はっきりした記憶はないのですが、何か大掛かりな電気工事があり、都だか区だかから依頼を受けた電気工事業者さんが、地域ごとに各家を回って何かしらの工事をした時期があったんです。
確か私が小学校の頃だったと思います。
「ピンポーン!」って呼び鈴を鳴らして、電気工事の格好をした一人のおじさんが我が家を訪ねてきました。
予め、地域の回覧で、そんな訪問がある事を知っていたので、「ああ、あの工事ね。」、と母親はそのおじさんを家に入れて、小一時間ばかりでその人は、家の中の電気の配線をちょこちょこっと調整して帰りました。
さて事件が起こったのは、そのおじさんが帰った後です。
家の中が何か臭い。
スルメのような、納豆のような、とにかく変な匂いがします。
私は四つんばいになって、赤ちゃんがはいはいをするように匂いの元を追いかけました。
匂いの元はどうも子供部屋にあるみたいなので、その部屋の畳を中心にくんくんと嗅ぎ回っていると、ベランダと畳の間の部分に黒っぽい足跡のような形を発見しました。
試しにその足跡を軽く嗅いで見ると、「うぎゃー!」
がーん!とハンマーで頭を殴られたような強烈な匂いが!!
変な匂いの元は間違いなくこれ。
その臭い足跡、さっきまで電気工事屋さんが作業をしながら立っていた所にあるんです。
つまり、彼の脂ぎった靴下の跡。
良く見ると足跡はそこだけではなく、彼の歩いた後には薄っすらと同じような足跡が残っています…。
一番強烈な匂いを発しているのは、作業をしながら長時間滞在していたベランダの付近。
他の足跡も近づくと、同じような臭い匂いが…。
結局、雑巾で床を拭いて掃除をしましたが、数日間匂いは消えなかったですね。
次の日学校に行くと、クラスの中では朝からその足の臭い電気工事屋さんの話題で持ちきり。
その匂いで猫が走って逃げたとか、水槽の金魚が死んだとか、うそかホントか解らない話が飛び交っていました。
ある家では、まだそのおじさんが作業中に弟が帰ってきて
「ねぇー!何か臭いけど、誰か納豆買ってきた?」とでっかい声で叫んだなんて事件もあったようです。
半月前に怪我をした小指は、日を追うごとに順調に治ってきています。
特に痛みは感じないのですが、気になるのが指先の匂い。
その指先のちょっと臭い匂いが、過去のこんなおじさんの記憶を呼び起こしました。
一期一会のあの強烈な足の匂い。
直接嗅いだら間違いなく失神です。