「ドロステのはてで僕ら」
[原案・脚本]上田誠
[監督]山口淳太
[出演]土佐和成 / 藤谷理子 / 石田剛太 / 酒井善史 / 角田貴志 / 諏訪雅 / 中川晴樹 / 永野宗典 / 本多力 / 朝倉あき
ある雑居ビルの2階。カトウがギターを弾こうとしていると、テレビの中から声がする。
見ると、画面には自分の顔。しかもこちらに向かって話しかけている。
「オレは、未来のオレ。2分後のオレ」。
どうやらカトウのいる2階の部屋と1階のカフェが、2分の時差で繋がっているらしい。
“タイムテレビ”の存在を知り、テレビとテレビを向かい合わせて、もっと先の未来を知ろうと躍起になるカフェの常連たち。
さらに隣人の理容師メグミや5階に事務所を構えるヤミ金業者、カフェに訪れた謎の2人組も巻き込み、「時間的ハウリング」は加速度的に事態をややこしくしていく……。
襲いかかる未来、抗えない整合性。
ドロステのはてで僕らは ――。
6月5日より「じわじわ」封切りされているヨーロッパ企画さんの初長編映画。
初日のオンライン上映会で拝見致しました。
はちゃめちゃに面白かったので、観た直後から感想を書き散らすのとアーカイブ配信を何周もするのとを反復横跳びしていたら土曜がいつのまにか溶けた。
それくらい凄い映画だった。
細かい経緯は省略しますが、この自粛期間中のアレコレを経て私は今ヨーロッパ企画さんにドドドドドドハマりしております。
知れば知るほど面白い。
楽しい事を作り出すことにかけて天才的な方々の集まりだと思います。
私も観劇にハマってかれこれ10年近くが経とうとしているので、観客を「楽しませる」ことが抜群に上手い方々も「自分が楽しみつつ楽しませる」ことにかけてピカイチな方々も、自身の推しを筆頭に大勢観てきたつもりです。
でも2月から今に至るまでに、そんな方々が供給してくれたエンタメを当たり前のように浴びていた日々は一変してしまった。
作り手側も観客側も、その機会がことごとく奪われてきました。
そんな中で、毎晩のzoom生配信を見て知ったヨーロッパ企画という劇団の「強さ」は本当に衝撃だった。
劇団員の皆様が手作りご飯を持ち寄って喋るだけのオンライン飲み会的な夜もあれば、過去コンテンツの解説や観賞会、はたまた部屋紹介から謎の三択クイズ大会。
手を替え品を替えた企画、どれも確実に面白い上にやってる側がただただ楽しそう。
「zoomで何かする」というシンプルな括りの中で、打てる手の量も質も半端ない。
この御時世に一早く適応して何かを作り出すことは、やってる内容が…あくまでもこちらが見てる分には…基本的に肩の力を抜いたユルいものがほとんどなだけに、凄味すらある強さだと思いました。
(この強さに関しては上田誠さんご自身もこちらのインタビューで話されてるんですが、うんうんと首がもげるくらい頷きたくなる内容です。)
元々お芝居も数本拝見していた好きな劇団の1つではあったのだけど、彼等のおかげで私の自粛期間は辛いだけのものじゃなくなった。
エンタメを愛する人間にとっても暗闇だったここ数ヶ月の中で、私に毎日の光をくれた最も大きな恩人の一つは間違いなくヨーロッパ企画。
2020年前半戦が悲しいばかりの思い出にならずに済んだのもヨーロッパ企画さんのおかげです。
前置きが長くなりましたが、そんな中で公開延期になっていたこの映画がいよいよ封切り。
しかもオンライン上映会に舞台挨拶&アーカイブで翌日までリピート可能という出血大サービス!
本編だって、ヨーロッパ企画が満を辞して繰り出してくる映画が面白くないわけがない。
伏して感謝しながら、この配信大渋滞時代に最優先で私のスケジュール枠にねじ込んだ「ドロステのはてで僕ら」。
素晴らしかった…!
