ヨーロッパ債務危機の真相・深層 | 書と歴史のページ プラス地誌

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私の郷里の上越地方(糸魚川市、上越市など旧頸城郡)の歴史・地誌をはじめ、日本列島、世界の歴史・社会・文化・言語について気の向くままに、書き連ねます。2020年11月末、タイトル変更。

 ロンドン大学の研究所(SOAS)で経済学を研究・教育している知り合いのギリシャ人経済学者がいて、最近新聞の中では最も信頼できる英国紙の「ガーディアン」にユーロ圏の債務危機について記事を載せています。(ちなみに日本のジャーナリストももっと勉強・取材してきちんとした記事を書いてもらいたいものです。)

 ヨーロッパ債務危機というと、日本の人々にとっては対岸の火事のようなものであり、一般的には特に最初は、せいぜいギリシャの放漫財政とか、ギリシャは、IMFやEUから支援を受けているのだから、緊縮財政や公務員の給与引き下げは当然だというほどの認識だったかもしれません。というのも日本の(一部の)マスコミがそのように報道してきたからです。

 しかし、深層・真相はかなり異なります。またさすがに債務危機がアイルランド、ポルトガル、スペイン、それにイタリアにまで広がってくると、多くの人々もどうなっているんだろうかと思いはじめます。

 次に一部を紹介しますので、興味のある人は読んでみてください。記事のスタイルは、質問とそれに対する回答という形です。

 (英国紙「ガーディアン」(the Gurdian2012613日より)


1.ギリシャの破滅への道に対して責任があるのは主に誰でしょうか? 政治家、普通の人々、EU とユーロ圏の政治家、それとも他の何かでしょうか? これはどの程度まで純粋にギリシャの危機なのでしょうか?

Costas Lapavitsas

ユーロ圏の危機でギリシャを責めるのはよくある公の議論の特徴であり、しばしば伝染性の形を取ってきました。すなわち、ギリシャ人は不正直であり、怠惰であるというものです。またギリシャの政治家は腐敗しており、国は後進的である、等々です。もちろんギリシャ社会に根深い問題があることは疑いありません。しかし、これらの議論は、危機の説明としては幼稚です。驚くべきことですが、ギリシャの当局者も、EUと交渉している間に、これらのステレオタイプのいくつかを口にしました。

  ギリシャの破滅への道は、他の周辺諸国――ポルトガル、アイルランド、スペイン――と同様に、ユーロ圏に所属したことによって決定されました。これら周辺諸国は、ユーロがより先進的な中心諸国との収束につながることを期待してそれを採用しました。しかし、通貨同盟には構造的欠陥があります。その厳格な枠組みの内部で、しかもドイツの賃金凍結に直面して、周辺諸国は競争力を失いました。巨額の対外赤字が生まれ、それは中心諸国の銀行からの借り入れによってファイナンスされました。周辺諸国の銀行も国内貸付を拡張するために安易な信用を利用しました。2009 年までに、周辺諸国の経済は、自らを効果的に破産させる巨額の債務――国内および対外債務、私的および公的債務――を負わされていました。まったく合理的なことですが、中心諸国は、周辺諸国の破産の費用を負担することを躊躇しました。これがユーロ圏の危機の根本原因であり、ギリシャはただ単に周辺の失敗の最も深刻なケースにすぎません。


2.EUIMF(国際通貨同盟)およびECB(ヨーロッパ中央銀行) の「トロイカ」は、ギリシャの租税回避、縁故主義およびその他の形の政治的腐敗の問題を非難するときに、確かにポイントをついているのではないでしょうか?

