガでロシアと中国の軍事同盟の動きを伝えるモス クワ発共同のニュースを報じて、そうなるとアメリカは中・ロに勝てないと警 鐘を鳴らしています)。

 第三章では、日本はどうすべきかを論じています。その際、重要な事実とし て2012年11月15日の「ロシアの声」に記載された「反日統一共同戦線を呼びか ける中国」という記事に注目せよと強調しています。

<14日、モスクワで行われた露・中・韓の3国による国際会議「東アジアにお
ける安全保障と協力」で、中国外務省付属国際問題研究所の郭(ゴ・シャンガ ン)副所長は次のように演説>

<郭氏は(第二次大戦時に)対日同盟を結んでいた米国、ソ連、英国、中国が
採択した一連の国際的な宣言では、第二次大戦後、敗戦国日本の領土は北海道、
本州、四国、九州に限定されており、こうした理由で日本は南クリル諸島、ド
クト(竹島)、釣魚諸島(尖閣諸島)のみならず、沖縄をも要求してはならな
いとの考えを示した>

<こう述べる郭氏は中国、ロシア、韓国による反日統一共同戦線の創設を提案
している。
この戦線には米国も引き入れねばならない>

 これに対抗するには日本は次のことをすればいいと著者は結論付けています。
・アメリカとの同盟関係をますます強固にしていくこと
・ロシアとの友好関係を進化させること
・韓国と和解すること
 結局、日本の大戦略としては、アメリカに次いでインドを最重要国と認識し、
続いてEU、ロシア、中国に脅威を感じている国々(台湾、ベトナム、フィリピ ン、オーストラリア)を仲間にしていくことを目指すべきと結んでいます。
わが国もしっかりと目を凝らして世界情勢を把握する必要があるようです。



・映画評
┌─────────────────────────────────┐
◇      
◇        
『「男はつらいよ お帰り 寅さん」を見て』         
└─────────────────────────────────┘
                                三谷 徹

 シリーズ50作目を楽しみに待っていた。予想通り、山田監督の社会への遺言
であり、渥美清と「寅さん」への愛情を込めた追悼、慰霊の作品であった。
一旦終わって20年余が経過し、主役は中年になった「寅さん」の甥満男である。
その両親さくら、博はおじちゃん、おばちゃんのいなくなった「とらや」に住
み、喫茶を営んでいる。
 満男は病気で妻を亡くし、駆け出しの小説家となって、高校生の娘と暮らし
ている。その満男が若き日の恋人で、今は国連職員としてヨーロッパに住む泉
と東京で偶然再会する。満男と彼女は、「とらや」の人々、泉の母やリリーと
会い、旧交を温める。その過程で一時的に淡い恋人感覚を蘇らせるが、3日後
には成田で別れ、それぞれの生活と家族の元に戻る様を描いている。

 二人の思い出話や両親との会話の随所に「寅さん」の様々な言動が登場する。
現在のストーリーと回想場面のつなぎ方に工夫が凝らされているので、かつて
の名場面が満男、さくら、リリー、泉らの心を通じて見事に蘇える。

 例えば第1作は、さくらと博の結婚に竿指していた「寅さん」が、結果として
二人を結びつける筋立てが、このシリーズの幕開けであった。次に「寅さん」の
いない時に、さくらがリリーに「寅さん」の嫁になってくれないかと、恐る恐
るプロポーズしたのに対して、リリーが「いいわよ」と答えてさくららが大喜
びするシーン、この時の浅丘と倍賞の何ともいえない表情の交換も忘れられな
い。このことを聞いた「寅さん」がリリーに「冗談だろ」と言い、それに対し
て一瞬間をおいて「そうよ、冗談よ」と勤めて明るく言った浅丘の表情も第15
作の名シーンだ。

 リリー以外では、吉永小百合(第9、13作)、八千草薫(第10作)、太地喜
和子(第17作)らがマドンナを演じた作品も印象に残っている。今回これらの
人々も、とらやの店先での「寅さん」と再会するシーンで登場する。
 私は過去の49作のほとんどを見ているが、総じて若いマドンナに、「寅さん」
が片想いして実らず、ライバルが登場して終わりという展開の作品は、ややマ
ンネリ感がある。その中では、吉永がマドンナを演じる2作品は、薄幸な家族関
係を持つ美女と無邪気な中年男の取合せの妙がよく効き、吉永のきらきら光るが
ごとき存在感と相俟って魅力ある作品になっていた。

