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2026年1月1日
VOL.529
評 論 の 宝 箱
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書評、映画・演芸評をお届けします。
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第529号・目次
【 書 評 】 三谷 徹 『コメ危機の深層』
(西川邦夫著 日経プレミアシリーズ )
【 私の一言 岡本弘昭 『分配ポピュリズム』
【書 評 】
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『コメ危機の深層』
( 西川邦夫著 日経プレミアシリーズ)
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三谷 徹
今年のコメ騒動はよくわからない状態のまま、今も高値が続いている。一体コメ
市場の全体像がどうなっているのか、今回の騒動の原因がどこにあるのか、新聞や
テレビの報道を見聞きしてもよくわからなかったので本書を手にした次第である。
私自身コメの流通や価格について興味を持っていなかったので、随分間違った認
識でいたことを本書で知らされた。例えば減反政策は未だに続いていると思ってい
たこと、コメ価格は政府補助により支えられていると思っていたことなどである。
著者西川氏は茨城大学に籍を置くコメの専門家である。但し、長年多くの生産者、
農協、政府とかかわりを持っているので、本書で政府をこき下ろしてはいない。
ご存知の方も多いかもしれないが、まずコメの需給状況、減反政策の進捗状況、価
格推移について本書の内容を紹介してみたい。
日本のコメ需要は1960年代の1200万t(一人年間約100kg)をピークに
2023年700万t(同60kg)に減少し、2040年には500万t(同50kg)を下回ると予想さ
れる。人口減少、高齢化に加えて最大の要因は食生活の西欧化により一人当たりコ
メ消費が大幅に減少したことにある。1960年代には供給カロリーの40%以上がコメ
であったのに対して、直近では20%に低下している。小麦がわずか数%増加したの
に対し、肉類・油脂類各々10%程度増加しており、コメ減少の主要因である。これ
を受け減反政策が実施され、耕地面積は1960年代の600万haから450万haに、農家
数は450万戸が180万戸に減少、逆に平均面積は1.3haから2.5haに増加した。減反
につれて農家の規模拡大と効率化は進んだ。それでも日本の農家の平均面積は欧州
の1/10程度、米国、豪州と較べると1/100にも満たない。また、耕地が増加しても、
離れた圃場では効率化に限界があり、これをどう解消するかの課題がある。減反政
策はその後生産調整に変わり、転作が奨励された。ほぼ強制策であるが、小麦への
転作は土壌の湿地性から進まず、果実、野菜も収穫期の労力・コスト負担などの問
題があり、結果として最も多いのは非主食米への転換であった。
一方、コメ価格は生産農家の規模拡大、コスト削減と政府買い上げの廃止など、コ
メ価格は生産農家の規模拡大、コスト削減と政府買い上げの廃止など価格自由化に
よって徐々に下がってきた。かつ、現在政府は表面上買い上げをしないので
自由化によって徐々に下がってきた。かつ、現在政府は表面上買い上げをしないの
で逆ザヤによる財政負担(生産調整の負担は継続)もない。農協の関与度も少なく
なり、コメの自由化は輸出入を除き、完了したかに見える。しかし、実態は政府、
農協、生産者の申し合わせが需給見通しに基づきなされているようだ。各農協が収
穫期に生産者に示す概算価格(仮払金)は需給見通しに基づき行われるが、これが
政府の意向と全く無関係に行われているとは考えにくい。実態は政府、農協、生産
者の合意による統制価格ではないか(著者はそう述べていないが)と思われる。兼
業農家の知人の話では、転作をして野菜、果物などにシフトすれば転作奨励金、売
買代金は増えるが、気候変動、管理手数、収穫時の労力(これが一番大変という)
を考慮するととても合わないとのことである。
本論の今回のコメ騒動に話を戻すとその原因は第一に2022、23年、24年にわた
り農水省の需給見通しが21万t、44万t、32万tと計100万tに近いギャップを生じた
ことである。長年需要減少に悩んだ業界はコロナの影響もあり、需要を少なめに見
積もる傾向にあったが、2019、20年は若干の余剰、21年はほぼ均衡で推移した。
その延長で各年10万t位の需要減を予想したが、異常気象などで生産見通しがそれ
以上に乖離を生じ在庫減少、価格の高騰に結びついた。見通しの誤りが第一である。
第二にこのような需給ギャップとりわけ供給不測の場合の対応が未確立かつ対応の
遅さが目立ったことである。6月末における民間在庫は150万tほどだが、著者によ
れば本格収穫期までのつなぎとしてやや少ない水準であり、これ以上の取り崩しは
困難とのことである。結局政府在庫の取り崩しか緊急輸入しか手段はないのだが、
その発動が遅れたのである。平成の冷害によるコメ不足(1993年)の折にも同じ
現象が起こっている。まさに、反省が生かされていないと指摘できよう。
第三の要因としてかなり整理されたとは言え、なお重層構造の流通の複雑さが円滑
な対応を困難にしたことである。生産、集荷、一次卸、二次卸、最終卸、販売者、