「映画でしか出来ないヨーロッパ企画」であり「ヨーロッパ企画でしか出来ない映画」だった。
これはファンになった贔屓目を除いても本当に凄い作品だと、上映後に拍手もスタオベも出来ないことに歯噛みしながら、しみじみとした興奮に胸を熱くしながらエンドロールまで見守りました。
時間SFのテーマ自体はヨーロッパ企画さんも過去作品で多く描かれていますし私自身も好みど真ん中なので噛み合うのは当たり前なんだけど、それ以前に
「前人未到の長回し」×「モニター映像との対話」
これがとにかく凄い。
脚本の面白さもさることながら、この要素が「ドロステのはてで僕ら」をとんでもない、他では観たことない、絶対に観られない作品という枠に押し上げてる。
映画を観るのは好きですが技法だの手法だのの知識はまるで無い私でも、一つ分かりやすく食いつけるとしたらまず「長回し」なんですよね。
「ドロステのはてで僕ら」は予告編にもある通りの超長回しで構成された映画です。
メイキングを観るまでは
「これ本当に70分ノーカットで撮った…?ヤバくない…?撮影、地獄とかいうレベルじゃなくない…?」
と思ったくらい。
(そう思えるということは編集も凄いんだろうな)
そもそもヨーロッパ企画さんは劇団なので、普段から一発勝負の生の舞台をこなしているわけで。
この方々の舞台を見れば痛感する通り、毎回早替えや各種仕掛け、機械操作等の段取りが異常に多いコメディを抜群の技で見せてくれる集団なので。
そりゃこういう撮影なんて得意分野では?
…というどころの話ではない。
生身の役者が相手ならまだしもモニターとの会話、それも後述しますが設定上「2分」の縛りが最大の肝なのでリアルに秒刻みのタイミングが命。
映像との整合性を保つ為には、どれだけ長回しでもほんのちょっとの台詞のブレが命取りだから完璧でなきゃいけない。
予告編最後のNGカットで土佐さんが崩れ落ちていらした理由、鑑賞後ならいよいよ分かるよ。
もう「よぅこれを長回しでやろうと思ったな」と、最大級の賛辞と拍手を送りたい。
そしてまさに、この撮り方でなければ成り立たない面白さでした。
この「2分」という短さで刻んでくるタイムリープってあまり類を見ないと思うんですよ。
こちらの生配信で「時間三兄弟」の方々も仰ってたように、本当に絶妙な設定。
2分で出来る事って、起こせる事ってこんなに多いんだ!?っていう新たな気付きも得たりしつつも所詮はたったの2分。
上映時間の70分は劇中のリアルタイムと同じ、追う時間線は徹底して「現在」、加えて前述の通り超長回し連打の実物とモニター映像で描かれる時間のミルフィーユ構造。
結果、「現在」はあっという間に「過去」に、「未来」がたった2分後にはもう「現在」そして「過去」へと流れていく時間が物理的に可視化され、これでもかと観客を襲う。
成る程これが「時間に殴られる」ということか!
延々と続く過去と未来の合わせ鏡の中を、登場人物と一緒にいつの間にか観客も端から端まで突っ走らされている。
遠くに見えていた「未来」だったはずのものをあっという間に「現在」が追い越して「過去」へと流れていく様を見ながらひたすら画面の枠を進み続ける…。
中盤はまさにその畳み掛けで、凄まじい没入感でした。
会話や行動はいかにもヨーロッパ企画らしい緩さでずっと可笑しいのに。
そう、設定の奇抜さに対して登場人物達がやってること自体は、言葉を選ばずに言えば「ちっせぇ」んですよ。それが良いんですよ。
色々並べましたけどシンプルにもう「上田さんの脚本が好き」そして「ヨーロッパ企画の役者が好き」なんですね私は。
この映画も基本はドタバタコメディなんですけど、時折ピリッとする不穏さがあれば思わずニコリとする甘酸っぱさあり、笑いと不安とエモさの匙加減がもう絶妙。
対峙する相手が時間や未来という巨大なスケールなのに、あまりにちんまりした人間の行動が愛おしい。
そして、一見抗えないものに対する向き合い方がとても私の腑に落ちるのです。
それを演じる役者一人一人をもっともっと観ていたいと欲しがってしまうのもやめられない。
