食欲の秋、スポーツの秋、恋の秋、読書の秋、などいろいろな売り文句としか思えないような単語を頭につけた秋、SOS団団長さんは見るからに過去進行、現在進行、未来進行といえるくらい好奇心の秋であった。それと言うのも夏将軍が半ば退陣しシベリアから冬将軍が攻め込んできたためである、これによって俺たち人間の過ごしやすい気候ど真ん中の状態を保っていると言うわけだ。俺も言うまでもなくその大衆民族の一員であるからして行動がしやすくなったのは言うまでもない、しかしどっかの誰かさんは暑さとか寒さとかに比例するわけでも反比例するわけでもなく年中無休でSOS団の将来的なことと次に何をするかなどと、おどろおどろしいことを考えているらしい。そうそう、季節が変わり学期が変わればお前たちのクラスは大抵席替えをすることだろう、勘のいい人はもうお気づきであろうか、ハンドボール部顧問であり俺らの担任である岡部が黒板にカツカツと軽快かつリズミカルにランダムな数字を書き込んでゆく、そしてクラス委員が一番右前の生徒に番号の入った紙切れの缶ケースを渡し席替えがスタートする、この方式からするといくらでもくじが交換できるので男子女子はこぞってくじの交換をせがんでいる、俺も泣きたくなるような数字を引いた、交換もしくは谷口や国木田が近くに来ることを望んださ、しかしくじを引いた俺は何者かにネクタイを引っ張られ立ち上がるよしを失った、もちろんそこにいるやつが持ってるのは番号28番のくじ、ちょうど現在の位置と同じ窓際最後方に対応する番号である、言わずもがな俺のくじもどんだけ嫌がらせの好きな神様のせいだかは知らんが窓際後方二番目の番号、現在の位置そのままであった。
「またあんたの後ろ?」
悪かったな、でも黒板見ないんだったら同じことだろう、多少視界に障害物があったって寝てる奴にはまったく持って関係のないことだろうよ。
「それはそれで嫌なのよ、でもSOS団の秘密情報が外部に盗み聞きされないのはとてもいいことね、誰かが先にアイディアを奪うようなことが起こらないためには最適の体制だと思うわ」
でもどうせ俺が意見したって何にも聞かないつもりだろ、平団員だからナンとか見たいにいちゃもんつけて雑用使い走りその他何でもござれの役をさせられて。
「あ、やっぱりバレた?結局のところ席が替わるのが面倒なだけなんだけどね、それに訳の分からない奴が近づいてこない絶好の状態がこれだからね、あんたもいるし」
どうせ俺は年収ゼロボーナスゼロ定期休暇ゼロのボディーガードメンだろ、俺は正直お前を守るくらいなら誰かに踏まれそうになっている蟻の救出を最優先事項にするぜ。
「あんたは平団員なんだから命張ってでも私のことは守らなくちゃいけないんだから、別に私だけじゃないわ、SOS団みんなのボディーガードなんだから、それともあんた今度から平団員から専属ボディーガードに肩書きを改名してあげよっか?」
俺は朝比奈さん以外に命を張るつもりはさらさらないね(長門は自分でなんとか、いやそもそも俺がなんとかできないだろうし)、それに俺はいつから団員になったんだ契約書にサインすらしてないぞ。
「じゃあもう拉致ってことでいいわ、でもね古泉君は自分から来たようなもんだし、ユキは初めからいたし、みくるちゃんは自分から書道部やめてこっちに来るって言ってたし、あんただけよSOS団に不平を言うのは」
ツッコミどころが満載過ぎる、まず拉致はおかしい、そして古泉はお前が拉致してきたはずだ「即戦力の謎の転校生」とか言って、長門に関しては初めからいたのは文芸部だろうこれも拉致だ拉致、朝比奈さんに関しては恐喝と強制と拉致の三重苦である、これらをどうすれば「連れてきた」「初めからいた」「自分から来た」などの美辞麗句を並べられるのであろうか、俺には奴の脳の構造がどうなっているのか分からない、今度MRIでも受けたらどうだ自分の異常性がデータになって出てくるぜ。
考えてもみろ、担任の先公がいきなりつぶれそうな部活の部長をやってくれと言われ、嫌だと答えるも次の日の部長会の日程表を渡されようものなら明らかにその部活と先公に好意は持てなくなることであろう、まったくもってそれと同じ原理である。
「科学なんて信用ならないわそんなのに頼ってたらいつまでも不思議なんて見つかりっこないんだから」
そうだった……科学を超越する力を持つ女子高生それがハルヒだ。
