幕末において徳川幕府と大名家の関係は微妙なものがありました。
徳川幕府の15代の将軍が、途中から御三家御三卿からのものになっているのと同様に、各大名家においても養子が入り乱れている。
世継ぎに恵まれない大名家もあっただろうが、養子によって兄弟それぞれが大名となっているところもある。
本作の主人公は、松平容保の弟。
容保だけでも複雑なドラマがあるのにその兄弟までも、それぞれの家名を背負ったドラマがあるのに驚きです。
将軍家と血縁である限り、徳川幕府の命は時代の波よりも大切にしなくてはいけないものであるけれど、それゆえに翻弄される主人公。
会津藩が朝敵なのは有名ですが、桑名藩も同じくらいの危険視されていたそうです。
その血筋ゆえに逃れられない運命がある。
それぞれの領民にとっては「おらが大将」であるけれど、「大将」が流転の身となっては、領民も苦しいものがある。
しかも文字通り外国にまで流れていったという物語になっています。
第二次大戦後に公職追放された人々の復活のようなことがあったとはいえ、自身の身の振り方によって命を落とした多くの家臣たちに対して忸怩たる思いを抱えながら生きていった壮絶さが感じられつつも、育ちの良さからくる空気感の美しさが、上に立つ者の「矜持」を感じる作品でした。