Costas Lapavitsas

私は、ギリシャ国家、経済および社会の欠陥――広範囲の脱税、大企業と富裕者を優遇する租税制度、医療や軍事を含む公共的調達における腐敗、民間部門における搾取や公共部門における恩顧関係(クライエンティリズム)を伴う、うまく働いていない労働市場、国家と密接に癒着している大企業へのえこひいき、しばしば納税を避ける非効率的な中小企業、不平等と低福祉水準――を決して否定しません。しかし、現在のギリシャの苦境は、長い間私たちとともにあった構造的弱点の結果でないことを明確にさせてください。ユーロを選んだ国が破滅の危機にひんしているのです。この国が破滅の瀬戸際にいるのは、欠陥のある通貨同盟に参加することを選んだからです。他の国にとってそうだったように、ユーロがギリシャの欠点をはっきりとさせたのです。


3.なぜ誰もがギリシャ人に共感を持つべきなのでしょうか? またこの国の本当の改革のためにどのようなチャンスがあるでしょうか?

Costas Lapavitsas

ギリシア人に同情する必要はありませんが、支援は必要です。本当は、これはヨーロッパの危機であり、もしギリシャの災難が働く人々の利益にそって解決されたならば、ヨーロッパの他の地域も恩恵を受けるでしょう。ギリシャが根本的な変化を必要としていることは疑いありませんが、支配的な社会層によって必要な改革が実施される可能性は高くありません。彼らは、まさに税金を払っていない人であり、国家と最も緊密な関係を持ち、広範な恩顧関係のネットワークを持ち、通貨同盟にとどまろうと必死です。ギリシャにおける本当の改革は、きちんと税金を支払い、腐敗と恩顧関係に苦しんでいる働く人々によって導かれなければなりません。納税に対するギリシャの悪名高い嫌悪感は、深い社会的、政治的な変化がある場合にのみに治癒されるでしょう。


4.ひとたび危機が始まった以上、ECBIMFによるギリシャ経済問題の誤診は、それらによる欧州債務危機の予測の大失敗に匹敵すると思いますか? またギリシャに強要された手荒い手段(hair-shirt)が事態を悪化させたのでしょうか。

Costas Lapavitsas

アングロ・サクソン世界には、通貨同盟は砂上の楼閣だと述べる多くの声が聞かれましたが、政策立案者がヨーロッパ危機を予測したという高い栄光を求めることはできません。それ以上に、「トロイカ」(EU IMFおよびECB)の政策が事態を悪化させてきました。それらの政策は、まず、国家の債務負担を減少させるために緊縮財政を含み、また第二に、競争力を改善するための構造調整を含みます。両者とも失敗し、ヨーロッパ中で危機を悪化させてきました。

緊縮財政は、公共支出の縮小と税金の引き上げをもたらし、かくして需要を削減しました。かくして企業は、困難に直面し、特に銀行が信用の供給を減らしいたときには、そうです。その結果は、失業率の上昇、消費の低下および投資の減少でした。ギリシャの数字は、戦争の被害を連想させるほどです。――失業率は22  、産出量の定価は およそ20  です。国民所得が縮小するにつれて、税金を集めることはいわずもがなのこと、公的債務および民間債務を取り扱うことも難しくなってきました。

構造調整は、さらに市場を自由化し、公的資産を民営化する一方で、労働コストを引き下げました。おそらく民間資本は新しい条件を利用し、それが経済に活力をもたらすと想定されています。しかし、ドイツが賃金を低く抑える政策に従う限り、賃金引き下げが周辺諸国の競争力を大幅に利することはないでしょう。一方では、自由化と民営化が効果をあげるには何年もかかるでしょうし、また、そのときにさえ、それらが有意義に生産性を向上させているかさえも議論の余地があります。一方、公共部門の大幅な削減は、実際には国家が税金を収集する能力を弱めました。ギリシャにおける過去2ケ月間の租税収入はぞっとするほどでした。この国は、公共部門の賃金と年金を支払うことができない状態からさらに一歩悪化しています。


5.欧州の政策立案者は、危機から学んだでしょうか? メルケルは何故出来事から何かを停止しているのでしょうか?

