小説色々

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下手の横好きで小説を書いています。ここでは自作の小説や落選作品等を載せていこうと思います。ジャンルは特に定めていません。

不定期更新ですが、週に一回くらいは更新していきたいと思います。よろしくお願いします。

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最終章 ~奇跡の再会~

 私がその時見た虹は今も私の脳裏にはっきりと焼きついている。

 母の恋愛の話を彼はずっとだまって聞いていた。時折、目を合わせては微笑むのだが、どこか悲しげだ。それほどまでに、母の恋愛の話に感情移入しているのだろうか? 全部話し終えた私は彼のほうに目をやった。彼は涙を目に浮かべ、溢れんばかりの涙を目にためていた。彼は一言も言わずに涙をぬぐった。私が微笑むと彼も微笑む。

 彼はとっさに自分の首の後ろに手をやりネックレスを外した。それは、母がジュナに渡したネックレスだったのだ。どうしてそれを彼が? 私は瞬時にそのことを悟ったのだ。ジュナは死ぬ前に一人の息子を残している。それが彼なのだ。私と彼はただ驚くしかなかった。驚きと喜びと涙が交じりあうのだった。彼はそのネックレスを私につけてくれた。私たちは泣きながら笑うのだった―。
 
 その後、私たちはそのまま歩き、以前、母とジュナが一緒に行った蛍のいる橋に着いた。辺りは既に暗かったから、蛍の光が暗闇をほのかに照らす。とても幻想的だった。

 彼が蛍を一匹捕まえて私にくれた。私はその蛍を両手で大事に受け取った。でも、彼がそれと同時にキスをしたので私の両手は思わず開いてしまった。私は彼をしっかり抱きしめた。彼も私をしっかり抱きしめた。私たちの愛はきっと大丈夫。彼になら全てをゆだねられると思った。周囲の蛍が私たちを包むように飛んでいる。私たちは大丈夫。何も障害のない時代に私たちは再びめぐり合えたのだから……。(了)

第10章 ~悲しみの真実~

 その後、母は父と結婚して、数年後に私が生まれた。それからさらに数年後。私が3、4歳くらいの頃の出来事だった。


 私はおじいさんの家がある田舎に呼ばれた。呼んだ人はわからない。ただ、ジュナの知り合いだったので、娘を連れて行った。約束の場所に来た。ここは昔、ジュナが船をこいで私をお化け屋敷に連れて行ってくれたときに通った川だ。

 少し待つと数人の年が近い男性が来た。彼らは喪服を着てその中の一人が遺骨を持っていた。その時、私は悟った。急に涙が溢れてこらえることができなかった。
「ソン・ジュヒさんですね?」悲しそうな声で一人の男性が言った。
「ジュナが死んだらこの川に灰をまいてくれと遺言を残して……。実はあいつ、ジュヒさんが結婚した後にすぐに結婚したのです。一人、息子を残して……。それなのに……」

 その男性も涙をこらえながら話している。
 
 私はなんておろかだったのだろうと後悔した。最後に彼に会ったとき、彼はまだ結婚していなかった。彼は2重のウソを私につこうとしたのだ。一つは目が見えないこと、もう一つは結婚していないこと。

 おそらく、後者は目が見えないことがばれても絶対に悟られないようにしたことだったと思う。ジュヒとはそういう人だ。私は泣くことしかできない。ただ後悔の念だけが私には残っている。やさしすぎる彼の真意を私は見抜くことができなかった。テスにも悪いことをしてしまった。私がジュヒに失恋から立ち直ろうとした私を受け入れてくれた優しい人。二人の前に行って、あやまりたい。けど、私を愛してくれた二人の男はもうこの世にはいない……。

「それからこれはジュナが必ずあなたに渡して欲しいと」男性が、小さな箱を私にくれた。それは私が彼に書いた手紙だった。そしてその中には彼の日記も入っていた。私はジュナの灰が川にまかれている間、箱を大事に抱えてその光景を見ることしかできなかった。
 娘のジヘが
「ママ、虹だよ」と言った。

 私が悲しんでいるのを見て、幼いながらに慰めようとしたのだろう。その虹は今まで見た虹の中で一番キレイだった。
 
 私は生涯で二人の人から命がけの愛をもらった。私は結局、二人を苦しめたばかりか不幸にしてしまったかもしれない。結局、私だけが生かされている。これからの人生で私は彼らに償いを施さなければならいと思う。そう、三人の思い出をいつまでも忘れないようにしなければならない……。そう思い、娘を強く抱きしめるのだった。

第9章 ~生還 今生の別れ~

 

 彼が戦争に行ってから毎日、私は彼の生還を祈った。ヒマがあれば彼の無事をひたすら祈り続けた。

 そんなある日、彼から生還の連絡があった。私はとにかくうれしかった。そして、再開することができるのだった。
 約束の場所で私は彼を待っていた。彼が指定した街の離れにある小さな喫茶店で。彼はタクシーに乗り店にやってきた。私は緊張して席を立って彼を出迎えた。
「君はちっとも変わってないね。昔と同じようにキレイだよ」彼は以前にもまして優しそうだった。
「私、随分老けたでしょ。あなたはさぞ苦労したんじゃ?」
「それほどでもないよ。あ、テスは元気にしてる?」
「たぶん元気だと思う」

 テスさんにはほとんど会っていない。お互いに会いにくいのは確かだ。時折、電話や手紙を交わすがほとんど近況報告のみに終始する。
「どうして結婚しなかったの?僕はもうしたのに」彼は少しほほえんでそういった。
「ええ、そう聞いたわ」テスさんからその話は最近、聞いた。本人の口から言われるとやはり辛いのは事実だ。
「話したいことが山ほどあったのに実際こうして会ってみると一つも浮かんでこないや……」彼は少しおどけてみせた。
「あれ、『ピアノを弾く少女』だね。うちにもおいてあるんだ。あれを見ているといつも、ジュヒがピアノを弾いていた姿を思い出すんだ。あの時のジュヒとそっくりだから。なあ、そうだろ?」といって、彼は横に目をやった。 

