渋谷駅から桜丘の方向へ坂道を上ると、文化総合センター大和田の最上階に銀の球体が光る。
「渋谷のプラネタリウム」といえば、かつては駅前の五島プラネタリウムのこと。しかし2001年に閉館、渋谷区は天文博物館でもあったその遺産を一括して譲り受けた。当時の区長が「渋谷の駅の名物といえば、ハチ公とプラネタリウム。よそに渡すわけにはいかない」と決断。旧代々木高校跡地での資料展示や平面プロジェクターによる上映会、天体観測会などで、細々と繋いできた関係者の努力も実り、めでたく9年ぶりに渋谷にプラネタリウムが復活した。
「プラネタリウムと映画は渋谷の文化なのです。五島プラネタリウムが入っていたのは『東急“文化”会館』でしょ」と、明言する解説員の村松修さんが、興味深いエピソードを教えてくれた。56年、東急文化会館建設時は、水族館を作る構想があった。当時の東京急行電鉄会長の五島慶太さんは「クジラを泳がせろ」と。しかし、当時の技術では何トンもの海水を上階に運ぶことは無理。そこで知恵のある人が「クジラより大きいものを入れたら? 宇宙はどうですか」と進言。五島さんも「そうか、宇宙の方がでかい」と、納得!?
さて、できたばかりのコスモプラネタリウム渋谷に早速進入すると、天空にすっぽりと包みこまれるような心地よさ。直径17メートル、120席のゆったりした空間だ。 「シックな内装だと評判です。この回転シートは東京都では初ですよ」と、村松さん。空を見る角度も変えられる上、寛ぎ度も満点だ。「大人を意識した番組も作っていく予定です」
「昭和20年代から30年代にかけての東京の空を再現する。まだ天の川が見えた時代です。渋谷から発信するものだから新しいスタイルを作っていきたいですね」と語るのは企画、広報の佐藤豊さん。佐藤さんは渋谷区円山町の生まれ。渋谷の街を撮り続けてきた写真家でもある。その目が捉えている渋谷の未来予想図とは、どんなものだろう?
「駅前は今、大変革の最中にあります。東急東横線が地下に入ることで、JRの駅が真っすぐに施行され、宮益坂と道玄坂を繋ぐ、つまり谷に橋をかける道路も建設される。景観は変わっていくでしょう。しかし渋谷を目指す人の流れは変わらないと思います。地面の下には、暗渠ですが、渋谷川が流れている。撮影しながら若者たちに何で渋谷に来るのか聞くと、“安らげるから”って言うんですよ」 人々を集める不思議な地下水脈が、日本中に、いや世界に新しい文化を発信していくのを、丘の上に開けた宇宙への扉、新しいプラネタリウムが見つめている。