 

Costas Lapavitsas

 ヨーロッパの政治家が挑戦に対抗する能力を持っていないことから政策問題が生じたというのは、正しくありません。確かに新自由主義の考えはEUの政権担当者の内部に広まっています。ドイツの大学および政策立案サークルでは、政治経済学の古い伝統はほぼ死に絶えています。思想は様々な版の米国の大学の経済学に支配されていて、デフォルト・モードは自由市場のメリットを説いています。それは、しばしば貸し手の利益を前面にすえ、債務(の返済)は如何に費用がかかっても遵守されなければならないと主張しています。これは、しばしば「契約の尊厳」を守り、「モラルハザード」を回避するものとして示される態度です。肝心なことは、貸し手はたとえ考慮がなくても逃げることを許されるべきだが、借り手は責任を負わなかったのであり、費用を負担しなければならないというものです。

しかしながら、ドイツの姿勢も通貨同盟の内部の深い経済的および政治的利益、とりわけ輸出部門とベルリンの政策立案にかかわる銀行の結合された影響を反映しています。国内経済のパフォーマンスは目立たなかったとはいえ、ドイツの銀行およびドイツの輸出業者はユーロから大きな利益を得てきました。彼らは、通貨同盟の基本構造を維持することに熱心であり、実際、厳しい財政規律と労働の柔軟性を課すことを望んでいます。これらの政策は、ドイツの地政学的な利益を保護するものとして認識され、そこでドイツの政府は、まったく真剣に、通貨同盟には構造的に間違っているものは何もないと論じることができるわけです。明らかに問題は財政規律と経済効率を誤った周辺諸国に課すことにありました。


6.危機は、貨幣を発行するECB およびその他の中央銀行によって、また経済を泥沼からを救い出すためにまとめて借り、支出する政府によって克服されるでしょうか? そのような方策プラス債務償還の組み合わせは、うまく働くでしょか?

Costas Lapavitsas

危機は、2年以上の間悪化を許されてきました。それを解決するには、通貨同盟の広範な変化を要するでしょう。マーシャル  プランのようなものが、周辺国の生産性を引き上げる必要があるでしょう。ドイツの経済政策は変更されなければならず、賃金抑制を解除し、国内需要を刺激し、経済を輸出超過から均衡に復帰させる必要があります。周辺諸国の債務は構築しなおす必要があるか、それとも債務を削減するために持続的なインフレが必要となるでしょう。ヨーロッパの銀行部門は、租税の財源と銀行を閉鎖させる権力とを持つ国境を越えた機関が監督する必要があります。通貨同盟内部の貿易赤字と黒字の均衡を取り戻すためには、財政移転のシステムを作る必要があります。現在のEU の政治構造を考えると、こうした変化がどのように生じうるかを見きわめるのは困難です。こうした変化が周辺諸国のために間に合って起こるのを見るのはもっとむつかしいでしょう。

 


7.ユーロ圏は崩壊するのでしょうか? またそれはよいことなのでしょうか?

 

Costas Lapavitsas

ユーロ圏は、競争力、福祉政策、労働市場慣行、銀行のパフォーマンス、それに経済的文化と習慣を大いに異にする諸国を一つにまとめてきた欠陥のある構造体です。共通通貨を維持するための包括的な国家も、またもっと重要なことですが、共通の政体もありません。中心諸国と周辺諸国の間には鋭い断絶が生まれてきており、その断絶は過去 2 年間の政策の結果、より鮮明になりました。ドイツには通貨同盟を救うために大きな犠牲を払うつもりはありません。ドイツの労働者が長年直面してきた賃金抑制を考えると、これは驚くべきことではありません。ともかく、ドイツ経済にとっても、巨額な負担になる可能性があります。

ユーロ圏の崩壊がどんな形をとるかを予測することはできませんが、崩壊し始めることはありそうです。完全な解体、あるいは様々な国民通貨に囲まれた「ハードな」ユーロの創造がありうるでしょう。また最初の段階では国々による個々の脱退もあるかもしれません。どんな形であれ、通貨同盟の崩壊には莫大な費用がかかります。一つのヨーロッパ、つまりその過程をどのように管理するかという点に関する広範な公開討論を持つことが絶対に不可欠です。