 でも、そこに『ピアノを弾く少女』はない。さっきから何かが変だ。彼の言葉は機械的……な人形が決まった言葉をしゃべるように聞こえた。

 私はさっきから彼の視点が一定なが虚ろなことに気がついた。私は彼の目の前に手を振ってみたが、
「あの頃、今思い出しても僕たちは純粋だったよね。二度と戻らない時間だけど。あの頃は感情ばかりが先走っていた。なんでもないことに泣いたり笑ったり」彼は全く気にせず話を淡々と続けた。
 その時、ようやく私は悟った。彼は目が見えなくなったのだ。そう思うと、私は涙がとめどなく溢れてきた。
「今の私、どう見える?」
「元気そうじゃないか。ただ、ほんとはもっと明るい顔が見たいな……」彼は笑顔でそういった。私は確信した。
「私は今、泣いているの。この涙が見えない?目が見えないんでしょ。どうして私に隠すの?」

 彼はひどく困惑していた。
「あ、もうこんな時間だ。悪いけど約束があるんだ。先に帰るよ」とあわてて席を立った。

 しかし、目が見えていないため、他の席のテーブルに体をぶつけてその場にかかみこんでしまった。私は涙を拭き、彼のそばにいき、そっと肩に手をやった。彼は再び立ち上がり
「すまない。ほとんど完璧だったのに。うまくやる自信はあったんだ。昨夜ここに来て、練習したんだ」彼の目は虚ろだった。悲しそうだった。
「あなたはよくやったわ。あやうくだまされるところだったわ」私は泣きながらも笑顔でそういった。
「それから、これを君に返したくて命がけで守ったんだ」彼が戦争に行く時、私が渡したあのネックレスを首から外し、私の首にかけようとした。
「いいえ、ジュナ。これはあなたのものよ」

 私は彼の手を制し、また彼の首にかけた。彼は優しい手つきで私のほほを流れる涙を拭いてくれた。
 
 私は今日、彼と会うことで何を期待していたのだろう。再会を喜び合うこと?いいえ、私にはまだ、彼の思い出が現実の感情として脳裏にしっかりと焼きついている。今の私たちはもう十分大人だ。昔のような障害はもうない。両親なんて恐くない。たとえ彼の目が見えなくても、愛さえあればきっと二人で生きていける。ただ、わかったことは、彼はもう私を愛していないということだ。彼の心には新たな愛がきっと芽生えている。彼のなかの私は過去のよき思い出になっている。過去の幻影にとらわれているのは私のほうだ。もう、過去の彼との出来事はよき思い出にしなければ私はこれから先、進むことができない。私は過去の私と彼の思い出とともに決別しなければならない。そう思った……。

第8章


 Ⅰ ~それぞれのその後ジュヒとテス~

 1972年 ベトナム戦争で多くの国民が戦地へ赴いた。

 私は高校を卒業した後、大学生になった。これといって特に日常に変化はない。ベトナムへ派兵する政府の行動に反発して民衆デモに参加していた。旗やプラカードを掲げ、独裁政権の打倒を叫ぶ。憲兵が取り締まるために煙幕をたいたら一目散になって逃げる。煙幕が目に入り、ひどく痛い。そこへ突然、同じデモに参加していた人が
「歯ブラシ粉を痛みがおさまりますよ……。ジュヒさん?」懐かしい声だった。
「テスさん?お久しぶりです!」

 髪を伸ばして一瞬わからなかったけど、長身の彼を見間違えることはない。
 
 目の痛みが取れると私たちは公園へ足を運んだ。取り留めのない会話が続く中、私が聞きたいことは一つだ。ジュナがその後どうなったか。テスさんの件があって以来、私たちは自然と会うことはなくなった。そう、あの日にあの人に別れを告げられ、悲しかったけど仕方なかった。どうすることもできなかったのだ。その後の私は何か心に失ったような気分で淡々と毎日を過ごした。気づけばいつの間にか22歳だ。そんなある日にテスさんとであった。

「元気にしていましたか?」テスは今、私と同じ大学生だった。どうやら、退院してから無事に高校を卒業したようだ。
「ええ」特になんともないやりとりだった。
「ジュナは今、どうしているかご存知ですか」久しぶりだったので言葉がよそよそしかった。
「はい」

 テスは暗い面持ちだった……。


 Ⅱ ~ジュナのその後~


 あの日以来、彼女のことを忘れることはなかった。ことあるごとに思い出す。眠れない夜に思い出してはうっすらと涙を浮かべる。そんな日々を繰り返していた。

 高校を卒業後、特に意志があったわけでもなく、ベトナム戦争の派兵に志願した。戦地に行けばきっと何も考える余裕などなくなるだろう……。そんなことを少し期待した。

 出発当日。軍服に身を包み、列車に乗り込んだ。兵士の多くは家族との別れを惜しんでいる。僕には見送る人はいない。出発の時間までじっとしていた。と、その時、
「ジュナ、ジュナ!」

 気のせいかと思った。が、そこにはジュヒがいた。僕はジュナのほうを少し見たが急に涙がこみ上げてきた。彼女を見ることができない。見ると別れが辛くなる……。
「ジュナ、ジュナ……。生きて帰ってきて!」

 彼女の声は涙に溢れている。何度も僕の名前を呼んだ。そのたびに僕は辛くなり涙がこみ上げてくる。列車がゆっくりと動き出した。
「ジュヒ!」僕は思わず彼女の名前を呼び、列車の動き出すなか、連結環のところまで走った。
「ジュナ!」彼女は叫びながら、首にしていたネックレスを外し、僕の手に渡してくれた。
「ジュナ、生きて帰るって約束してね!」

 列車が速度を速め、彼女が遠ざかっていく。僕は悲しみをこらえてただ、そのネックレスを首につけるのだった……。


 ここはベトナムのどこか。具体的な場所はわからない。こっちに来てからは毎日、ヘリコプターで戦線を離脱したり撤退したりの連続だ。多くの仲間が戦死した。いつ自分に鉄砲の弾があたるのか、という恐怖と戦っている。

 今日もヘリから降り、前線に赴いた。前線で鉄砲の嵐のなか戦友が胸に銃弾を受けた。その時、彼が僕の胸を無意識につかんだ。その瞬間、彼女からもらったネックレスが引きちぎられ彼の手に落ちてしまった。しかし、ベトナム兵はすぐそこまで迫っている。仲間の兵士に呼びかけられ仕方なく彼とネックレスを置き去りにして撤退した。ヘリが撤退の合図を受けて迎えに来ていた。でも、僕はあのネックレスのことが気になった。仲間が
「オ伍長、何をしている? 早く戻れ。死にたいのか!」

