僕は約10年前に西日本の田舎から上京し、現在は同性のパートナーと一緒に東京で暮らしています。

東京での暮らしも10年目となり、地元にいる家族や友人からは「すっかり東京の人だね」と言われるようになりました。


僕が上京したことには色々と理由はあったけど
今では地元を離れてよかったと思っているし
地元の家族や友人たちとの距離感も、東京にいるくらいの方がちょうどいいとも思っている。


だけど、きっとそれは僕の本音ではなくて
いま置かれている環境的にそう考えることが最善だと判断している状態なのかなとも思っている自分がいます。


僕は、地元が大好きです。
地元にいる家族のことも大好きで、地元の友人たちのことも大好きです。
近所の気さくに話しかけてくれるおっちゃんやおばちゃんたちも大好きだし
地元のあったかい優しい雰囲気がとても大好きです。

だけどゲイの僕には、もう地元には居場所がないと当時の自分は思ってしまったんですよね。

ゲイというセクシャリティを隠しながら
普通を装って生活をすることは僕にとっては重荷に感じてしまいました。




今回の帰省のメインイベントは弟夫婦の間に産まれた甥っ子ちゃんに会うことでした。
生後4ヶ月の甥っ子ちゃんは本当に本当に可愛かったです。

僕はもともと、子どもが好きな方でしたが
今まで出会ってきた赤ちゃんの中で一番かわいく感じたし、愛おしくも感じたし
それって、自分の大事な大事な弟の子どもだからこそ余計に特別に感じられたんだろうなと思いました。

帰省のうちの2日間は祖母の家にみんなで集まり、家族団欒を楽しみ
不慣れながらも甥っ子ちゃんを抱っこさせてもらったり、ミルクをあげさせてもらったりと
無事、叔父さんデビューを果たすことができました


そして弟夫婦と甥っ子と別れたあと、ふと我にかえったときに
この子の成長を僕も近くで一緒に見守ってあげられたらいいのになと
少しだけ淋しい気持ちになりました。

僕の家族親戚は、みんな地元に住んでいるため
しょっちゅう親戚のグループラインが稼働していて
みんなで仲良く集まっているときの写真が共有されてきます。
みんながこうやって家族の絆を深めていく時間の中で、僕ひとりだけが離れた場所いる。
その事実に、漠然とした虚しさを感じる瞬間もあったりもします。






そんなふうに思うんだったら、地元に帰ればいいじゃないか。




そんな声が聞こえてきそうなことは容易に想像できるし
僕自身も、そうできたらいいのになあ〜
とも思います。



だけど、やっぱり僕の居場所は地元にはないと今回の帰省でも感じてしまいました。
それってほんの些細なことだけど、ちょっとした他愛のない会話の中でのことだったけど

僕はきっと東京で、今のまま生きていくほうが
きっと僕らしくいられるんじゃないかと感じました。




帰省中に、ノンケの友人と飲みに行きました。
彼とは中学から大学まで学校が一緒で中学3年〜高校2年までクラスが一緒だったこともあり
当時からずっと仲良くしています。

そんな彼と会うのは4年ぶりでした。
仕事の都合で彼が地元を離れてしまっていたためなかなか会えるタイミングがなかったのですが
ちょうど去年、転勤先から地元に戻ってきていたとのことで久々に会うことになりました。


僕は地元を離れて10年になり、すっかり地元の飲み屋に疎くなってしまったため
お店の場所は彼に任せていました。


指定されたお店に約束の10分前に到着すると
彼は先にお店に着いていたようで、すでにお店の中で待っていました。


彼が予約してくれていたお店は
ちょっと高そうな小洒落た個室のお店で
これまでいつも二人で行っていた、行きつけの安っぽい大衆居酒屋とは違っていました。

そうか、もう30代後半だもんなあ〜
選ぶお店も変わってくるよな〜

なんて思いながらお店の中に入り
店員さんに案内してもらい無事、彼と合流しました。



「おかえり〜!久しぶりやな〜!」
「ほんと久しぶりやね〜!てか、ちょっと太った?」
「そうよ、太ったよ〜!ひろㇳは変わらんね。あ、でもなんかヒゲが生えとるね」
「あれ?前、会ったときはヒゲ生やしてなかったっけ?いやいや、俺だって前会ったときよりは太ったよ〜」