 一方、中年女性がマドンナで「寅さん」に想いを寄せるが、それと気づく時、
彼がすっと身を退いてしまうストーリーは概ね良くできていた。この典型は八
千草演じる(第10作)後家千代から不忍池でプロポーズされ、「寅さん」どぎ
まぎして態度をごまかしてしまうシーンだろう。この後千代は「私、寅さんに
ふられちゃった」とさくらに話すが、その時の二人の表情も素晴らしかった。

 これらの作品を通じて、山田監督は私たちに何を訴えたかったのだろうか。
 その第一は下層階級で生きる人々こそ、本来人間として持つ、陰と陽、苦と
楽、強と弱など様々な二面性を持っているという人間観である。家族の前では、
わがままで理不尽、世間に出れば、実にまともな言い分と生活をする、そして
それが周囲の人を引き付け、家族はすっかり面食らうという「寅さん」の不思
議な二面性を描いている。

 第二には家族のありようへの提言だろう。普段は距離を置いた関係で、時に
はぶつかり合うとらやの家族も誰かに何かことあれば、必死に助け合う姿を見
せる。そのギャップが大きいほど、作品の通奏低音として家族関係とは何かと
いう疑問に気づかされる。

 そして第三は昭和への強烈な郷愁である。昭和6年生まれの山田監督と昭和3
年生まれの渥美清という長く昭和を生きた二人は、近代化が進む日本で、古び
た鉄道駅舎、人のいないバス停、地方の小さな神社や寺の縁日、鄙びた古い旅
館そして何よりも江戸川の河原と帝釈天の参道、とらやの店構えなど昭和の匂
いを有する風景に強い愛着を持っている。

 泉を送って家に帰った満男が、雨の夜に「寅さん」を題材にした新たな小説
を書き始める場面で、この映画は終わる。昭和を生きた人間から、次世代の人
々に、しっかり頑張って新たな課題に取り組んでほしいというメッセージでも
あろう。

 新作「お帰り 寅さん」の入口は、「この映画を渥美清に捧げる」というタ
イトルバックから始まり、最後には撮影の高羽哲夫、物故俳優の森川信、松村
達雄、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、笠智衆の名前が流されていた。マド
ンナ役の人々でも、新珠三千代、池内淳子、京マチ子、八千草薫など多くが鬼
籍の人となっており、この人たちへの追悼でもあろう。映画の最後は、全ての
マドンナたちのカット映像が流れ、渥美清の唄う主題歌で締めくくられる。心
憎い演出だと思う。

 「お帰り 寅さん」は、ややしんみりした作品だが、満足して映画館を出るこ
とができた。過去3回行った柴又に、また出かけて鰻を食べて来ようと思う次第
である。


                           
編集後記
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七十二候によれば、現在は、魚上氷(うおこおりをいずる)頃で季節の変わり 目として健康管理に注意すべき時期ですが、今年は、異常気象さらに新型ウィ ルスによる肺炎の感染問題も生じ、従前以上に体調を整える必要があります。 農水省は、低栄養予防のため次のような食生活指針14か条を発表していますが、
これも参考に、食生活を整え健康管理に励みたいと考える昨今です。

1、3食のバランスをよくとる 
2、動物性たんぱく質を十分にとる 
3、魚と肉の摂取は1対1の割合に
4、さまざまな種類の肉を食べる 
5、油脂類を十分に摂取する 
6、牛乳を毎日飲む 
7、緑黄色野菜や根菜など多種の野菜を食べる。火を通し量を確保、果物を適量とる 
8、食欲がないときは、おかずを先に食べ、ごはんを残す 
9、調理法や保存法に習熟する 
10、酢、香辛料、香味野菜を十分にとり入れる
11、和風、中華、洋風とさまざまな料理をとり入れる 
12、共食の機会を豊富につくる 
13、噛む力を維持するため、義歯は定期的に検査を受ける 
14、健康情報を積極的にとり入れる。

 今号も貴重なご寄稿有難うございました。(HO)
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第389号 予告
・【書評】     亀山国彦『日本人の勝算 -大変革時代の生存戦略』
             (デービット・アトキンソン著 東洋経済)
・【私の一言】  庄子情宣『健康長寿の話』 
                           
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