 叫ぶ中、僕はネックレスを取り戻しに再び前線に赴くのだった。仲間の死体があるところにはすでにベトナム兵が多く来ていた。僕は無心に銃を撃ち続け目に映る敵を次々と殺していった。ただ、一心に彼女へネックレスを返すために……。ようやく仲間の死体にたどり着きネックレスを取り戻した。再び、ヘリのある場所に戻る途中、怪我をした仲間を見つけた。僕は急いでいたが、彼を担ぎ戻った。

 ようやくヘリが見える場所にたどり着き、安心した矢先だった。的の手榴弾が僕の近くで爆発し、僕は気を失った。幸い、命は助かったが、命がけで守ったネックレスと引き換えに大事なものを失った……。

第7章 ~傘に隠された真実~

 私は売店でコーヒーを飲んでいる。外は先日のように雨が降っていた。
「ねえ、ジヘ、これなんだか知ってる?」売店の女の人が言ってきた。
「傘?」私は当たり前の質問に何が言いたいのかわからなかった。
「これすごく特別な傘なの」彼女はうれしそうにそういった。
「どれも同じよ」
「サンミンがくれた傘なのよ」彼女は愛しそうにその傘を持つ。
「あの人、私に気があること知ってるみたい。」
「そりゃあ、口をあけてぼーっとみている姿を見れば誰でもわかるわよ」

 確かに彼女はサンミンが売店にいると決まって魂が抜けたように口をあけてずっと彼を見ているのだった。
「これ、サンミンに届けてくれない?」
「自分で直接届ければ?私は演劇部には行かない」どうせ行ったところでスギョンがべたべたしているとこを見せつけられる、と思った。
「何?スギョンとけんかでもしたの?」

 別にそういうわけではないけれど、二人でいるところに行きたくはなかった。彼女は急に続けて話し始めた。
「こないだほら、急に大雨が降った日よ。ここで彼が一人でコーヒーを飲みながらぼんやり立って外を見ていたのよ。そうしたらあの人急に、『今日は傘を持ってきたの』って聞いたのよ。私は持ってきてないから困ってたとこ、って言ったのよ。じゃあ、『僕の傘使ってよ。僕はぬれて帰るからいい』って。それだけいうと雨の中飛び出していったわ。今日も、こんな雨でしょ。サンミンがぬれないか心配で……」

 彼女はサンミンが実際した行動を少しまねてみた。私も彼が立っていた窓から外を見てみた。するとそこから見えたのは先日、私たちが雨宿りした木だった。私も彼のしたことを想像する。木の下で雨宿りをしているのは私。ここから彼が見ていたのは……私。そして先日の出来事―。
 私は思わず、彼の傘を持ち
「今日は傘持ってきた?」私の傘はここに置いていこう。
「ええ」彼女はさらっと言った。
「でも、私の傘使って!」

 とにかく私の傘を置いていきたかった。そして走って演劇場へ向かうのだった。傘もささずに満面の笑みで雨の中を走るのだった。はたから見れば気が触れたように見えるかもしれない。でも、それでもいい。とにかく彼のもとへ行きたかった。
「おかしな人たちねぇ」

 彼女には到底ことの事情はわかるはずはない。
 

 彼は演劇場で舞台の用意をいていた。私を見て、
「傘を持っててなんでそんなにずぶぬれなんだ」不思議そうに彼は言った。
「これ、私の傘じゃないから。持ち主に返しに来たの。売店に置いていったでしょ。傘があるのに雨にぬれる人は私だけじゃないのね」

 私は先日のことのあらましを知っていることを伝えたくてそういった。でも、少し不安になり、私は背を向けて帰ろうかと思ったその時
「待って!僕の気持ちはもう知ってるね。君の思ってる通りだよ。そう、雨にぬれながら走っている君を見つけて僕はわざと傘を置いて行った。芝居を見に行ったときも、ジヘにプレゼントを渡したくてスギョンの分も買った。もしも、偶然が味方してくれたらカードが入ってくれたほうの箱をジヘが選んでくれると思ったんだ。君が好きだ。でも、なかなか言えなくて。君が遠くに行ってしまいそうで失うのが恐かった」

 彼の真剣な告白だった。
「芝居、見に行くね」私はそれだけ言い残して、抑えられない喜びを必死に押さえて演劇場を後にした。

 日記以降の話は母からよく聞かされて知っている。サンミン先輩の公演が終わり、私が始めてのデートに選んだ場所は母の思い出の地の田舎だった。


第6章 ~悲しい選択~

 全校集会の中、テスが冴えない声で僕に声をかけてきた。
「最近、彼女からの手紙がこないんだよな……」

 そういえば、最近、彼から代筆の以来がないことに気がついた。
「ジュヒさんから?なんで?」

 そのわけは聞いている僕が一番知っている。知っているだけに心が痛い。
「俺は一人の女を愛する主義じゃなが、彼女のことは大切にしたいと思ってる」

 僕はテスが本気で彼女のことを好きになっていることがわかったから複雑な心境だった。内心、穏やかではない。

 テスはその日、ジュヒのもとへ花束を持っていくのだった。
「ジュヒさんこんにちは」テスは緊張しながらも
「僕はジュヒさんのことが大好きです。また手紙下さい」と花束を渡し、おでこにキスをして去っていった。

 その夜、僕はジュヒを誘い二人で会った。手をつなぎ階段を駆け上がり、上に来たとき、僕は彼女にキスをした。彼女はキスを振りほどき
「息ができないわ」と言った。
 その後、僕たちは階段に腰掛けて話し合った。
「テスのことを気にしているの。」僕は彼女の肩を抱き、自分のほうに寄せた。
「私は一体どうしたらいいの?ねぇ、教えて」彼女も僕の肩に頭を寄せた。
「テスはひどいやつだな」
「テスさんはやさしい人よ」彼女の声がさびしそうだった。
「やさしすぎるからひどいやつなんだ。テスは今も君の手紙を待っている」
「絶望的ね。私たちにはどうすることもできないもの……」
「絶望なんていうなよ。何かほうほうがあるはずだ」僕はもう一度彼女にキスしようとしたが、そっぽを向かれて拒否された。
「いいえ。私たちにはどうすることもできないもの。このままだと、みんながきずつくだけ……」彼女は僕に背を向けたままそういった。
「なんとかなるさ」僕は何の根拠もなくそういった。
「もうあなたには会わない。テスさんにも二度と会わない。私、本気よ。それしか解決の道はないの」