冒頭から出ずっぱりの土佐さんの淡々としながら芯の強さがある佇まいを筆頭に、各登場人物の役割や劇中での色が見事にハマる美しさはラストに至るまで惚れ惚れしてしまいました。
あぁ、今すぐ皆様映画館に走ってくれと声を大にして言えない現状が1ファンながら本当にもどかしい。
何の心配もなく映画館が開く中、満席の劇場が上映後に拍手喝采で満たされるような環境で封切りを迎えて欲しかった。
チケットを求める人達でごった返す中、私も三度四度と映画館に足を運んで観たかった。
社会現象となる中で劇団本公演の情報解禁がなされて、「ああぁチケットが人気過ぎて取れない!」と頭を抱えながらも誇らしく笑いたかった。
でも、この環境下でなお「じわじわ封切りキャンペーン」という印象的なフレーズで銘打って映画館の支援もしつつ、オンラインで盛れるだけの特典満載で打ち出して来るのもまた、ヨーロッパ企画様の強さなんだなぁ。
「転んでもただでは起きない」じゃなく「転んだからこそ出来る起き上がり方を考える」。
強い。一生推していきたい。まだファンになりたてだけど。
ここまで既に長くなってしまったのですが、以下はネタバレ感想になります。
あらすじとか別に何も説明していないし本当にゴリゴリのネタバレなので、鑑賞済みの方だけどうぞ。
全て自分解釈です。
仲間たちの助けを受けた主人公が、悪役に囚われたヒロインを救う。
見様によっては物語の王道展開なのをあんなに非凡に描いて見せた、闇金業者の部屋に殴り込み場面が好きすぎるー!!
お約束ではありますがやっぱりここがアガりました。
ケチャップ、シンバル、ゼブラダンゴムシ。
ここに来て伏線だったと判明するアイテムを順番に届けに走るアヤちゃん、コミヤ、タナベ。
フル装備で乗り込んで、ケチャップを過去テレビの前にかざすマスター。
きちんと察して「お腹に入れてきて」と指示するオザワ。
流れを読んでシンバルからは代わりにTVに見せる役目を果たすメグミさん。
そしてこの期に及んでドロステレビに何一つ関心を示さずツッコミすらしない闇金コンビ(笑)
全部が全部見事に繋がる素晴らしいシーンでした!
ケチャップ見せが終わってから流れ出すBGMが、ユル〜〜いのもいいんだよなぁ。
普通もうちょっと緊迫感盛り上げていくでしょ、てなるんだけど、この作品ではきっとあれが大正解選択肢なんだ。
もう軌道に乗ったことが分かったから緊迫感は不要で楽しめる、その欲張らなさがこの作品の良さなんだ。
そしてその良さがそのまま、主人公である土佐さん演じるマスターの良さに通じるなぁとも思いました。
私ねぇ、兎に角もうメグミさんのくしゃみを見た後のマスターの一瞬の表情が好きで好きで…!
びっくりしてるようなんだけど「ダメですよ!」っていう寸前にほんの少しだけ笑顔と言えなくもない顔で。
想い人であるメグミさんがこの時間を「忘れたくない」と思ってくれた。
ドロステレビの仕組みも正しく理解しているメグミさんが、その未来をねじ曲げてまで忘却を拒否した。
とばっちりであんな怖い思いをしたのに、自分と会話したこと、助け出されたことを忘れまいとしてくれた。
自分より先に、メグミさんが先陣を切って「時間」を「殴り返し」た。
ひたすらに決まった未来を拒否し続けたマスターにとって、これは二重三重に幸せなことだったんじゃないか。
そう思って、時空局の2人には悪いんだけど観ているこっちはちょっと涙目になりながら顔がニヤケるのを止められなかった。
土佐さん、「サマータイムマシン〜」ではそれこそタイムパトロールに助走つけて殴られそうなお調子者の役がどハマりだったのに、このマスター役の「この人しかいない」感はまた凄い。
それまでの演技も勿論素晴らしいんだけど、私はこのシーンが何より好きだなぁ。
一応接客業の手前か、アヤちゃん相手以外だと徹底して敬語を貫く物腰の柔らかさが時々崩れるのも好き。
オザワさんに「勝手にしろ」って吐き捨てるとことか、ドロステレビ爆誕に騒ぐ一同にうんざり気味なとことか。
ローテンションで未来に対して消極的だけど、決して臆病ではないんだよなぁ、少なくとも惚れた女性を守る為なら。
そんなマスターが想いを寄せるお相手であるメグミさん。
朝倉あきさんは不勉強ながら初めて拝見した女優さんですが、素敵だ!
