全盲の柔道生徒、ホルヘの初試合がスタートしました。ホルヘは34歳94kg,相手は16歳120kgの巨漢です。





審判団からは審判の指示が聞こえないのを防ぐため、会場内は静粛にするよう要請があり、場内はシーンと静まりかえりました。

私たちもホルヘ頑張れ!!と大声援を送りたいのをこらえながらジリジリみつめました。

ああ!見えたらあと一歩前に踏み込んで大外刈りだ!とか言えるのに…ヤキモキしました。


最初は両者がっぷり組合い、うんともすんとも動きません。


大外刈りをかけようとするけれど相手のひざに触れるだけ、なかなかそこからが技に繋がりません。

いけ!ソコだ!って言ってあげたい!

それでもなんとか技ありをとるホルヘ。


相手の少年は初めてのゴーグルで動きもさらに緩慢で、ホルヘがもう一度技ありをとり、初勝利を決める事が出来ました。


「わ〜!!やった〜!

  ホルヘ〜!!!」

私たちだけでなく会場からも割れんばかりの拍手がおきました。

ホルヘも勝てた嬉しさと興奮で息を弾ませ笑顔が爆発!


私達クラブの子供達や保護者からもみくちゃの祝福のハグやキスを受けていました。

お父さんも興奮して息子を抱き締め、肩を揺さぶって笑顔で言いました。

「言っただろ、お前は出来るって!」
(Yo te dije, Tu puedes)

この言葉が私の頭の中でパーン!と花火のようにはじけました。

言っただろ、

お前は出来るって!

この言葉の重み。

全盲のホルヘと支えるお父さんにとってのこの言葉の意味。


何気ないありきたりの言葉のようで、私にはとても深く深く感じました。




見えないホルヘが柔道の練習を初めて半年。
週に1回の練習、なかなかまだ技が出ない遠慮がちな攻めのホルヘ。

きっと家族には不安を打ち明けたこともあったでしょう。


でもお父さんはきっと「お前はできる。Tu puedes」と言っていたはずです。










試合後の木曜日、いつもは参加しない木曜の練習にホルヘが参加し、一緒にお母さんのセシリアさんがついてきたそうです。(私は用があり欠席)


私との会話で、私がこの柔道クラブでは皆が、皆を助け合うようなクラブでありたいと言うのを遮り、「それは理想論よ、私は現実主義者よ、ホルヘは一人っ子なのよ」と頑なな態度を見せ、社会への不条理への怒りを隠さなかった女性でした。

でもホルヘの勝利をとても喜び、「試合には見てたら絶対に緊張しちゃうから行けなかったのよ〜」と笑顔で話してくれたそうです。

良かったなあ〜。

少しでもセシリアさんに「ホルヘは一人じゃない」って思えてもらえただろうか?





もちろん柔道の試合に勝っただけで彼の職を探せたわけでもないし、私は相変わらず何も出来ていないのです。


でもホルヘの挑戦に家族が喜び、ホルヘも何かひとつ自信がつけられたのがとても嬉しいのです。


そして私達に何かして欲しいともホルヘは思ってないのも事実です。


彼は全盲の恋人もいる大人の男性です。

会話も楽しく、知的で優しい人です。


私たちは柔道クラブの仲間として和気あいあいと楽しい時間を過ごす事だけで、彼も私たちを信頼し、とても楽しんでくれているのを感じられるのです。


(このテーマ、明日が最後です)