 彼女の口調は強かった。その日はそれで彼女とわかれた。

 次の日、テスと二人、校庭で寝そべりながら話をした。
「彼女、俺のこと好きじゃないような気がする。花束届けてキスまでしたのに反応なしだ……」テスの声はさびしそうだった。

 僕は学校の帰りに彼女の家の前にある電柱のスイッチをつけたり消したりして彼女に会おうとしたが、彼女は全く反応しなかった。仕方ないので、僕は門の前に手紙を置いていった。

 *太陽がほのかに海を照らす時僕は君を想う。かすかな月明かりが泉に浮かぶとき僕は君を想う* と書き残したメッセージに言葉以上の願いを込めて……。

 その次の日は彼女に直接会うために彼女の学校の校門の前に雨の中、傘もささずに待っていた。彼女の傘のなかに入ると、彼女は
「これさして家に帰って。そのままじゃぬれるでしょ」傘を僕に渡して一人走って帰っていった。僕はもらった傘もささずに後を追い、また彼女の家の前にある電柱のスイッチをつけたり消したりするのだった。すると後ろから彼女が
「馬鹿みたい。雨なのに感電したいの。本当に大馬鹿よ」と泣きながら僕をすり抜けようとした。僕は彼女の腕をつかみ
「このまま別れたくない。少しでいいから話したい」なりふりかまわず必死になっていった。
「話したって無駄よ。私たちは別れるしかない。手を離してよ」彼女は怒って僕の手を振り払った。

 しかし、その後また僕のいる場所に泣きながら歩いてきた。そのまま、彼女と僕は雨の中、ただただ肩を寄せ合うのだった……。

 次の日、テスは僕に彼女が雨にぬれたせいで入院していることを教えてくれた。だが、彼もまた彼女の見舞いに行ってまた想いを伝えようと思うのだった。
 僕は放課後、テスが彼女の見舞いを終える頃を見計らって病室に行った。僕が病室に入ると彼女が目を覚ました。
「どうしてここがわかったの?」と驚き、とっさに布団で顔を覆って隠した。
「ちゃんと顔を見せてよ」彼女は恥ずかしながらも顔を見せてくれた。
「虫下し32錠も飲んだんだって?」

 テスは今日、僕が検便の結果で、道端にあった動物の糞を検便に差し出したせいで校内一ギョウチュウがいることになってしまった。恥ずかしい話だ。
「テスは他に何か言った?」
「それ以外、何も言わずにじっと黙って帰ったわ」彼女はうつむいた。
「だめなやつだな。だいぶ具合悪い?」
「うん……」

 確かに、彼女の表情からは疲労の陰が読み取れた。
「僕はばかなやつだよ。君を好きになる以外取柄がない」
「得意なことがたくさんあるじゃない。雨にぬれること、虫下しを飲むこと」彼女は笑いながらそういった。
「からかうなよ。僕は真剣なんだから」
「テスに話そう。そうすればこそこそしないで堂々と会えるはずさ」

 そう、初めからテスに話してさえいればもう少し事態はややこしくならなかったはずだ。彼女は少し心配そうだったが、僕は意を決し病室を後にした。

 次に日、校庭で僕はテスと会った。
「こぶしを握って。こう構えるんだよ。僕を殴れ」

 僕はこれまでの裏切りに対して思いっきりテスに殴るように促した。
「なんでお前を殴るんだよ?」テスは不思議そうに言った。構えたこぶしが下がっている。
「いいから殴れって」僕はとにかくテスに殴って欲しかった。
「僕は殴るのも殴られるのも嫌なんだよ」テスには全く殴る気がないらしい。
「僕はジュヒと君に隠れてずっと会っていた」僕はもう我慢できずに言ってしまった。
「ハハハ……」

 テスは急に歩き出した。現実を受け入れていないのか、自分に手紙が返ってこない理由を悟ったのかどっちかわからない感じだった。それとも初めから僕たちが知り合いで陰でこそこそと合っていたのを知っていたのかも―。
「このネックレス、夏休みに彼女からもらったんだ。」僕はテスに申し訳ないと思いながら強い口調で言った。
「けどな、そのネックレス、家の親父に見せるな。絶対にまずい。親父がジュヒさんにあげたプレゼントなんだ……」

 そういいながらテストはどこかに歩いていってしまった。

 こうして冬休みに入った。僕はまたおじさんの家のある田舎へ行った。だが、もう彼女に会えない気がしてふさぎこんでいた。あの手紙が来るまでは―。

 *ジュナに会いたい。あなたに会いたくて病気になりそう。それに二人行ったあの川が今どうなっているか気になるわ。あのお化け屋敷。畑の番小屋。二人で載った丸木舟にもよろしく伝えてね、私は元気だって。昨日、テスさんがあなたのおじさんの住所を教えてくれたの。他にも驚きの真実を打ち明けてくれたわ。テスさんがくれた手紙、今まで全部あなたが代筆していたこと。どうして隠していたの?でも許してあげる。そのおかげで捨てようと思っていたテスさんからの手紙を読み返してあなたを感じることができるから。これはテスさんからの提案なのだけど私に手紙を出す時、封筒の裏にはテスさんの名前を書いて。そうすれば家族はテスさんと文通していると思うから*

*窓の外を見てごらん。木の枝が風にそっと揺れたら君の愛する人も君を想っているんだよ*

*今、窓の外には雪が舞っているわ。初雪が降ると恋人たちは腕を組んで街歩くものだけど私には手紙を書くことしかできない。ジュナに会いたくてたまらないからおじいさんの家に行かせてくれるよう、両親に頼むつもり。いけることになったらすぐ電報で知らせるわね*

