555+ | おとうさんのおもちゃばこ

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昼間は学校の時間の所為だろうか閑散とした芝生と遊歩道のある池のほとり。
「ありがと。練習台になってくれて」
シザーハンズのような真理と白い布を被り、てるてる坊主のような巧。
真理が手鏡を巧に渡す。
陽光が弾かれ湖面に飛び込み、キラキラと輝いた。
微妙にバランスがおかしいが…
「悪くない」
店内でシザーすら握れない美容師見習いにしたら上出来だろう。
安堵の表情を浮かべ、天を仰ぎ、真理はニコリと笑った。
巧は思った。これが夢を持つ者の笑顔なのだ…。そして俺はそんな風に笑えない。
巧をてるてる坊主にしていた布をほどき、真理はバサッバサッと扇ぎ始めた。
白い布と緑の芝生が交互に映える。巧はやがて銀の影が緑に浮かぶのを見つけた。再び白に覆われた後、それはしだいに大きくなっていた。
オルフェノク!
ゆっくりとこちらに向かって来ている。
「俺のバイクまで走れ!」
真理の手を掴み駆け出す巧。
白い布は風に舞い飛び、シザーがだらしなく足を開いたように地面に落ちた。
俺には夢がない…。だが真理の夢を壊させはしない!
それが人を守る心なのだということに気づかぬまま、スマートブレインの汎用バイク「オートバシン」に向かって巧は真理を連れて必死で駆けた。