ぼくが子どもの頃、プリンはミックスを買って来て家でつくるものだった。母親が、牛乳を温めてよくつくってくれた。シロップは、粉を水に溶かしてつくった。
ぼくはプリンが好きだった。あの、バニラの香り! 今思えば、合成したものだったのかもしれないけれど、冷えて固まるのが待ちきれなかった。
幼稚園を出る頃から、ぼくはある思いを募らせた。カップ一つのプリンじゃ、物足りない! もっと大きなプリンを食べてみたい! バケツみたいな大きなプリンを食べてみたい! 思う存分、食べてもたべてもなくならないプリンを食べてみたい!
大きなプリンを食べることが、ぼくの夢になった。
そんなぼくの「夢」を、母親は聞いていたんじゃないかな。ぼくも、言っていたんじゃないかな。
ぼくの7歳の誕生日に、母親が本当に大きなプリンをつくってくれた。といってもバケツにつくるわけにはいかない。四角い弁当箱につくってくれた。
ぼくは、喜び勇んで食べ始めた、すぐにイヤになった。まだこんなにあるのか、と思った。結局、残してしまった。
それで、ぼくは、大きなプリンを食べることが、夢だとは、もう思わなくなった。
ふり返って思う。
夢は早く実現した方がいい。
その先にいけるから。
想像していただけの時は、大きなおおきなプリンは、それは素敵だったんだけどね。
(脳科学者 茂木 健一郎)