*耳をすませてごらん。胸の高鳴りが聞こえたら君の愛する人も君を想っているんだよ。目を閉じてごらん。口元に微笑が浮かんだら君の愛する人も君を想っているんだよ*

 僕たちは会えない分、手紙で愛のやり取りをした。そしてほどなく彼女からの電報がやってきて僕は大喜びした。

 しかし、運命は僕たちに味方せず、僕の出した手紙の一つがなぜかテスのうちに送り返されてしまった……。

 テスの家で、テスとその親父がいる。立派な居間で正座する二人は視線を合わせない。テスは怯えながら話を切り出す。
「ジュヒさんはジュナを愛しています。ぼくはあんまり彼女を好きではないし・・あの二人は本当に愛し合っているのです。だから僕は身を引いて……。愛し合っているもの同士が付き合うべきで……。もう、あきらめました」

 テスの親父はベルトをするりと取り出し二つに折った。
「いいえ違います、好きです。絶対僕はあきらめません」テスの声は恐怖で引きつっている。
「お前は親をなんだと思ってる。え?勝手なことばかりぬかしおって。一度でも親の立場を考えたことがあるのか。あの子は共和党再選議員の娘だぞ。国会議員がどれほど偉いのかお前は知っているのか。女ひとりものにできないなんて。そんなやつは死んでしまえ!」

 何度もベルトの鞭でテスをたたくのだった。
 彼女の家でも親が手紙を読み、以後、彼女からの手紙は来なくなった。

 期待に胸を膨らませた冬休みはそんなふうに終わってしまった―。

 沈んだ気持ちの中で学校は始まった。テスと僕は図書館にいた。すると、テスが急にベルトを取り出し机をたたいた。
「どうしたんだよ」僕は大きな音にびっくりした。
「これはなんだ?」テスの口調は少し恐かった。
「ベルトだろ」僕は本を読んでいたから少し目をやりそっけなく言った。
「違うな。これは鞭だ。こいつが俺をたたく。親父がたたきたいんじゃなくて、こいつが俺をたたきたいんだ。だからこいつをつかまえた。こいつにどんな罰を与えたらいい?」

 テスはベルト、いや、鞭を憎らしげに見ていた。
「死刑か」僕はさらっとそんなことを言った。
「俺も賛成。そう考えた。そこでじわじわ苦しめて殺すか、すこしずつ飢えさせて餓死させるか、睡眠薬を使うか……」テスはウインクしていった。
「首を絞めよう」と僕は冗談めかして言った。
「それに決まりだ」それで、ベルトに関しては何も言わなくなった。
「なぁ、ジュナ、ジュヒさんにやさしくしてやれ」去り際に突然、そんなことを言った。

 その後の全校集会で、テスは突然倒れた。全校集会ではよく貧血で倒れる生徒がいる。僕は倒れて他の生徒に運ばれるテスに目をやったが、こっちにウインクするテスを見て安心した。
 全校集会が終わり、僕は保健室にテスの様子を見に行った。しかしテスはいなかった。
 ふいに、保健室の隅のほうを見た。テスがベルトを首につっている。僕はあわてて宙に浮いた体を支えようと必死になった。
「誰か来てくれ!人が死にそうなんだよ。早く来てくれ。テス、何やってるんだよ。馬鹿やろう。僕はベルトを殺せっていったんだ。死なないでくれ……。死んじゃだめだ。頑張れ!ちくしょう……」

 僕の声は慟哭にも近い声だったが聞きつけた数人の生徒があわてて駆けつけて一緒にテスをおろした。
「目を開けてくれ。息をしろ。息をしてくれ。馬鹿やろう……」僕は必死にテスの名前を呼ぶのだったがテスの意識はなく、いそいで病院に運ばれた。

 病室で、テスは寝むっていてまだ目を覚まさない。僕はずっと付き添っていたが、ふいに彼女がやってきた。病室に入るなりテスの哀れな姿に驚いたのか、いったんは病室を出てしまった。僕はゆっくりと後を追い
「いってやって。テスのやつ、君がそばにいてやればすぐ目を覚ます。さあ、いってやって」といった。
「ここで待っててね」と彼女は震える声で言った。おそるおそる病室に入る彼女を見て僕は学生服のホックに手をやった。ゆっくりとボタンを上から二個外す。

 僕はテスが自殺を図るまで彼女との関係に追い詰められていたなんて全く知らなかった。今回の件で、僕は恋人と友人を計りにかけてしまった愚かさを呪った。僕たち個人の感情で動いたために起こった悲劇だ。  

 彼女が以前、僕たちが付き合うとみんなが傷つく、といったのを思い出す。始めは親同士の決めた婚約者だなんて馬鹿らしい話だと思っていた。テスに話せば事態は収まると思っていた僕の考えは浅はかだった。僕たちの恋愛も時が過ぎれば思い出に変わり、また新しい人をきっと好きになる。辛いのは今だけだ。

 解決する方法はもうわかっている。僕は彼女がくれたネックレスを外し、彼女とテスのいる病室のドアにかけてその場を去った。
 外はちょうどベトナム派兵軍の行進パレードで人がにぎわっている。僕は人ごみをかき分け帰路に着くのだった。後から、彼女が必死で探していることも知る由もなく、僕の恋は幕を閉じる……。
 

 日記はここで終わっていた。

第5章 ~雨の中の幸運なハプニング~

 昨日はサンミン先輩とスギョンのデートに付き合うことになって疲れていたせいか、大学のバイオリンの練習に遅刻してしまった。いそいでバイオリンを出してみんなが弾いている曲の中にうまく乗っかろうとしたが練習は終わってしまった。

 みんながバイオリンを片付けて帰るなか、スギョンがやってきた。昨日、私がもらった(正確にはスギョンがもらったのを私があてがわれた)プレゼントに入っていた手紙を彼女に渡すのだった。
 その後、校舎を後にした。しかし、運悪く夕立にあってしまった。私は仕方なくキャンパス内の木の下に隠れるのだった。

 今日は本当についてない……。気分はもう最悪だ。長めの髪に雨がまとわりつき気持ちが悪い。

 ふと、先の視界に一人の男性がこっちに向かっている。サンミン先輩だ。彼も傘を持ってなく、同じ木の下にやってきた。
「ジヘじゃない?」声を掛けてきた。昨日のこともあり少し気まずかった。
「あら、こんにちは」どうしてもぎこちない感じが払拭できない。