こんなゆるーい会話からはじまり、美味しいお酒と料理をつまみにお互いの近況報告会をはじめました。
彼は、地元で去年一軒家を立てて子どももすくすくと成長して今は小学生と未就学の二児のパパをしている。
僕たちはお互いの家族、兄弟のことも昔からよく知っているので自分たちの近況とお互いの家族の近況も報告し合い
近況報告だけでも時間が溶けるように過ぎていきました。


そしていい感じにお酒が回ってきた頃

「で、帰って来とる間に何回デリヘル呼んだん?」

と、スケベそうな顔で彼が訊ねてきました。





あー、この苦手な話題のフェーズが来てしまった。





僕はノンケの友人たちとのこの手の会話がとても苦手だ。
正直、ノンケ界隈の性サービスについてはかなり疎いし経験もないから全くわからない。



「デリヘル?呼んでないし、呼んだこともないよ!そんなんテレビの中の世界だけかと思ったけど本当に呼ぶん?」

「嘘やろ?出張のときとか、そうゆうときはだいたい呼ぶよ!」






「独身っていいよなあ。いろんな人とやり放題やん。しかもひろトは看護師やろ?職場も女だらけやしやり放題やん。それに東京なんて出会いもいっぱいやし、やりまくりよんやろ?」






もー、なんてお下品なのぉぉぉぉおお!!!!!!!!!!!!!!!!泣
それに僕のことを、どんな性欲モンスターだと思ってるんやろうか。





この字面だけみると、僕の友人は最低なやつなように思えるかもしれませんが
心を許している昔からの親友同士である僕にだからこそ、こんなお粗末な内容の会話も冗談交じりでできてしまうんだと思うんですよね。笑






「そういえば、ひろトって最後に彼女おったのいつやっけ?あんまり彼女の話とか聞いた記憶がないかも」






正直、この質問が一番心が苦しくなる。




僕は今、大好きな彼と一緒に暮らしている。
これまでだってその時々でちゃんと恋愛もしてきていた。
だけど、僕はそれを彼に話せないし僕は器用に嘘をつけるタイプでもなく
なんとなくにその場しのぎ的にやり過ごすしかなくて
そのやり過ごしてる感って絶対に相手も伝わっているように思うんですよね。

その一瞬の「あ、なんか俺には話したくないんか」「なんか適当にはぐらかされた感じがする」
と相手の空気から無言のメッセージを感じてしまうことが多くて
その度に、僕はとても不誠実なことをしてしまっていると
相手に対する罪悪感でいっぱいになるんですよね。

だけど話したくても話せないこの葛藤が、自分の中では永遠と渦巻いていて
いつもこの場面に遭遇したときに、心臓の奥の方がギュッと締め付けられるようなそんな感覚になってしまう。




「彼女かー。もうずっとおらなさすぎてわからんよ。それに30代前半まではさ、ちょいちょい女の子ともそういうことはあったけど、もう最近は全然ないかな。もう遊び尽くしたかも(笑)。それに、なんか自分が親になって子育てしてるのがなんとなく想像できんのよね。今は、東京で友達と遊んだり、飲みに行ったり、旅行にいったり。そんな生活がたのしくてそれに満足してしまってて。地元にも帰りたいなって思うこともあるけど、帰ってきたとしても何かしたいことがあるわけでもなくて。かといって東京でやりたいことがあるわけでもないんよね。30代後半にして、人生迷子になっとる感じよ(笑)。やけん、俺はうらやましく思っとるよ。地元で結婚してかわいい子どもが二人おって、夢のマイホームまで持って。家族みんなと仲良く過ごせてることが本当にすごいとも思うし、すてきやなって思うで。でも、俺は俺で今の生活に不満があるわけでもないし、この生活も幸せやと思っとるけん。結婚とか子どもとかってそのときに出会った人と縁があるかどうかって話しやと思うから、もしこの先にいい縁があればいいかなくらいに考えとるよ。」