劇中では警戒してたり緊張してたりな場面が多かった分、終盤でリラックスしてマスターと会話してる時の微笑ましさがより映える。
モニターの中のオザワ&アヤちゃんと同じ顔になって、2人の会話を覗き見している気分に。
藤子先生の話題で意気投合してテンション上がってるのも可愛い。
というか藤子作品好きという意外なポイントですけど、だからドロステレビの理解早かったんだな、SF脳の地盤があるんだなと納得出来て面白かったです。
先に書きましたけど、闇金事務所でも何も言われなくても過去テレビへの合図の必要性を理解してたし。
藤子先生は偉大(結論)
未来を知ることへのスタンスも、きっとマスターとメグミさんは共通しているので。
この先恋人と言う関係に発展する未来が来るかは分からないけど、最後に見えたドロステの先の、そのまた先を想像するとポジティブなものしか浮かんでこないな。幸せだ。
そして同時にウザったく冷やかす常連客の姿も目に浮かぶという(笑)
常連客の面々登場は、ある意味本編中での「予告」のようですごく不思議な感覚だった。
モニター越しの初登場。
「お、2分後に来るのね」
とまず理解するんだけど、映画的にはこれでもう「登場」は果たしているはずなんだよね。
あれ、何この感覚?って、あんな不思議でワクワクする登場シーンもなかなか味わえない。
コミヤ役の石田さんにタナベ役の諏訪さん、そしてアヤちゃん役の理子ちゃん。
この3人のシーンは「これぞヨーロッパ企画お馴染みの!」て感じでずっと楽しかったなぁ。
スケールのでかい非現実的な現象に向き合う時でも、人間って(勿論、きっと私も)どんなに頑張っても自分のキャパ以上のことは捻り出せないんだよなってよく分かる、会話や行動の小ささがキュートで可笑しい。
マスターがずっと消極的だから一層彼等の調子の良さが目立つのだけど、いやいや普通そうなるよね。
最初はテンション上がってるのに、徐々に「2分って微妙だよね」「一旦会議しよう」とちょいちょい冷静になるのも等身大で良い。
また、この方々はそういう役回りが上手いんだ!
序盤は特に石田さんのコミヤの勢いでかなり話が引っ張られて、おかげで観客もぐいぐい物語に没頭出来ましたし。
石田さん、流石でした。
更にそこに諏訪さんが加わったらもう無敵の爆進力じゃん。
状況に対する一言一言の台詞の言葉チョイスがまたおかしくって、ずっと聞いていたいやつだ。
タナベさん、最後にゼブラダンゴムシをマスターに渡す時の「格好良かったよ…!」って台詞が地味に好き。
「未来のネタバレじゃん!」とこの作品において一番無意味なツッコミが頭を過りつつ、一番お調子者っぽいタナベさんが感極まってるぽい局面に期待が増したので。
諏訪さんも、この辺りのバランスが絶妙なんだよなぁ!好き!
そして、ちょっと異なるブレーン的役回りのオザワ役の酒井さん。
大好き揃いなヨーロッパ企画の役者さん方の中でも私の最推しです。
つか、オザワさん予想以上に大活躍じゃないですかー!嬉しい!
どんだけ地頭の良さと時間への興味が噛み合えば、あの短時間で瞬時にドロステレビの発想と理解・活用に漕ぎ着けるんだ。
そしてどんだけ好きなら、その技をゼブラダンゴムシGETに全振り出来るんだ。
メグミさんが連れて行かれて一同大混乱シリアスムードの中、全然空気読まずにはしゃぎながら帰ってくるの可愛かった。
叫び方が完全にポケ◯ントレーナーだった。
ガチャの結果だけはしっかり過去の自分宛に叫んでいくのには笑いました。
勿論整合性を保つ為なんだろうけど、半分はタイムパトロールの皆様が言うところの「私利私欲」では?