消費者という構造が基本らしいので、この間の調整が簡単でないことは素人でもわ
かる。各々が最低限のマージンを取れば価格はその分高くなる。コメは収穫後も乾
燥、精米、保管、運送など多くの過程を経るので、それらに専門業者が関わるのは
仕方がないとしても、円滑な有事対応の弊害となった。
本書を通じて一番に感じたことは、コメの需給に関して、政府の立ち位置が不明
確だということである。コメという食の基本財を自由化したというが、生産調整、
需給見通し、農協による概算金提示など実質的には政府、官庁のコントロール下に
あるようだ。エネルギーなどと同様コメも必需財なので完全自由化は困難だろう。
だとすれば、どこからどこまでは政府のコントロール、それ以外は市場に任せると
いったルールが作られ、公表されるべきなのだろう。
実は本書を読み終わってまだ理解不能の部分が残った。特に価格決定のメカニズム
は複雑で理解不能であった。基本的に物の値段は需給に入り決まるのだから、価格
が高止まりしているなら、需要を抑えるか、供給を増やすしかあるまい。コメの場
合、前者は不可能なので輸入か官民在庫の放出で乗り切るしかあるまい。三度目の
失敗は避けてほしいものだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「分配ポピュリズム」
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岡本 弘昭
日本はバブル崩壊後4半世紀が経過したが、この間日本はよくなったのか。現実は
新旧の課題が山積しそこから新たな危機が忍び寄ってきた。具体的には、第一に国
際競争力の低下で、半導体メモリーや家電など日本の日本分野が次々と消滅し、経
済からの活気が失せた。第二に経済規模の相対的縮小である。少子化問題の深刻化
のもと低成長が続いている。第三は、資源価格上昇や円安などを背景とする物価上
昇である。第四は財政赤字で財政規律の弛緩を是正する動きが乏しい。これら忍び
寄る危機に対処する必要があるという指摘が昨年1月にあった(日経1/25)。現在
もそれは続いている。
ところで、 民主主義は多数決を原理とする。その原理の下で多数派を形成する
のが「満たされない層」である場合、政治的安定よりも敵対と分断の方向に傾きや
すくなる可能性があり、単純明快なスローガンや感情に訴えやすい主張をするポピュ
リズム的な政治家が登場し易い環境を作りやすい。このことは、結果的に民主主義
は形式としては機能していても、実質としては「ポピュリズムの温床」になってし
まう可能性がある。これは、「民意」を掲げる多数派の論理が優先され、異論が排
除されやすくなる。つまり、政治の健全性が損なわれ恐れが生じ、その多くの主張
は、長期的な国家戦略や社会全体の利益よりも、目先の支持獲得を優先したものに
なりがちで、結果として、財政悪化や制度疲労を招き、将来世代への負担を増やす
リスクが生じる恐れがある。このためポピュリズムの動向には各国ともに注視して
きているといえる。
日本の昨年の参議院選挙でもポピュリズムの傾向がみられた。具体的には、平均
所得以下の世帯が多数を占めている現実を背景として、労働者や貧困層、都市中間
層などの「人々」の声や利益を直接的に政治に反映させようとする所得の再分配や
政治的権利の拡大を主張する分配ポピュリズの動きが目立ち、安易な減税や給付を
誇示する政策が増え、選挙結果にも影響が生じている。
これは、冒頭に記した忍び来る危機に加え、新たな危機が加わって来ているのが我
が国の現実ということである。これらに対応するには、リーダーに単なる「対症療
法」ではなく、少子高齢化の中でも将来の夢を与えるスローガンのもとに、それに
向かって選択と集中の政策に真剣に取り組むことが求められている。
編集後記
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明けましておめでとうございます。本年も引き続きよろしくお願いいたします。
今年の干支は「丙午(ひのえうま)」。丙午とは、十干の「丙(ひのえ)」と
十二支の「午(うま)」が組み合わさった年のことです。「丙」は火の性質を持ち、
陽のエネルギーを象徴します。燃え盛る炎のように、明るく、力強く、行動的な意
味を持っています。一方、「午」もまた火の性質に属し、「丙午」は“火と火”が重
なった、非常にエネルギッシュな組み合わせです。
つまり丙午の年は、「情熱」「エネルギー」「行動力」「改革」がキーワードと
なるそうです。ただ、勢いが強く出すぎてトラブルや衝突も起こりやすいともいわ
れているそうです。
このような年なので、今年は何事も大胆にして細心の注意の下で行動することが期
待されているということでしょうか。
本号のご支援ご協力有難うございました。(HO)
追伸:本「評論の宝箱」は、従来毎月1日、15日の2回配信してきましたが、今号か
ら毎月1日の月1回の配信に変更させていただきますのでよろしくご了承ください。
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第530号・予告
【 書 評 】 三谷 徹 『資本主義と自由』
(ジョセフ・スティグリッツ著 東洋経済新報社 )
【 私の一言 】 幸前成隆 『物事の本質をつかむ』
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