1)リコード法の対象となる疾患を確認する

リコード法は「アルツハイマー病」を対象として開発された治療法です。したがって、本来であればリコード法を始める前にはアルツハイマー病であるかどうかを診断する必要があります。

 

まずお伝えしておきたいのは、「認知症=アルツハイマー病」ではないということです。「認知症」は日常生活に支障をきたすほどの認知機能低下が慢性的に現れている疾患の総称であり、その中には様々な疾患が含まれます。確かにアルツハイマー病は認知症のうちの過半数を占める代表的な疾患ですが、認知症が全てアルツハイマー病ではなく、治療法もそれぞれに異なりますのでその診断には細心の注意が必要です。例えば、正常圧水頭症は治療可能な認知症の一つとして有名です。もし正常圧水頭症であれば基本的な治療法である手術でによって治る可能性がありますが、これを見逃してリコード法を実施していても症状は悪化していく可能性が極めて高いでしょう。

 

現在40代くらいまでの認知症の好発年齢に達していない若い方で何も症状がなく、「アルツハイマー病になるリスクを減らしたい」という目的であればすぐにリコード法を始めても良いと思いますが、すでに「物忘れ」をふくめ何らかの脳の機能低下が現れているようであれば、リコード法を始める前にやるべきことがあります。

 

なお、「物忘れ=認知症」でもありません。物忘れという症状につながる疾患には、注意欠陥多動性障害、てんかん、ビタミンB12欠乏症、解離性健忘、うつ病など、実に多くの種類があるのです。

 

2)認知症の鑑別診断を受ける

認知症を疑う症状が現れた時、まず行くべき所は「精神科」「神経内科」「脳神経外科」を標榜しており、頭部CT、頭部MRI、できればSPECTや心筋シンチといった画像検査ができる医療機関を受診することです。「認知症疾患医療センター」「もの忘れ外来」「もの忘れセンター」などを掲げているところであればなお良いでしょう(参考:東京都認知症疾患医療センター一覧)。認知症の診断では下記のフローチャートのような流れで進めていきますが、特に脳外科的疾患の除外や各認知症の鑑別には画像検査の実施が重要です。

 

なお、ここまで「アルツハイマー型認知症」ではなく「アルツハイマー病」という言葉を使っていますが、お気づきでしたでしょうか。リコード法を日本に広めた書籍「アルツハイマー病 その真実と終焉」にならって「アルツハイマー病」と書いてきましたが、実は「アルツハイマー病」と確定診断するためには患者さんが亡くなった時に臨床的な症状と、解剖して脳組織の所見を結びつけることが必要です。したがって生きている間は「アルツハイマー病」と確定することはできません。生存中は症状や検査結果がいかに「アルツハイマー病」らしくても、「アルツハイマー型認知症」と診断するのがより正確でしょう。また、実際の臨床ではアルツハイマー病の特徴が主であるものの、歳をとるに従い脳血管障害やアルコール、栄養障害など認知機能に関連する他の要因の影響が増えて症状が修飾されることもあり、症状経過や長谷川式やMMSEなど一般的な認知症スクリーニング検査だけで認知症の種類を判別することは困難になることも多いのです。このようなことからリコード法の適応である「アルツハイマー病」であるかどうかきちんと確認することがリコード法を成功させるために重要であり、血液検査や画像検査など、他のさまざまな検査を実施して他の疾患の可能性を除外する必要があります。なお、リコード法では多くの検査の実施を提唱していますが、現状では日本の保険診療で認知症の診断に必要と判断された項目しか実施できません。例えばホモシステインや25OHビタミンDはリコード法実施にあたっては重要な項目ですが、ホモシステイン実施の適応疾患は「ホモシスチン尿症, 心疾患」であり、25OHビタミンDは骨粗鬆症と診断されていないと検査できませんので、少なくとも一度の検査でリコード法の全ての項目を埋めることは難しいでしょう。

 

アルツハイマー病に至るまでの除外診断フローチャート

アルツハイマー病と診断されるまでの一般的な診断の流れをご紹介します。

 

1.     病歴と心理検査:正常範囲の記憶力、MCIを除外

2.     飲酒歴聴取:アルコール性健忘症候群を除外

3.     意識はしっかりしているか:せん妄を除外

4.     気分は著しく落ち込んでいないか:うつ病を除外

5.     症状が突然始まり突然終わっていないか:てんかんを除外

6.     薬歴調査:薬剤による影響を除外

7.     血液検査:甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏などを除外

8.     頭部画像検査:慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などの脳疾患を除外

9.     他の認知症性疾患との鑑別

   (ア) 血管性認知症

   (イ)  前頭側頭葉変性症

   (ウ) レビー小体型認知症

   (エ) その他の認知症、クロイツフェルトヤコブ病など

10.  以上の過程を経てアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)と診断

 

このような検査を受け、「アルツハイマー病」または「アルツハイマー型認知症」と診断されれば、リコード法の適応となります。他の認知症でもリコード法が有効である可能性はあるかもしれませんが、その点はまだ未知数と言わざるを得ません。ただし、リコード法の検査を実施すること自体は費用がかかることを除けば健康に悪影響を及ぼす可能性は低く、患者さん本人が嫌がらない限りは問題ないと考えます。

 

3)その他、やっておいた方が良いこと

  • 歯科受診:歯周病やう歯の治療、アマルガム(水銀を含む合金の詰め物)の有無の確認などをお勧めします。歯周病などにより口腔内に炎症が発生すると認知機能に悪影響を及ぼすなど、認知症との関連が指摘されています。
  • 眼科・耳鼻科受診:視力・聴力の低下があると脳への情報入力が減り、認知症になるリスクが高まります。また、問いかけに対する反応が遅れたり誤認したりすることにより、認知症と間違われる可能性があります。慢性的な鼻水・鼻づまりがある場合は副鼻腔炎のチェックもしてもらいましょう。
  • 睡眠中にいびき・呼吸停止がある場合は「睡眠外来」「睡眠センター」など、睡眠時無呼吸症候群の検査ができる医療機関を受診することをお勧めします。自分では気がついていない人も多いのですが、起きた時に口が乾いていたり、日中に強い眠気や倦怠感、集中力低下などがある場合は睡眠時無呼吸症候群の可能性を考慮します。この治療だけでも認知機能が改善する場合があります。

 

補足:「MCI」「SCI」と診断されたら

MCIは「軽度認知障害」の略で、同年代と比べて認知機能の低下がみられるが、日常生活には大きな問題が起こっていない状態であり、認知症の前段階と考えられています。この段階であれば、研究によりますが10〜40%程度は元の状態に回復する可能性があると報告されています。SCIは「主観的認知障害」の略で、「物忘れ」などの自覚はあるが、明らかな客観的認知機能の障害はない状態で、必ずしも認知症とは関連がありません。

MCIやSCIの場合、現在の医療では治療法が確立されていません。しかし、MCIの場合は生活習慣の改善により、認知症の発症リスクが下がることが報告されています。筆者の意見ですが、リコード法に基づく検査を受け、アルツハイマー病の発症につながるような要因をできるだけ改善していくことはMCI・SCIでも有益であろうと考えます。