私はこの場を立ち去ろうとしたら
「君、どこへいくの?」
「あの、図書館ですけど……」特に用もないけど、この場を離れるために思わず言ってしまった。
「図書館。だいぶ遠いな。よし、僕が送っていこう。この傘でね」

 私のバイオリンのケースを担ぎながら彼は上着を脱いで傘のようにした。それはちょうど二人がくっついていけばちょうど入るような大きな傘のようになっていた。
「向こうに見える建物を番小屋だと思って走るんだ、それ1、2,3」

 私たちは走り出した。二人で肩を並べて走っている間、私は緊張して彼のほうを全く見れなかった。足取りがたどたどしいにもかかわらず、彼はペースを私に合わせてくれた。歩調というか呼吸が同じように合っている気がした。

 何回か図書館の途中にある建物で休憩した。それでも、図書館にすぐ着いてしまった。実際は遠かったかのしれないけど、あっというまについてしまった。

 図書館に着くと私は
「ごめんなさい。上着、ずぶぬれになってしまって……」
「いや、いいよ。どうせぬれてたし」
「もう、私行かないと……」気持ちとは裏腹にウソを言ってしまった。
「また、会えるよね」と先輩。
「ええ。ありがとう」

 私は図書館の中へ、彼は雨の中へと消えていった。走る彼の姿を見ているとき、昨日はもう会わないほうが良いと思っていたのに今はどうして図書館がこんなに近いのだろうと少し恨めしく思うのだった―。


第四章 ~運命の再開、心一つに~

 ある日、テスが僕にこんなことを言ってきた。
「今日の放課後あいてるか?フォークダンスしにくんだ。ジュヒと会うんだ。親がデートするなら健全な場所で、ってな。女がたくさん来るからお前も一人選べよ」

 僕はやった、と思った。久しぶりに彼女に会える。彼女は僕がテスの友達であることを全く知らないからきっと驚くだろうな、と思いながらニヤニヤするのだった。

「ジュヒさん紹介します。僕の友達のジュナです。」

 ダンス会場でテスが僕を紹介した。それは初対面の人にするようなごく普通の会話だったが、彼女はびっくりしていた。
「はじめまして、オ・ジュナです」

 僕はびっくりしている彼女の顔をみて笑いそうだった。
「ジュヒです……。二人は友達なのですか?」困惑気味だった。
「二人は知り合いなのですか?」

 テスはジュヒの反応に少し違和感を感じたのか聞いた。
「あ、いえ……」彼女はあわてて否定する。
「こいつは僕の親友です。とてもいいやつです」

 テスは軽くウインクしながらそう言った。
「あ、こっちは私の友達のナヒさんです」彼女は自分が連れてきた友人の紹介をした。
 フォークダンスの練習中、僕も彼女もずっとお互いを見ていた。小さな声で、「とても会いたかった」と彼女も僕も言った。パートナーが変わり、僕と組んだ。
「テスさんの知り合いだったなんて知らなかったわ」と彼女は笑っていった。僕も、ずっと笑っていた。途中、テスがフォークダンスの曲を切り、ファンキーな曲に変え、みんなで笑いながら適当に踊るのだった。

 帰り際、テスは彼女と、僕はナヒさんと歩いていた。
「ここらで別れようか。僕はジュヒさんを送ってくよ。お前はナヒさんを頼んだぞ」そう言うといって二手に分かれてしまった。そのあとも、僕は彼女のことが気になって仕方がなく、ナヒさんには申し訳なかったが、途中で巻いて二人を追うのだった。
 彼女の家の前に二人がいて、テスは、「お疲れ様です」といって去っていった。彼女は家に入ろうとしたとき、僕は家の前にある電柱を発見した。そこのランプはスイッチでつけたり消したりできるやつで何度もつけたり消したりした。すると彼女は僕の存在に気づいてくれた。僕は彼女に会いたくて仕方がなかった。彼女も走って僕に抱きついてくれた。僕たちはお互いの想いが一つになった。それを確信して強く強く彼女を抱きしめるのだった。心一つに―。



第3章 ~サンミンのプレゼント~

 私はいったん、日記を閉じた。手紙はどうやらジュナという人が書いたことがわかった。この人が母に恋心を抱いていたこともわかったけど、これから先はどうなるか全く見等がつかなかった。

 今、大学のキャンパス内にいる。そろそろ、スギョンとサンミン先輩がいる美術館へ行かなければならない。約束の時間は少し過ぎていたけど、足取りは重かった。なぜなら私はスギョンの引き立て役。行くだけ惨めになることがなんとなく想起された。

 美術館へ入ると予想通り、スギョンはサンミン先輩の腕にしがみつき館内にいた。私は少し距離を置き、絵越しに二人と平行になるように歩いた。二人の姿を見るのは辛かった。館内を一周して、芝居を見に行くことになった。
 芝居でも、スギョンはサンミン先輩によりかかっていた。私は芝居に集中できない先輩を見てスギョンの行動を受け入れていないことに少し安堵の気持ちを持った。しかし、行動派のスギョンはお構いなしにずっと先輩に寄り添うのだった。

 芝居の後、食事をすることになっていたけどもう帰りたい気分だった。スギョンにそのことを告げると
「サンミン先輩、ジヘがもう帰るって!」わざわざ先輩に大きな声で言った。
「なんで?一緒に食事しようよ。今日見た芝居の感想も聞きたいし。どうしても帰るの?」先輩は駆け寄り、不思議そうに言った。
「先輩、この子は一度言い出したら聞かないの、そうよね、ジヘ?」スギョンは憎らしげに言う。
「ええ……」私はわけもなく帰るのは気分が悪かった。
「とめても無駄よ」間髪いれずにスギョンはいった。
「そんなこと言わずに一緒に来ればいいのに……」先輩は少し残念そうに言ったように見えた。残念そうな表情が少しうれしい。
「先輩はね、別にあんたを引き止めたいわけじゃないのよ。私に気を使っているのよ。あんたは親友だから。義理で言ってくれているのよ。帰っていいわよ、気にしないで」といって私を小突いた。

