土曜日、昼食後、お茶でも一服って思っていたところに2kmほど離れたところに住むヤギ飼いの男の人がピックアップトラックでやってきました。


ぞんざいな口をきくこの人、以前から時々ヤギを探しに来たこともあって顔は知ってるけど、名前も名乗らない無礼な人だし嫌な予感しかしない…。


「おい、奥さん、あんたんとこの犬2匹が俺んところのヤギを追いかけ回していたんだぞ! どうしてくれる!俺知ってるんだ、シェパードと耳がピンと立った犬の2匹だぞ」


グッ…。


帰ってきたら2匹の犬が見当たらないから嫌な予感がしていたけれど、目撃情報があったら嘘もつけない。


「そうですか、家にいると思っていたので気づきませんでしたが…」


男性


「フェロメナ奥さんのとこも犬に噛まれたって言ってたけど、あんたんとこの犬の仕業じゃねーのか?」


「いや、全く知らなかったけれど、今後気をつけます」


その後は堂々めぐり。

まだ不満をぶちまけたい雰囲気ありありだったが、知らなかった、気をつけますの一点張りで会話を終わらせました。






私はうちの20頭のヤギの放牧へ行く準備をし、安全靴に履き替え水を準備し、長男に言いました。


「もし犬が2匹とも戻ってきたら抵抗してもすぐさま鎖につなぎなさい。あのオヤジさんの雰囲気じゃ今度見かけたら2匹とも殺されるよ、毒餌をまかれたら、それを食べたら一貫の終わりだよ。ここに不満を言いに来たってことは、もう二度目はないよ、あの人本気でやるよ」


私はウエストポーチに水とスマホを入れ、杖を持ってすぐさまヤギを放牧に連れ出しました。


うちのバカ犬どもが私と我が家のヤギの気配を感じて素早く家に戻ってきて欲しい。


ともかく山に行こう、と歩き始めました。








うちのバカ犬どもの所業に腹をたてながら、あの無礼なクソ親父にもムカムカが止まらない。


ちくしょう!!


餌をやり、可愛がり、これだけ広い2ha近い敷地内すべて金網で囲ってあるのに、わざわざ外まで出かけていって、なんで他のヤギを追いかけ回すんだ!?


犬どものバカヤロー!!






(写真中央が我が家)




ヤギについてテクテク山を歩きます。


灌木がないところは1メートルくらいのサボテンでもありがたい日陰です。







まだ気候は真冬なんですが、おそらく25度以上の夏日。暑いし、ジリジリ照りつけます。


歩いたり、止まったり、腰をおろしたり、ヤギの放牧に付き合いながら色々考えていました。








でも久々の放牧は清々しくて気持ちいい。


この感覚忘れていたな。


景色は緑にあふれ、花も咲き始めて春はもう間近です。


少しづつ私も冷静さを取り戻しました。









現代は、犬も猫もマスコットは普通の市民にとっては家族となっています。まるで我が子のように可愛がり、マスコットのために生活スタイルを飼い主が変えるのも、よく分かります。



でも田舎のヤギ飼いにとっては、犬は番犬であり、自分達の財産であるヤギを守る役割を果たしてくれないと困ります。


さらに他所のヤギを危険にさらしたり、殺しでもしたら、抹殺されても文句は言えないのです。


それが田舎の掟だからです。


もう今まで何匹も犬を失ってきました。









メスのルナは5ヶ月以上たってから我が家に来ました。どれだけ教えても叱っても、私がいない時に柵を飛び越え、家から出ていく癖が抜けない。


だから飼い主が手放したのかもしれない。


3ヶ月でもらってきたボビーは牧羊犬のベルジアンシェパード。賢い犬種なのに、5ヶ月毎日教えても未だにお手すら覚えられない。


どうにもおバカさんとしか思えない。


ルナは数日で覚えたというのに…。







9歳で死んだ雑種犬のトキは、一度厳しく叱っただけで二度と家から無断で出ることは無かったのです。


1km先にグスタボの運転するピックアップトラックがやってくる音を聞きつけると、凛とした眼差しを遠くにとばし、キリリとした顔つきでジッと「待て」の姿勢で帰宅を待っていたトキ。





知らない車が1km先の隣人の家の角を曲がるだけで、アラームのようにワンワカ吠えまくる神経質さ。


馬や他の犬の不法侵入を許さない、徹底的な攻撃性と私達への絶対服従。


本当に賢かったなあ、トキは。


犬は犬種や血統があれこれ言われるけど、我が家で飼った中で一番賢く従順で一番長生きして、病死するまで隣人に抹殺されずに済んだのは、このトキだけ。


残念だけれど、今のこの2匹の未来は暗いな。



トキの半分も役に立たないし賢くない。



賢くなければ外にフラフラ出ていって、他所のニワトリを盗んだりして隣人らに殺されるのが田舎の犬の運命なのです。


悲しいけれど、もうマスコットにも家畜のヤギにもあまり愛情を注がないように、と自分の心にいつもセーブをかけています。別れが辛いから。


残念だけれど、動物は動物。

分からない。

犬もヤギも私達がコントロールしきれない。









ルナとボビーの2匹の犬は、私が放牧から帰るまえに帰ってきて、子供達が鎖につないでくれていました。


私が散々叱ると、いつものように物凄く反省した顔つきで上目遣いに見上げるのです。


惨めくさった悲しいフリすれば許されると、そういうとこだけ妙に賢い。


もう何度も何度も叱っても覚えない。


ルナは分かっていてもやる確信犯。


ホント、ただ、無力感しかない。