“ラグビー登山家” 世界の山頂にトライする男の思いは… | ひさごのブログ

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NHKより

“ラグビー登山家” 世界の山頂にトライする男の思いは…

 

ラグビーボールを抱えながら世界各国の最高峰の登頂を目指す日本人がいる。自称“ラグビー登山家”。プロジェクトを始めようとしたとき、周囲からは、「バカだ」「アホか」と言われた。それでもやめなかった。自分を救ってくれたラグビーに恩返しがしたいからだ。(名古屋局 酒井麻利子)

長澤奏喜33歳。自らを”ラグビー登山家”と名乗る。

長澤の登山スタイルは独特だ。

ラグビーボールを抱えて山を登るのだ、それも肌身離さずに。

もしボールを前に落としたら10m下がり、スクラムの姿勢をとってから再び登り始める。

そう、前にボールを落とすと「ノックオン」という反則になるラグビーから取り入れたものだ。

そして、目指す山頂に到着するとボールを地面にトライするのが決まりだ。

「日本でラグビーワールドカップが開催されることを知らない人が多い。ラグビーに恩返しをしたくてこの活動をしている」

長澤はその理由を話す。

なぜ、ラグビー登山家に?

なぜ、ラグビー登山家に?

「ラグビーへの恩返し」

小学校の時、父親を病気で失った。

ふさぎ込み、大人に見せる顔と内面のギャップで苦しんだ。

そんな彼が変われたのが、高校でラグビーと出会ってからだった。

監督から「お前は甘えてる」と一喝された長澤。仲間と一緒に激しい練習に耐えたこと、勝利を目指したこと、それがその後の人生の糧になったと感じている。

しかし、ここまではよくある話だ。

学生時代に打ち込んだスポーツ、たいていは就職すれば縁遠くなる。長澤も例外ではなかった。その試合を見るまでは。

きっかけは3年前の大金星

きっかけは3年前の大金星

その日、世界が驚いた。

2015年9月19日。

ラグビーワールドカップイングランド大会、1次リーグ初戦の南アフリカ戦。

日本代表は、試合終了間際のトライで逆転、歴史的な勝利を挙げた。

それまでW杯では通算1勝。

引き分けを挟んで16連敗中の日本代表が優勝候補の一角を破る、大金星だった。多くの人が勇気と感動をもらったこの試合。

試合前まで、長澤は、まさか勝つとはまったく思っていなかったという。

「勝手に負けると思い込んで、全然期待していなかった。ラグビーファンの1人としてほんとうに申し訳ない気持ちになった」

それと同時に、前評判を打ち破った日本の勝利に感化され、「2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップを、盛り上げる一員になんとしてもなりたい」とラグビーへの熱い思いがわき上がってきた。

でも、長澤は、すでに30歳。職業もシステムエンジニア。ラガーマンとは縁遠い世界の住人になっていた。自分に何ができるのか…。

そんな長澤が目にしたのが、ラグビーワールドカップ日本大会のロゴマークだった。

南アフリカ戦の1か月後、発表されたマークは、富士山と日の出をモチーフに一体感や団結、結束をイメージしたものだった。それを見た、長澤はひらめいたのだという。

「日の出がラグビーボールに見えたんです。ラグビーボールが山頂に登山しているように…」

そして同時に決意した。

「富士山にラグビーボールをトライすれば盛り上がるのではないか。それも世界の名だたる山を制覇したあとなら一層ドラマチックになるのではないか」

過去のW杯出場国の最高峰制覇へ

過去のW杯出場国の最高峰制覇へ

長澤は、自らのホームページのトップにこうつづった。

『元ラガーマンの端くれが身体を張り、命をかけて、今までW杯に出場した国の最高峰へトライするこの企画。2015年イングランドでのW杯で日本代表が世界を驚かした。今度は僕が世界を驚かす番』

こうした始まった長澤の挑戦。ラグビーに教わったのは「甘えてはいけない」という信念だ。

勤務先の大手IT企業は退職した。退路を断った。

ただ、定めた目標を達成するのは容易ではない。

ワールドカップに出場経験がある25の国・地域の最高峰を制覇しようというのだから。渡航費や現地滞在費など、資金は1回あたり100万円は必要になった。
預金を取り崩して工面した。クラウドファンディングでも支援を募り始めた。

スタートは去年3月。ヨーロッパから攻めた。ポルトガル、スペイン、イギリス、ルーマニア…。長澤は、この挑戦をすべて”自撮り”で記録し、SNSで発信。すべては日本で開催されるラグビーワールドカップを知ってもらうためだ。

危険な体験は数えあげればきりがない。

2つめの山、スペイン・ムラセン(標高3497m)。

雪が降らないと言われていたのにその前日に大雪。登山者は長澤のみ。

そんな中、「クレバス」と呼ばれる雪の割れ目に落ちてしまった。

幸い腰の辺りまでの深さで、九死に一生を得た。こんなトラブルもあった。

ルーマニアのモルドヴェアヌ山(標高2544m)では、常に着ていた日本代表のユニフォームがなくなった。

コインランドリーで洗っていた衣類がごっそり盗まれたのだ。

ユニフォームを着て登るのも”ルール”。
長澤はTシャツにペンで色を塗った手製のユニフォームで切り抜けた。

しかし、次の目標のモンブラン(標高4810m)は、ぜひ”正装”で臨みたい。

そんな時、フランスで幸運の女神に出会った。

日本代表のユニフォームを現地の女子大生から借りることができたのだ。

ユニフォームを貸してくれたのは父親の影響でラグビーファンだったバーバラさん。五郎丸選手の活躍で日本代表を好きになり、宝物のユニホームを貸してくれたのだ。

自己満足にも見えるこの取り組みだが、長澤は手応えを感じている。

日本代表のユニホームを着てラグビーボールを抱えた”奇妙な”登山者に興味を持った海外の登山者から声をかけられるようになったからだ。

「外国人は気さくな人が多いので、『パスをくれ』とか。『お前は山頂にラグビーをしにいくのか』とからかわれる。ボールを抱えていることで、そこにコミュニケーションが生まれて、お互いが仲よくなれることを知った」

まだ、挑戦は道半ば

まだ、挑戦は道半ば

長澤はこれまでに半数近くの山に登頂。

挑戦を知った企業や見知らぬ人たちが応援してくれるようになり、クラウドファンディングでの費用の調達も軌道に乗ってきた。

直近は、6月に、北米最高峰の「デナリ」の登頂を目指す。

標高6194メートル、旧称である「マッキンリー」の方が日本では有名かもしれない。世界でも有数の難易度が高い山だ。

「デナリは非常に厳しい山ですけど気持ちが高まってきました。ラグビーの試合前のような気持ちです」

挑む山はまだ10以上も残っている。

残された期間はあと1年余り。長澤の信念は揺らがない。

「『ばかだな』『アホだな』と思ってくれてもいい。まずはラグビーに興味を持ってほしい。選手だけじゃなくてファンも一緒に戦うことを行動で見せたい。開幕まで、とにかく全力で突き進みたい」

出場国の最高峰を制したあと、最後に目指すのは日本の富士山。

W杯開幕の1か月前、来年の8月、富士山頂に、世界をめぐったラグビーボールがトライされるはずだ。