七夕 天の川物語 8
天の川の辺にあるこの町に、一軒の老舗の味噌屋があった 味噌の門屋と言った その
味噌屋の商いを営む商人が門の氏と言う
門の氏の店には大きな蔵があった 店の裏に行くと”ぷ~ん”と鼻に来る味噌の独特
な良い香りが漂ってくる いい香りを漂わせている所に目を向けると 白い壁の蔵が
目に入る 屋根が高く、いい雰囲気を醸し出してある蔵は気にさせる
近くまで寄っていくと何故か急に食欲が湧き出す様な気がしてくる 自分は昼飯は何を
食べたっけ?と思い出してしまう様な感じがする
蔵の入口まで来ると直ぐに目に入るのが、どっしりとした入口の引き戸だ 何度も開け
閉めしてるのだろう見て分かる そして戸を引いて開け中に入ると一瞬、足を止めて
しまうくらい静けさが待っている 徐々に目が慣れ始めると静かな空間の中に年季が
入った大きな樽がどっしりとしていくつも並んである事に無言で気が付く
どっしりとした大きな樽の横には楠の木で出きた梯子が立て掛けられてあった これも
また何度も人が登り降りしてるのだろう 足掛けの部分だけが色が落ちて木目が出てる
梯子の端を両手で持ち登る ちょっと軋む音を出しながら上まで登ると赤茶色の味噌池が
待っている 良く見ると小さい泡をブクブクと出している まるで生きてるようだ
そこで、じっと静かにして聞いていると大きな樽の中から小さい微音を出しているのが
分かる 泡が可愛く破裂する音だ 何か味噌自体が語り掛けているようにも思えてくる
神秘的な像影 新たな味噌が樽の中で押し蔵饅頭でもしているのだろうと思ってしまう
門の氏は味わい深い究極の味噌をずーと丁寧に、直向きに研究し造っている職人でも
あった 味噌は古くから、ここ陸前に伝わる秘伝の味噌で”仙台味噌”と言う味噌で
あった 町や村の人々からは、堪らなく美味しいと評判で、食卓には必ずと言った程の
定番 ここの店には数多くの客が毎日のように買い求めに来ていた 門の氏は昔から続く
由緒至る列記とした老舗の味噌屋の店主だった