ちなみに今日の授業も右から左、時を告げるチャイムの音も右から左、ボーっとしていると時間が過ぎるのはこれほどの早いのかというくらい時の流れと言うものを実感させられた。授業という名の強制労働をさせられた俺の脳は疲れているものの、もうすでにここから部室まで行く行為に移っている、眠ったままでも行けるくらい日常の1ページの中に自然にある行為なのである。
そしていつものように部室に行くしだいであったが、
「あっ、そうだキョン」
「なんだ腹でも下して今すぐにでもトイレに駆け込みたいから部活に行くのが遅れるってか」
「そんなんじゃなわよ、バカキョン。あたしは行くところがあるからみんなに行くのが遅れるって言っといてちょうだいね」
「まあ、いいが何か特別な用でもあんのか」
また厄介な事件を起こして生徒会に呼ばれたり教員室に呼ばれたりしなきゃいいんだが、とりあえず朝比奈さんが巻き込まれるような予兆があればハルヒが去った今すぐにでもメールを差し上げたいと思う。
「それは秘密よ、ヒ・ミ・ツあんたに知られたらいつどこでどんな奴に口を滑らせるかわかんないじゃない、とりあえずいいから言っときなさいよ」
と言い残してハルヒは学校指定のカバンを片手で振り回しながら鼻歌交じりに階段へと消えていった、奴が消えた後の孤独感というか脱力感というか……もう今すぐにでも帰宅したくなる。
やれやれ、嫌な予感がするぜ。
自然と俺は歩いていた、やがて部室と言う名の極上喫茶店についた俺を待ち受けていたのは……
「……」
みごとに期待はずれ、窓際にはこの部屋で唯一の先客、俺の出現にも関わらず石像のように下を向いたままのアンドロイド、長門有希であった。
「あれ、見たところ長門一人か、朝比奈さんはどうしたんだ」
「朝比奈みくるは今日は家の用事で帰ると私に告げ、帰った」
「そうかい」
相変わらす会話が短い、こんなときは俺からなるべく常人並みには会話が続きそうな話題を出してみるが無駄なのは百も承知である、
「おい、長門」
「何?……」
「そう言えばさ、この前もお前に世話になったよな、文化祭の時、あとコンピ研部長とSOS団のロゴマーク関連については特に」
これは朝倉襲撃の事件も含めての話である、長門も「この前も」の単語だけでおおよそ理解はしていることと思われる。
「私は改変された情報を是正しただけ、あなたが気に懸けることは何ひとつない」
「うーん、でも助けてもらってそのままというのもなんか気に食わない、俺の気持ちの始末がつかない、なんかこうお礼がしたいんだ」
「……」
黙ってしまった、この沈黙により部室内空気が冷凍庫並みに冷えているように感じるのは俺だけであろうか、この空白の時間が俺にはたまらなく耐え難い。何か返答に困るようなことでも言ったか、いいや言ってない、長門の返答が遅く感じるだけ、そういうことにしておこう。
やがて長門は瞬間接着剤で強力にくっついていたのかと思われほどまったく動きを見せなかった上下の唇を動いているのがやっとこさ確認できるくらい遠慮がちにしゃべった、
「明日ならいい……」
「そうか、じゃあ9時にいつもの駅前ってことでいいか」
「構わない」
「分かった、そうと決まれば、とびっきり美味いバイキングの店にでも連れて行ってや……」
ガチャ
このタイミングで古泉がやってきた、うーん何て間の悪さだ、もう30秒後ならけりがついていただろうに。ちょうど話がのってきていいところだったのに、もしMW(間が悪い)男選手権があればぶっちぎりで優勝できるくらい間が悪い。
「おや……お取り込み中のようでしたら終わるまで外で待って差し上げますが、どうしましょうか」
「遠慮せんでいい、お前はごく普通にいつものように笑って振舞ってればそれでいい」
「そうですか、それではそうさせていただきます」
そう言って古泉はいつものようにパイプいすに笑いながら座った、今日は何のボードゲームを持ってきたのかなんて知ったこっちゃねえが暇が潰せておもろい物だったらやってやらないこともない。
バタンッ
ここで勢いよくドアが開いた、まさかハルヒが来たかと思った俺が眼にしたのはぜんぜん予想すらつかないようなひとだった、
「ちわーっ!おやおやっ?まだハルにゃんは来てないみたいだね、まあいっか!そうそう今日はみくるが用事があるから帰るって言ってたからさ~、ちょっと伝えとこうと思ってね。それとももう有希っこから聞いたにょろ?」
