しばらく映画から遠ざかっていたので、正月早々今年は少し映画を観ようかという気になりました。
そうは思っても映画館に足を運ぶ気にはなりません。
 
要するに、〈共視〉というか、他の人間と一緒にじっと同じ映像を見つめてそこに焦点が形成されてしまうというのが昔から嫌だったし、とりわけ近年それに抵抗を感じるようになって、そんなわけでiPadでのビデオ個的映画観賞ということです。
 
まずは、たまたま年末に見たスポーツ新聞、日刊スポーツ映画大賞の作品を見てみようかと、恐らくは見逃した名作があるだろうと探って、まずは2013年の「舟を編む」。
 
これはなかなか面白かった。
「大渡海」という辞書編集の話ですが、この「大渡海」、このネイミングの背景にあるのはあの大槻文彦著「大言海」でしょう。
ところでこの映画のどこが私の気に入ったのか。
 
要するに時代が的確に描かれているという点。
この辞書編集に関わる人間達、いずれも〈変人〉、〈変わり者〉とされているようですが、要するに皆、現代の“二進法革命”に乗れてないというか、あえてそれに背いている人間達。
 
激しく変転しつつある現代、やれ“グローバリズム”だとか“IT革命”だとか言われますが、根本はライプニッツに起源のある“二進法革命”がいよいよ本格化しつつあるということ。
そんな“二進法革命”の激流から身を置いて、辞書編集に没頭する主人公達をみてホッと心の安らぎが得られて、いい作品でした。
 
続いてみたのは2010年の「悪人」。
これはもう最低、最悪の作品,見終わった後も、後味極めて悪し。
 
精神的、道徳的にカスな人間を良識派を気取って救い上げようとして、薄汚い映像が出来上がった。
 
こんな映画を撮った監督李相日が悪いのか、こんな原作を書いた作家吉田修一が悪いのか。
或は、親鸞の悪人正機説を背景にした、こんな薄っぺらな、醜悪な作品を日刊スポーツ映画大賞に選んだ審査員連中が悪いのか。
 
まあ、こんな醜悪な世界があるから、対極の美しい名作の世界もあるわけで、反面教師ではありましたが