と勘ぐりたくなるあたりがまた、好き。
というか基本ツッコミ側の酒井さんがボケる側に回るのが好きなんだよなぁ。
中盤ほぼずっと(モニター内も含めた)過去・現在・未来のオザワだけが喋り続けてるシーンはとにかく圧巻でした。すっごかった。
演技もさることながら、これがあるからオザワが戻ってきた時の安心感も半端なかったのよ。
アヤちゃんと一緒に「オザワさーん!」ってなったよ。
いてくれたらとりあえずなんとかしてくれそうなドラ◯もん的ポジション。
というか後の3人のの◯太感が強い。
あとこれは本筋にあまり関係ない酒井さん褒めなんですけど、このお方の声が好き。超好き。
普段なかなか集中して聞けることがないんですけど
(何せヨーロッパ企画において、特に酒井さんが登場する局面は情報量が多すぎて忙しいのである)
本当に澄んでてよく通って、綺麗なんですよね。
ショートコントやラジオドラマで聞かせてくれる歌声なんて最高。
私の耳がずっと幸せ。
いつかヨーロッパ企画で音楽劇を、なんて期待も持ってしまいます。
あまり想像は出来ないけど、だからこそ観たい。
アヤちゃん役の藤谷理子さんは、今私が宇宙で一番可愛いと思っている女優さんの1人なんですが今回も余すところなく可愛かったです。
動きも表情も何もかもが可愛くて、そして上手い!
マスター土佐さんに次ぐほど冒頭からずっと出ずっぱりで、理解度の意味でも一番観客に近い立場にいたんじゃないかなぁと思います。
だからアヤちゃんが場面にいるとホッとした(笑)
ドロステレビに対する疑問の投げかけとか、令和の次の元号を2分後に聞いちゃうヤラカシとか、かなりこちらの理解を助けてくれた。
オザワさんとアヤちゃんは2人揃うと私の中では完全に癒し枠でしたね…。
先程も書いたけど、メグミさん救出後に過去テレビの中から、2人ニコニコとカトウさん達の会話を見守っているのがめちゃくちゃ可愛かったなぁ。
アヤちゃん合流前のオザワさんの「ほぉ〜ん?」みたいな表情も絶妙で!
もし全ての記憶を既に消された後だとしても、あの時の記憶の断片くらいは残っていてほしいな、と思うくらい微笑ましい光景だった。
…というか、あの4人が何事もなくちゃんと目覚めていると良いなぁ。
見る限りではオザワさんもアヤちゃんも、おそらくコミヤ&タナベさんも忘却剤を飲むことなくいきなり眠らされているようなので、目覚めたら一応記憶は保っているという解釈でいいのかしら。
それとも時空局のあのハイテクな謎銃は、忘却剤より乱暴に強制的に記憶を消し去ったりする機能があるのかしら。
あとラストでコーヒー飲みながら盛り上がるマスターとメグミさんの図はあまりに可愛くて最高に愛しくなる終わり方なんだけど、まず外の階段で伸びたままになってるコミヤさんとタナベさんを回収してあげて欲しい(笑)
そして彼らはまだしも5階はどうなってるんだろうか…。
5階突入組の時空局もおそらく消え去っただろうから、間に合っていれば闇金の彼らは無事なのだろうけど。
というかあの2人はマジで清々しいくらいドロステレビの存在スルーだったから別に放っておいてよかったのでは。
と思っちゃうくらい謎のSF無関心を貫いた闇金コンビはフルヤ役の角田さんと、ナリタ役の中川さん。
私、角田さんがガラの悪い役するのがはちゃめちゃに好きなんですよ。
というか「月とスイートスポット」での香港マフィアが時々洒落にならない怖さと不気味さを醸すのがめちゃ好きだったんですよ。
声が思いの外高めでいらっしゃるから、余計凄味があるんですよね。
だから今回は予告の不敵な笑みで既にワクワクしてたんですが、本編では良い意味で裏切られました。
あんなに強面なのに着てる服のデザインが可愛すぎでしょ貴方!
しかし
「そいつ今反省中なんだけどぉ」
の言い方と笑みにはゾワッてしましたね。
これ、これ!私が好きな角田さんの怖いやつ!
その手からあんっっっなに可愛いイラストが生み出されるとは思えないやつ!