僕は、僕の状況を正直に伝えることはできないけど
これが今の僕にできる精一杯の誠実な彼への返答でした。


それを聞いて彼も、なんとなく納得したみたいで




「そうやね。別に結婚がすべてじゃないしね。結婚したって離婚する人もおるし、俺も気をつけんといかん(笑)」




と、変な空気になることもなく終始和やかにその場を楽しみました。
気づけば3時間半も一軒目の店に滞在しており時刻は22時前。



「二次会どうする?久々に風俗とかでもいいよ?」


ニヤつきながら彼はそう言うが


「一緒に風俗なんか行ったことないやん(笑)。せっかくやのに喋れる店にしよ(笑)。」

「ひろトはつれんなあ。じゃあスナックにしよか。すぐそこやけん。」


と二軒目はスナックへ。
スナックという場所に僕は36年の人生で初めて行ったけど
思ったより普通の飲み屋で、なんとなくゲイバーに近いような雰囲気を感じた。


1時間ほど彼行きつけのスナックで語らい
そのあと締めにラーメンを食べて解散した。


ラーメンを食べながら

「ひろト、こっちに帰ってきたらいいのに。俺は大歓迎やけんな。いつでも戻ってこいよ」

と何気なく彼が言ってくれたのが嬉しくて
心臓の奥の方がじんわりとあったかくなった。






今回の帰省はたくさんの人に会って、いろんなことを考える一週間でした。



家族の話と友人とのエピソードを中心に書きましたが他にもたくさんの人と会いました。

中でもびっくりしたのが、大学時代のサークルの先輩(ノンケ)と飲みにいったときに
先輩の方から「久々やけん写真でも撮っとく?」と提案があり
居酒屋の店員さんにお願いして写真を撮ってもらったんですが
そのときに先輩が「いや〜、大学のときからの後輩でいま東京にいて。久々だったんでせっかくだから写真でもってなって」
と、店員さんに丁寧に説明していて


「ちゃんと言っとかんとさ、こっち系の人やと思われたらいかんやろ?最近、増えとるらしいけんね。」
と、なんともまあ本当にお手本のような田舎的な思考で
田舎的な思考って言い方が適切ではないかもしれませんが、心底びっくりしたというか
男二人で写真取ることが普通だと思っていた僕の価値観がぶち壊された瞬間でもあったし
こっち系(ゲイ・同性愛の類)という言い方もすごく差別的というか、今どきじゃないというか
そもそもあなたの目の間にいる僕は、こっち系の人なんだけどなあ…。と、思わず苦笑いしちゃいそうにもなりました。

とまあ、そんななんとなく窮屈さを感じた瞬間もありました。



でもそんなこともありながらも
総じて、たのしくてたのしくて仕方がない一週間でした。


僕は地元が大大大大好きです。

だけどその一方で、地元には僕の居場所がないと思い込んでしまっている節もあります。
だけど、居場所ってなんなんでしょうね。

実際に地元に戻れば歓迎してくれる家族や友人たちがいる。
安心できる場所がある。

だけど、僕がゲイとして
ゲイの僕として普通に生きようとすると途端に生きづらくなってしまうように感じるんですよね。


僕は僕らしく、生きていきたい。
僕らしさってなんなんだろうかと自問自答する瞬間もあるけれども
少なくとも今は、東京で大好きな彼や大好きな友人たちと過ごす時間が
限りなく僕らしく生きている状態なのかなと思っている。



いつか僕は、僕がゲイだとみんなに話したい。



それが5年後になるか10年後になるか20年後になるかはわからないけど
だけどいつか、僕はどこにいても僕らしくいられていると
そう実感できるような生き方ができたらいいなと
そんなふうに考えたのでした。