 仕方なく私は帰ることにした。
 建物の廊下を一人でとぼとぼと歩いていると
「ちょっと待って。今日、プレゼント買ったんだ。君も来るから二人分買ったんだ」と先輩が駆け寄ってきた。すると間髪入れずに横からスギョンが、
「あら、ジヘ、今夜は眠れないんじゃない?人気者の先輩からプレゼントだなんて。私に感謝してよね」

 相変わらず余計なことを言う。
「さぁ、どっちか選んで」先輩に促されて私は小さなほうを選んだ。
 帰ろうと、建物を後にしたとき、またスギョンが駆け寄ってきて
「私、初めからこっちのほうが気に入っていたの。交換してよね。いいでしょ」半ば強引に私のほうをとって、自分のほうのプレゼントを私に渡した。
「じゃあね~」スギョンはうれしそうにまた先輩のほうへ走っていった。

 帰路で私は一体何をしているのだろう、と自問自答していた。親友のスギョンの意中の相手に私は淡い恋心を抱いている。でも、積極的なスギョンに比べ、私は何もできない。サンミン先輩のことが好きなのは事実だ。でも、スギョンのこともあるし私にはどうすることもできない。せいぜい、彼女の引き立て役が関の山だ。がっくり肩を落とし家路をたどる……。

 家に着き、ベッドの上で先輩からもらったプレゼントを見ていた。小さな箱に入っていたため振ったり外からみても何がはいっているのかわからなかった。おそるおそる箱を開けてみると小さな白い熊のキーホルダーと手紙が入っていた。手紙には

 *太陽がほのかに海を照らす時僕は君を想う。かすかな月明かりが泉に浮かぶとき僕は君を想う*


 と書かれていた。そのことをスギョンに伝えるとおおよろこびした。明日その手紙を渡す約束をした。
 電話を切り、どっと疲れた体をベッドに沈めた。きっと彼はスギョンのことが好きなのだろう。もう、会わないほうが良いと思う。そんなことを思いながら床に就くのだった……。

第二章 ~運命の出会い~

 時は1968年。

「オ・ジュナ」あまり親しくないテスが突然、高校の図書館で声をかけてきた。
「手紙かいてくれよ」

 どうやら、僕が同級生の代筆をやっているのを聞きつけたらしい。テスは冬休みに36センチも身長が伸びたといううわさだ。
「で、だれに?」
「ん、許婚」テスはさらっと言った
「許婚?」たいてい、代筆の相手は恋人や同級生の意中の子というのが相場だったが、許婚を相手に書くのは初めてだ。
「親父の友人の娘で親同士が勝手に決めたことだよ」テスの父親は国では有名な企業の経営者だ。時々、自家用車で送られるテスを見たことがある。いわゆるぼんぼんだ。
「いいよな。苦労して女を口説く時間が省けて」
「疲れるよ。俺は一人の女を愛する主義じゃないし。どうせ、親父が手紙の内容を見るだろうし。秘密を探り出そうって魂胆だよ」といって、その女の子の写真を見せてきた。
「かわいいだろ?でも、共和党議員の娘だからきっと陰気だろうよ」

その写真には見覚えがある。それは今年の夏のことだった―。

 夏休みになると決まって僕は、おじの家がある田舎へ行き、そこで地元の友達と川遊びなどを一日中楽しむのだった。そして良く晴れた夏のある日、いつもと同じように川で魚を追いかけるのだった。
「お前、しっかり追わないから魚が逃げちゃうんだろ。都会のやつはやっぱだめだな」確かに、普段からやっている地元の友達には到底かなわない。
「スウォンは都会じゃないだろ。都会って言ったらソウルとかだろ」と他のもう一人。
「スウォンは道庁所在地だから都会だよ」と僕は反論する。

 そんなやり取りの中、道に牛車が通りかかった。その荷台に、一人の女の子が座っていた。
「あれはソンさんのうちの孫娘だろ? 確か、お前といっしょで、スウォンに住んでるって。避暑にここに来たんだろ。俺たちには高嶺の花だよなあ」

 そんなことを言ってたが、僕は彼女のほうに視線を向けたままだった。軽く手を振ったみたら、彼女も手を振ってくれた。僕たちは思わず調子に乗って手を振りまくるのだった。
 その後、僕たちは川遊びをやめ、フンコロガシを探しに牛がいるところへいった。そこで偶然、彼女が近くを通りかかった。彼女は興味深げにこっちを見ている。
「このフンコロガシいりませんか?」僕は思わずわけのわからないことを言って彼女の近くに駆け寄った。彼女はそのフンコロガシをつかもうとしたが、においがきついし、牛の糞がついていたから断念した。
「川の向こう岸にお化け屋敷があるの知っている?」彼女は突然聞いてきた。
 川の向こうのお化け屋敷といったらこの地では有名だ。誰も住んでいない古ぼけた家があり、お化けがいるというよくある話だ。
「はい」と僕。
「船はこげる?」
「はい」とまた僕。
「じゃあ、明日の12時に船着場でね」といって去っていった。
「なにをこそこそと話してる。やっぱ都会のやつは話がうまいね」友達が後ろから牛の糞を顔に擦り付けてきたが、僕はうれしくて
「おい、船のこぎ方おしえてくれよ」とやりかえしてとびまわるのだった。

そして、次の日―。
 僕は緊張した面持ちで待っていた。船は予め用意することが出来た。後は彼女が来るだけだ。

 彼女が走ってきた。そして船に乗って出発するのだった。
「おじい様がね、私の好奇心だけをくすぐっておいてそこにいってはだめっていうの。家でもこっちでも自由にはさせてもらえない。村の人たちに頼むとすぐにおじいさんの耳にはいっちゃうから……。ねぇ、この船、さっきから全然進んでないけど……」彼女は不安げにこっちを見てきた。
「実を言うと船をこぐの今日が始めてなんだ・・」ごまかしても見ればわかる。何度もオールをこいでいたが、ほとんど岸から進んでいなかった。気まずかったので僕は
「僕の名前はオ・ジュナ」と自己紹介をした。
「まだ、自己紹介してなかったわね。私はソン・ジュヒ」と彼女。
「スウォンから来たの?」僕は知っていたが聞いた。
「ええ」
「僕のうちもスウォンなんだ。おじさんのうちがこっちにあるから今は遊びに来てるんだ」
「そうなの。こういうの偶然の一致っていうのかしら」
「運命かもしれないな……」僕は小さな声で言った。
「え?何?」彼女は聞き返したが
「いや、なんでもない。」といって再びオールに目をやった。しばらくするとオールもうまくこげるようになり、例のお化け屋敷にたどり着くことができた。