中川さんのナリタも「ザ・チンピラ」な雰囲気が最高。
前半での恫喝顔見せからもう貫禄が違う。
893屋さん役が板につきすぎでは。
カフェに乗り込んできて
「令和の、ブルーレイの御時世に」
と言いながらビデオデッキをガンガン叩いて威嚇するところがめちゃくちゃ怖かった。
あと「待機でー」の言い方も好き。
彼ら2人の登場まではほぼドタバタコメディ一色だったこの作品において、文字通り未来から彼らの姿が徐々に近づいて来る不穏さにはゾクゾクしました。
モニター越しではなく、「現在」でカフェの入り口が開いて2人の姿がチラッと見切れるシーンなんて「来たぁ!」ってビビリと興奮が同時に襲ってきて、劇中でも特に好きなカットのひとつです。
不穏な未来に現実が追い付いてしまった瞬間。
そんな柄悪格好良い2人が事務所に帰れば、横長ソファにロープでヒロイン縛り付けようとして四苦八苦してるの笑うしかないでしょ。
つか、私がメグミなら笑うわ。
どの口が「素人に舐められたら終わり」などというのか。
それどころじゃないのにドスの語源に憮然としたり虫の模型にビビり散らかしたり、徹頭徹尾恐怖の悪役じゃないそのダメさと愛嬌がいい。
角田さん中川さんの持ち味もあって、悪役なんだけど結局憎めないまま終わらせてくれる。
だから後々時空局が「歴史から消してしまって問題ない」としれっと言う言葉にも、忘れずに反感を持てるのだと思いました。
その時空局である本多さんのイシヅカと永野さんのキンジョウは、格好いい!
登場した瞬間から
「ははーん、この次元以外から来た系の人だな!」
とピンと来ますけど(笑)
その顔見せ以降は終盤も終盤にならなきゃ登場しないから「よっっ!待ってました!」感が凄い。
闇金問題も解決して大団円か、と思った直後ですから余計に。
そして、この2人をあんなに「ボケが一切通じなさそう」と思える空気を醸し出す役で…という意外性込みでめっちゃ格好良かったです。
舞台でやるとなるともしかしたらもっとSFっぽい小道具満載になったかもしれないけど、今回は銃と腕輪だけで後はシンプルに捜査官っぽいのがまたシブい。
そんなビジュアルから繰り出される「タイムパトロール」「時の牢獄」「時間犯罪者」等々のワードには他ヨロ企作品を思い出したりもしてついニヤリと。
(いつかこの辺りの界隈をがっつりメインで描いた作品も期待したい気もあり、あくまでぼんやりとした「なんだか凄そうな匂わせ」のままでいて欲しい気もあり)。
でもその格好良さをもってしても、薄れて消えていく時は思わず笑ってしまいましたね。
実質サノスの指パッチン(byアベンジャーズ)どころの騒ぎじゃない理不尽さでキンジョウ&イシヅカだけでなく未来の人々の存在全部かき消えてしまったわけで、冷静に考えればとてつもない悲劇なんですが。
でも、永野さんがあの喋り方を発動したら笑うでしょうそりゃ!
あれは無理だった。声出して笑った。
映画でも永野さん節が聞けて嬉しかったよ!
本多さんの、先程までの威圧感と冷静さが嘘みたいな慌てっぷりも可笑しいったら。
「飲んでいただけますか、二つの意味で」
なんて上手いこと言って余裕かましてたらそんなことになるんだ。
どんだけふてぶてしくて高圧的でいけすかなくても、この人達ですら愛嬌があるのがヨーロッパ企画作品の魅力、役者の素晴らしさ。
そこまでとのシーンの落差で、いかにマスターとメグミさんが喰らわせたカウンターが強烈だったかどんな台詞より雄弁に説明してくれるお2人の演技が流石でした。
ただ欲を言えばもっと見たい!