朝比奈さんの同級生である鶴屋さんであった、俺の心臓はあわや破裂せんばかりに脈を打っていた、正直昼にいなくなった時点で何か起こるんじゃないかと思案を巡らせていたからな、この時は何かが始まったのかとマジで焦った。
「そのことなら長門から聞きました」
「うーんそうかい、それなら大丈夫だねっ!そうだ、どうせ暇だしこのままみくるの代わりでもしてみちゃおっかな?メイド服に着替えてお茶入れて、キョン君なんかに『はいどうぞ…』なんて言いながらおもいっきりこぼしちゃったりして」
一人できゃぴきゃぴと笑っている鶴屋さんであったが半分は本気であったみたいで、
「まあ暇だし今日一日みくるの代わりでもしちゃおうかな?一樹君、お茶はいかがかにょろ?」
「そうですね、お言葉に甘えて頂くとしましょうか」
ほいさっ、と言うと鶴屋さんはガスコンロに向かいてきぱきと、しかし見栄えよくお湯を沸かしお茶を作りはじめたが、よく見てみると急須を熱湯で暖めたりお湯の加減を確かめたりしている、さすが鶴屋家のお嬢さんと言ったところである。
「ほい、できたよ~!はい、有希っこ、お次は一樹君の分だ~!最後はキョン君のぶんっさ!味わって飲んでおくれっ!」
ありがとうございます、と心から感謝しつつお茶を口へと運ぶ前の行動でまず香りが違った、同じお茶葉を使っているとは思えない、飲んでみるとコリャまた美味い、そういう方面に長けていない俺でも美味いと思ったのだ。比べるようで悪いのだがこれは圧勝で鶴屋さんの勝ちである、朝比奈さんのお茶は愛情はたっぷり入っているがそれと比例して美味しさが引き立っていないように思えてしまう。
古泉が「いや~美味しいですね」とか言ってるのを聞いて俺も何かいい表現方法を脳内に保存されている料理マンガの1シーンから引用しようと検索をかけている最中、
ピリリリリ
やけに擬音を多用するようで悪いが、今度はどうやら俺の携帯電話のようである。携帯を開けると家からの電話であることと電池の残り容量が少ないことに気が付いた、手短に話をしないとならないようだな。
「もしもし」
「もしも~し、キョンくぅん、おかあさんが夕飯のお鍋の野菜が足りないから白菜とにんじん買ってきて~だってぇ~」
「買ってくると伝えておいてくれ、それじゃあ今すぐにでも携帯の電池が切れそうだし切るぞ」
「う~ん、そう言っとく。じゃあねぇ~」
ブツッ……
俺はこの時点で勝ち誇った、なんせ家の事情と言う最強にして最大の帰宅理由を手に入れたのである、ここにハルヒがいないのをいいことに俺は帰るのだ、さらばハルヒまた月曜日まで達者でな。
「聞いたところ妹ちゃんからのようだね……推理したところ……夕飯の買出しだねっ!」
「その通りです、見事な推理ですねホームズさん」
「何のナンの、これしき簡単っさ!推理なんて単純なことなんだよワトソン君!」
「まあ……というわけなんで、古泉、お前からハルヒに言っといてくれ、俺は家の用事があるので出席できないと。そうそう、今日はハルヒのやつ部活に遅れるって言ってたぜ」
古泉が次のフレーズを発する前に鶴屋さんが一言、俺に向かい言葉を発した、
「頑張るのだよ少年っ!」
俺はこの直感の鋭い先輩の言葉を聞いて、近い未来にまた大変な事件があるんじゃないかと思った、この人の鋭すぎる直感は幾度となく事の核心を得ているのだ、もはや長門の予言と大差ない。
しかし考えていても分からんことは分からん、朝比奈さんがいなければもう今日の部室に心残りはない、俺はいつもとメンバーの違うSOS団に別れを告げた。
その後俺は急いで帰路に着き、途中のスーパーで白菜とにんじんを購入し栄養を求め低い音でうめいている俺の胃袋に夕飯を与えるために俺は急いで家に帰り夕飯にありついた。そういえばこんなに早く帰れたのは久々なんじゃないかな。
もちろん勉強なんて面倒でうっとうしいことをやろうとは考えない俺はすぐに布団につき眠った、もちろん約束は忘れない、明日の朝9時駅前には長門がいる、8時半には着けるようにするために目覚ましを少し早くしておこう。
ちなみに俺には目覚ましの設定を変えた直後の記憶がない、要するに寝ていたわけだ、一日中左から右にいろんな単語やらが流れ、そして出て行ったために俺の脳はなぜか知らんが格段に疲労していたようだった、バイキングの店を検索し忘れたのはここだけの極秘事項にしていただこう。