真面目で冷たいイメージの強い英国のサッチャー元首相だが、ユーモアのセンスはなかなかだった。長年、政治顧問を務めたニコラス・マクレーンさん(67)がこんな話を紹介してくれた。首相就任直後、彼女はある会議でこうスピーチした。「首相になりました。しかも、……」。誰もが「初の女性首相」と続くと思ったが、予想に反し、「二つの学位(化学と法学)を持つ首相です」と続いたという。
元首相の睡眠時間が短かったことも有名だ。首相時代の広報担当者は、彼女の睡眠は平均4時間と証言している。マクレーンさんもこんな経験をしている。野党党首として中東を歴訪したときだ。帰国した彼女は、自宅に入るとマクレーンさんらを集めて夜11時から3時間、勉強会を開いた。その後、約2時間眠り、また仕事を始めたという。「帰りの飛行機で眠ったのだろうと思ったのですが、機内では礼状を書いていたそうです」
第二次大戦を勝利に導いたチャーチル元首相は戦時中、4時間睡眠だった。戦時指導者という極度の緊張や責任感のためだろう。思えばサッチャー氏も野党時代から政権奪取の闘い、その後はフォークランド紛争、炭鉱労働者との闘いと「戦闘」続きだった。国内評価は割れているが、彼女が強い危機意識を持って生きたことは間違いない。
「鉄の女」の死去からしばらくして、サッチャー氏の選挙区だったロンドン北部の保守党事務所を訪れた。壁には元首相の肖像画、机上には2冊の記帳ノートがあった。ページをめくると多くの支持者がこう書いていた。「レスト・イン・ピース(安らかに眠ってください)」。闘い続けた女宰相が永遠の眠りに就いた。