この2人のタイムパトロールが見足りない!(欲張り)
凄く良いキャラだったので、いつか何かの形でまた登場してはくれないだろうか…。
先の闇金コンビへの言及といい「我々の礎」発言といい、「未来」は過去のマスター達のことなんて歯車のほんの一部程度の扱いなんですよね、きっと。
だったら別に、現在だってそんな傲慢な未来のことなんか気にしなくていいのでは。
だって、まだ何一つ存在しないし決まっていないのだから。
少なくとも今のマスターとメグミさんにとっては。
この決着、キャッチコピーを借りるなら「時間を『殴り返す』」が許されるのは、決まった未来を拒んだこの2人だけなんだよなぁと思いました。
だって最後は、ドロステレビを利用して未来を知ろうとしていた面子はひょっとしたら記憶を飛ばされてしまっていて、2人だけ記憶を保ったまま幕を閉じる。
未来を知ろうとすれば未来に引っ張られ、それを避けた者だけが自分自身で新しい未来を掴む。
物語の構造は面白くもややこしかったけれど、削ぎ落とせばシンプルにそんな寓話的な物語も浮かぶ。
上田さんが書かれるこの時間に対する考え方、向き合い方(突き詰めると時間への倫理観?)が、私はとてもしっくり来る。
私利私欲で未来を知って動いてもろくな事にはならず、それに振り回される姿は滑稽。
でも知ってしまった未来があるなら、人間はそれに従って動くしか出来ない。
その代わり、まだ見ぬ未来ならいくらでも自由に決められる。
どう生きたって良い。
だから「ドロステの果て」つまり未来が見通せる一番遠く、とはいつでも「現在」であるべきなんだよな。
と、最後に並んでモニターのスイッチを切る2人の笑顔を見ながら思った。
そんな素敵な終わり方をしたので野暮だとは思いつつ、これ続編見たいですねぇ!!
毎回15分くらいのシリーズが良い。
性懲りもなく未来を知りたがるアヤちゃんと常連客一同に、嫌がりながら巻き込まれるマスターとメグミさん。
相変わらず何故かドロステレビには無関心な闇金コンビに、毎回止めに来るけど最後にはお約束でパラドックスを起こされてボヤきながら消えていくタイムパトロール(可哀想)。
いかがでしょうか淳太監督、上田先生。
と、長い感想になりましたがもう〆ます。
メイキング拝見する限り、ごく一部からでも撮影の過酷さが伝わってきて震える。
そのおかげで今、私は素晴らしい作品に出会えた興奮が一夜経っても冷めやらない状態です。
監督の山口淳太さん、脚本の上田誠さん、主演の土佐さんを始めとしたキャストの方々に、ヨーロッパ企画を知れば知る程知っている名前が増えていくスタッフの皆様。
本当に本当に、この「ドロステのはてで僕ら」という傑作をありがとうございます!!
ところで本編に関係ない話なんですけど、我が家にはPCがないのです。
オンライン配信系は、基本的に全てスマホから見ています。
今回もスマホ待機させてたんですけど、どうもスマホ視聴が出来ないらしいと気付いたのが開演の30分前。
四苦八苦した末にもう無理だと見切りをつけて家を飛び出したのが開演5分前。
近所のネカフェにて爆速で個室を借りてPCの前に滑り込んだのが開演直後の舞台挨拶途中。
本編には間に合った。自宅からネカフェまで走った時間は奇しくもだいたい「2分」でした。
未来なんて知らなくても、人間2分必死になれば立派に問題解決に至るんだわ。
と実体験込みで思い知った次第です。
それも良い思い出となったオンライン上映会でした。
必死過ぎ?
いやいやそれだけ楽しみにしてたんですよ、ここ2週間の生きる希望。
先々の楽しみを待つ時間も、その為なら厭わない労力も、私にとっては立派なエンタメの一部です。
改めて、それを思い出させてくれたヨーロッパ企画に出会えて良かったと思います。
最後の余談ですが、この映画で初めてゼブラダンゴムシの存在を知り、ガチャがあることを知り、ゼブラダンゴムシは実際にレアガチャであることを知りました。
「ドロステのはてで僕ら」新グッズを出すなら是非ゼブラダンゴムシ、ケチャップ、シンバルの三種の神器をなんかこう、いい感じアレンジして下さったら絶対買います。
そして、残念ながら今年は中止が発表されましたが来年以降の本公演をずっと待ちますし、映画の第二弾も期待していたいし、ひとまずは引き続き毎晩の生配信を楽しませていただきます!