幼い頃、実家はわりと裕福な方だったけれど、テレビは1台しかなく、チャンネル権を持っているのはいつも父だった。

学校で友達と話題になっている人気の番組が見たかったけれど、見たいと言っても見れた試しがないので、父が酔っ払って自室へ行くのをリビングの片隅で隠れるように身を潜めて待っていた。

父は機嫌が悪くなると暴れたり大声で怒鳴り散らす人なので、そうするしかなかった。

今みたいに、見逃し配信もないし、YouTubeもないし。我が家には録画機器も無かった。

子供の意見や希望なんて一切無視で、父の独裁国家のような家庭だった。


だから、今は良い時代ですね。スマホ1台あれば、なんでもできますもんね。
いつも何かに飢えていた私の幼少時代とは大違いです。


話は戻りますが。
父は、たいてい昭和のヒットメドレーみたいな歌番組を観るのが好きでした。
母も喜んで観るので、こうなるとなおさら私にはチャンネル権はまわってきません。

両親は高校の同級生なので、昭和の歌謡曲は自分たちの青春時代の歌なんですね。

いつもリビングの片隅でチャンネル権が回ってくるのを待ちながら、私もその昭和の歌謡曲が耳に入ってきていたので、自動的に私も覚えてしまいました。

父が好んでいたのは、だいたい…
かぐや姫。
あと、さだまさしや、松山千春も好きそうだったな。
母もだいたい同じだっけれど、それプラス、必ず喜ぶのが、
沢田研二。
沢田研二が画面で歌い始めると、振り付けまで真似していた。


私はそんな母を冷ややかに見ていたけれど。






でも、そんな私も大人になって。
このとき身を潜めながら昭和の歌謡曲を聴いていたおかげか、妙に今詳しくて。


先日、働いている老人ホームで、女性利用者に歌手は誰が好きか、歌はなにが好きかと、尋ねる場面があり。

「タイガース」

と答えた。

沢田研二かなと、ピンときた。

正解だった。

昭和の歌謡曲は、聴き慣れて育ったので、ピンとくることが多いのだ。


こんな形でいま、役に立っています。




そしていま私も大人になり。
両親のことは今でも理解できないことが多いけれど。

昭和の歌謡曲の良さは、とても理解できている。

最近の歌は分からないけれど、昭和の歌謡曲の良さは、すごく分かる。

すごく分かりすぎて、最近では涙が出てきてしまう。