この二人は黄金の産地の名前をあげてジパングの話をした。
彼らはその地をシバオと呼んでいたが、そこでは非常に
多量の黄金が産し、その酋長は金を打って作ったのぼりを
もっている、ただこの地は東のずっと遠方にあると語った。
岩波文庫　林屋永吉訳「コロンブス航海誌」168ページ

この本はコロンブスの第一回目の航海(1492年8月～1493年3月）
の航海日誌である。コロンブス自身が書いたものを
ラス・カサス神父がまとめたものである。

このため、この日誌ではコロンブスが「提督」という
三人称で出てくるので、コロンブスが書いたという
雰囲気がないが、航海の様子や寄港した島々での
先住民との接触についてかなり詳細に記録されている。
日記文学的な要素と冒険記録書という要素が兼ね
備わっていて、予想を超えて面白いものであった。

コロンブスの第一回目の航海にはいろいろな目的が
あったが、建前としては、

１　スペイン領土の拡大
２　キリスト教の布教活動による先住民の馴致
３　資源の獲得
４　ジパングへの到達

である。

これをサンタ・マリア号とニーニャ号、ピンタ号の
三隻の船で行くのだから、スペイン国王は、本当は
あまり期待していなかったのかもしれない。

しかし、行きの航海は概ね順調に進み、途中乗組員に
不安が募り騒動が起こるも、幸運に恵まれ、
サン・サルバドル島、キューバ島、エスパニョール島
（ハイチとドミニカ国がある島）に到達する。

彼らはきわめて臆病でありまして、千人かかっても、
こちらの三人を防ぐことはできないだろうと思われます。
したがいまして彼らは、命令を与えて、働かせ、
種を播かしたり、その他必要なあらゆることをさせれば、
良い者達なのであります。そして彼らに村落を作らせ、
衣服をつけて歩くことや、我々の習慣を教えればよいので
あります。（145ページ)

上記は12月16日のエスパニョール島での記述である。
この記録からコロンブスの意図が読み解ける。
彼はいわゆる侵略者ではなかった。国王の意を受けた
宣教師に過ぎない。少なくともこの一回目の航海では、
コロンブス自身も、彼を保護し送り出したスペインも。

国王に対する忠誠という意味において、彼の純粋な性格が
随所に表れている。しかし提督としてのコロンブスは
その都度適切な判断を行っている。

コロンブスの二度目の航海は1493年9月で17隻の船団に
1500名が参加した。今度は明らかに入植目的だった。
三度目の航海は1498年5月に6隻で行い、ついに南米
ベネズエラに到達する。

コロンブスはこの地がジパングだと疑わなかったらしい。
残念ながら、彼にとってジパングはあまりに遠すぎたのだ。

南米の国ではコロンブス以前と以後で歴史を分けて
語るようである。つまりコロンブス以前の自国文化の
繁栄と栄光の時代、以後の侵略と植民地化の歴史である。
南米の国々にとって、コロンブス到達は「悪魔の来襲」
と同義なのだ。

日本人はコロンブスに、
「ジパングに到達してくれなくて本当に良かった」
と言うべきなのだろう。やはり。

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