こんばんわ。


私は、特別養護老人ホームで15年以上働いています。


90歳を超えた入居者が多いですが、みなさんわりとお元気で、食事も3食きっちり食べて、毎日ガハハガハハと笑っている方も多くいます。


介護はサービス業とよく言いますが、人間対人間の関わりで、家族より毎日一緒にいる時間が長いです。


「あ〜このおばあちゃん愛らしいなぁニコニコ可愛いなぁニコニコ

と思うことがあります。




御歳98歳の、A山さんという、女性入居者です。

5、6年前に入居されたと記憶しています。

その時からずっと、可愛らしいなぁって思っていました。

なんていうか…もう佇まいだけでも、可愛らしいのです。

あまり口数が多くなく、ただ静かにラウンジで車椅子に座って日向ぼっこをしていることが多かったのですが、

身体が小さくて、お顔が丸くて、歯が一本もなくて、入れ歯は使ってなくて、ほっぺたが丸く膨らんでいて、いつもハムハムお口を動かしていて。

小動物のような、愛らしさがありました。


そして、周りに媚びない。

孤高の一匹狼のような。

荒立たしさは全く無いのですが、放っといてくれとでも言っているような佇まい。

周りと一切群れないのです。

認知症は、不安からか周りと群れたがる方もたくさんいるのですが、この方は、一切群れません。

介護士にも、あれやってこれやってとか言いませんし、暇つぶしに話しかけてきたりもしません。

他の入居者と同じで家族は面会に来ませんでしたが、寂しいという感情は一切出さず、

ストレスから無茶難題を言って介護士を困らせたりといったことも、ありませんでした。

周りからの愛情を試すようなこともしない。

もちろん、男性介護士に対して色ボケのような感情も無い。


ただひたすら、ハムハムハムハム…と窓辺で日光浴をしている98歳のおばあちゃん。


私は、構ってかまってと来られるよりも、自分には構わないでという入居者の方が、気になるし、お世話したいって思ってしまいます。

ただ、そこは出さずに、フラットに仕事として平等にお世話するように心掛けていますが…。


それでもA山さん、必要なコミュニケーションは、取ってくれます。

こちらが伺ったことには、きちんと答えてくれます。


本当に可愛くて孤高なおばあちゃん。


私はこの方に会えるのが楽しみで、仕事に向かっていた部分があったと思います。







先日、公休を1日挟んで出勤したら、このA山さんが、亡くなっていました。


とても急だったみたいです。

いつものように車椅子で窓際で日向ぼっこをしていたら、なんだか顔色が良くないねと気付き、ベッドに横になったら、あれよあれよという間に血圧と脈が下がっていき、亡くなってしまったということでした。




なんてあっけないんだ…悲しい


お看取り希望の方だったので、何も問題はないのですが、

看取りケアの看の字もさせてもらえなかった悲しい


こんな最期も、A山さんらしいというか…。

ポックリ逝ってしまって、亡くなり方まで、誇り高く感じてしまいました。


亡くなったその日に、あっという間に出棺されてしまったようで、翌日私が出勤したら、霊安室にもいらっしゃいませんでした。


お見送りが、何もできませんでした。


まるでA山さんから、

「そんなもの要らん」

とでも言われているようです。



こんなにただ愛らしいという感情だけ持ってお世話できた入居者は、介護士15年の間にも、A山さんだけでした。


もちろん、私だけじゃなく、同僚みんなから、愛されていました。



90歳オーバーの方々ばかりなので、ほとんどの方が看取り希望を出しますが、実際に施設で自然な形で最期を迎えられる方はほんの一握りで、病院で亡くなる方のほうが多いです。


ですが、今回のA山さんのように、あっという間にポックリ急逝されてしまう方も、一定数います。

本当に、苦しむこともなく、眠るように。

98歳で眠るように最期を迎えられるって、すごく羨ましいです。


この仕事をしていると、90代で糖尿病、心臓病、肺疾患、癌、脳血管疾患、パーキンソン、家族の希望で胃ろう、などなど。

プラス認知症。

それでも薬をたくさん飲んで、食事を口に入れられ、生かされている方を、たくさんたくさん見ています。

家族は会いに来ない、楽しみも無い中で。


そんな中で、孤高を貫き、眠るように天寿を全うする。

素晴らしい死に様を見せて頂いた気がします。


昔、

「死に様は生き様」

という言葉を聞いたことがあります。

亡くなり方が、その人の生きてきた人生を物語ると。


もちろん、すべてが当てはまるわけではないです。

病気や不慮の事故で突然亡くなる方もいらっしゃいますし。


でも、この仕事をしていると、死生観について、すごくすごく考えさせられます。


誰にでも言えることだけど、明日も必ず生きているわけではなくて。


だから毎日仕事の日はしっかりA山さんと、悔いを残さないようにコミュニケーションは取ってきたつもりですが…。

(というか、孤高な雰囲気が好きで、暇さえあれば話しかけていた。少しでも話がしたかった。)


つもりですが…。




ものすごい喪失感です。


せめて霊安室で、お線香の一本でもいいから、あげさせて欲しかった。


でも、そんなところも、A山さんらしくて、好きです。

最期の最期まで、A山さんらしいです。




A山さん。

謹んで、ご冥福をお祈り申し上げます。

今までありがとうございました。

A山さんに頂いたこの気持ち、忘れません。