 お化け屋敷は見るからに古い建物で誰もすんではいなそうだった。というより、人が住めるような状態ではなかった。門は崩れかかって床は今にも落ちそうだった。実際に瓦の何枚かが足元に転がっている。

 彼女の表情も不安げだったが、僕は昼間ということもあり平気だった。門をくぐりながら
「お化けってみたことある?」と不安げに聞いてきたが、僕は
「みたことあるよ。実は僕はお化けなんだ」とからかってみせた。
 屋敷は広く、僕たちは足元に気をつけて少しずつ進むのだった。歩き回っているうちに小さな小屋を発見した。僕はその小屋の戸をあけてみた。すると、とんでもないものが中にあった。思わず僕は絶叫して、その場を走り去った。彼女はびっくりしてその少し開いた戸を見たが、突然戸が閉まった。今度は開いて人が出てきた。彼女が見たものはお化けではなく、そこをねぐらとしている浮浪者だった。とはいえ、彼女もびっくりして絶叫してその場を走り去った。屋敷の入り口にいた僕は走ってきた彼女と笑いながら絶叫しあうのだった。
 夕方になり、そろそろ帰ろうとしたが、急に夕立が降ってきた。しかも運悪く、船が流れてなくなっていたのだ。仕方なく、僕たちは夕立のなか、走って雨宿りができる場所へと向かった。途中、彼女が足を滑らせ、くじいてしまった。
「痛い。足をくじてしまったの。ごめんなさい……」

 僕は彼女を背負って畑にあった小さな番小屋で雨宿りをするのだった。
「夕立だからすぐにやむよ」

少し寒そうにしている彼女に僕は自分のシャツをしぼり、「これで拭くといいよ」と渡した。ほどなくして雨はやみ、畑にあるスイカを二人で食べた。
「川沿いに歩いて渡し場にいこう。そこから帰れる」
 あたりはもう暗くなっていた。僕は彼女を背負いながら歩いていると
「私って重くない?よくたべるから」と、申し訳なさそうに言った。
「全然。君を背負ってならソウルまでいけるよ」と僕。
「ウソ」
「ウソじゃないよ」そう、きっと彼女とならソウルまで背負っていける気がした。実際、彼女を背負っていても、足取りは軽かった。
 道の途中にあった橋で休憩した。橋の下は浅くて小さな川が流れていた。少し先の水辺の草むらに蛍がたくさんいてとても幻想的だった。僕は蛍をつかまえて彼女に渡した。両手で蛍をおおい、そっと彼女に手渡す。彼女はその蛍に見とれていた。
 その後、船着場につき、船に乗った。
 船に乗っている途中、彼女は
「少し蛍を持っていてくれない?今日のお礼になにか渡したいけど、これしかもってないの。これでよければもらってくれる?」彼女は自分が持っていたネックレスを首から外し、僕につけてくれた。
 岸では数人の大人が彼女の帰りを待っていた。着くやいなや、彼女は大人に背負われて連れて帰られた。去り際に彼女はこっちを見てさよならをしてくれた。僕は彼女に見とれていたが、彼女のおじいさんらしき人物が僕の前に立ちふさがり、ほほにきつい一発をくれた。夢のような一日はこうして終わるのだった。

 数日後、風邪で体調を崩した彼女は、治療のためソウルの病院へ移ったという。こうして僕の夏休みは終わった。


「彼女、お母さんを亡くしてからずっと病気がちだったらしいが、田舎に帰って元気になったらしい」テスがそんなことを言った。僕はその話を聞き、教室の窓際で細く微笑むのだった。
 だけど、僕はテスの代筆を書かなければならない。僕自身が書きたいことは山ほどあるのに正直、この代筆はつらい。とりあえず手紙を書き、テスに渡した。
 数日後、テスが大声で、図書館にやってきた。
「ジュナ、おいジュナ。返事が来たぞ。しかも招待状付きだ」テスの声があまりにも大きかったから館内の生徒がみんなテスに注目した。
「おい、テス、声が大きいよ」僕は小声でそう言った。
「お前ら全員、ジュナか?こっちを見るなってんだよ」そういうとみんなは視線を外してしまった。そりゃ、190センチ近くもあるテスに誰も喧嘩を売るようなマネはしないだろう。
 どうやら、彼女の学校で演奏会があるらしく、それに招待されたらしい。
 

 演奏会当日、僕もテスとは別に演奏会に足を運ぶのだった。後ろのほうで彼女が演奏するベートーベンの悲愴に僕はただ、聞き入っていた。
 演奏が終わり、テスとその家族、彼女とその家族が囲む中、僕は遠くで彼女を見るだけだった。だが、彼女がこっちの存在に気がついてくれた。でも、彼女も席をはずせるような状態ではなかった。せっかく彼女のために用意した花束も無駄になるのかと一人途方に暮れ、校庭のベンチに座るのだった。
 すると彼女が走って演奏会場の中に入っている姿が見えた。僕も思わず走って演奏会場に向かうのだった。会場の入り口で僕たちは出会えた。会った瞬間に僕は花束を彼女に渡した。
「どうも、ありがとう」走ってきたから息づかいが荒い。
「どうしても、おめでとうを言いたくて。痛めた足はもう治った?風邪も。ずっと心配してたんだ」もっと話したいことはあったけど、実際会えるとは思ってなかったから、思いつく限りの言葉を並べるので精一杯だった。
「ええ。ありがとう。足も風邪もすっかり治ったわ」彼女の表情は元気そうだった。
「それと悲愴、とてもすばらしかったよ」
「まだまだ、練習しないと。もう、いかないといけないわ……。みんなからこっそり抜けてきたの」彼女は申し訳なさそうに言った。去りながら彼女は
「あの蛍ね、今も元気よ。私みたいにぴんぴんしてる」
 僕は彼女が見えなくなるまでずっと見ていた。会えたことがうれしくて飛び跳ねるのだった―。