うちの柔道クラブの全盲の生徒のホルヘについての話の続きです。


ホルヘは34歳の穏やかな青年です。いつもお父さまが付き添って来るのですが、一度はお母さまもついてきました。


親しげに笑顔で感謝を伝えて来たので、私も少し話を聞くことにしました。







ホルヘのお母さまは、自分は心臓が悪く出産は命の危険があると言われるなかで出産し、2週間寝たきりでチューブにつながれていたと話し始めました。


そしてその可愛い一人息子の目が見えなくなると知ったとき、もう自分は車道に飛び出して轢かれて死んでしまいたいと自暴自棄になったこと、そして実は今でも彼の視覚障害を心の中で受け入れられないとはっきりと語りました。

 

その眼には怒りと言っていい色が浮かんでいました。


この世の理不尽さやホルヘが求職しても就職差別されている現実を恨み、冷たい世の中と人々を憎んでいるという様相でした。




 





私は声をかける言葉を頭の中で必死に考えて、声を絞り出しました。

 

「お母さん、お辛かったですよね、でもホルヘはとてもいい青年じゃないですか、私たちも彼と一緒にすごせてうれしいし、こうやって経験を共有してくれて感謝しているんですよ」

 

「そうよ、本当にいい落ち着いた青年だわ。目が見えなくても家の手伝い、庭をはいたり、ベッドのシーツだって替えるのよ。とてもいい息子よ。でも彼は一人っ子なのよ、私は心臓に爆弾を抱えているわ、親に何かあったら誰が彼の面倒をみてくれるかと思うとたまらないのよ」

 


「わかりますよ、私にもアスペルガーの息子がいます。ほらずっとあちらでウロウロして独り言を言っている子、あれがうちの次男です。障害を持っている子の親なら子供の将来への心配は当然ですよね」


と私は弁解のように言葉をつなげました。



 

「でもあの子にはほかの兄妹がいるのでしょう? ホルヘは一人っ子なのよ」とお母さま。

 

「そうですよね。でもこれは理想論かもしれないけれど、障害を持った人を支える社会を作っていくということ、この柔道クラブの目的も社会という言葉を入れているのはそれなんです。お互いを助けていく組織があったらいいと思うんですよ。」

 

「それは理想論よ、私は現実主義者だわ。」


と、私を睨むようにしてホルヘのお母さんは会話を終わらせました。

 

 

心にぐさりと彼女の言葉が刺さりました。






そうだ、私だって分かっている。


私の気休めのことばなんて、この場しのぎの思い付きだ。



 

実際のホルヘの就職先や収入源を確保できるわけではない。

私だって生活に汲々としている毎日なのに、何が彼に対してできると言うんだろう。

 

自分の偽善的な無力な言葉がこの母親と私の間にフワフワと漂っている感じがしました。

 

本当に難しい。

 

何が出来るんだろう。。。


どうにも気持ちが暗くなってしまい、まだ気持ちは晴れません。