その27話目です照れ




状態が落ち着いて
相部屋に移れた主人は、


再び

   ナースステーション前
     【ガラス張りの個室】へ・・・




その頃は
夕方 娘と病室へ行っても


私達の話かけに

          うん…

          あぁ…

          そうか…


相槌を打ってくれたり

2言3言 話はするけれど、




       ほとんど喋らず
       ほとんど食べず




私達が病室へ着いた時から
車椅子に座ったまま…


    身体はしんどそうで

    つらそうな顔ばかりしてた








ある日


病室へ行くと





        「モルヒネお願いした…」





主人からそう言われた





私の勝手な思い込みだけど…


「モルヒネ」の登場というのは

         心が落ち着かず・・・

 



その使用を

主人は自ら先生にお願いした




      昔 結婚前…

身近で親しい人の最期の数日間を
ずっと見てきた主人…



その主人が


    自分から先生に頼むまで…



        悩み、不安、葛藤・・・



  どんな思いで決断したのか…




そして

その決断をしなければならないほど

   どれだけ身体が辛かったのか…







  主人から
  そのセリフを聞いた光景や


  その時の
  なんとも言えない感情は


              今でも忘れられない…






それからの主人は

体調の悪い様子や

しんどそうな様子が無くなった分、



眠っているような…

起きてるけど
意識がハッキリしない


           そんな状態だった・・・






そして

年明けから2週間経った1月14日
主人の外泊最終日より10日目…



     私はライブ本番を迎えた




当日は
夕方からのライブ後
お客様達への挨拶もあり、



      「当日は病院にこれないね…」


そう
前日に病室の主人に話した


      『伝わるか伝わらないか』


それさえも曖昧な状態の主人は

車椅子に座り、
やや俯いた姿勢のまま

     「おぉ…頑張ってな…」

そうボソッとつぶやき、

それきり身動きせず目を閉じたまま…





メールのやり取りは

ほぼ私の一方通行になっていた




でも病室へ行くと、

             「メール見たよ」

と、
必ず主人が言ってくれた




だから
返事は打てなくても
読んでもらえるなら


病室で車椅子に乗り
一人きりでいる主人に

何かしら 発信したかった…


       
           ライブ当日
  
  

本番直前に
 
衣装も来て
メイクをした状態で写真を撮り、

           「いってきます」


と主人にメールをした






そのライブで

私は 
今まで経験のない状況に陥った



   セリフを喋る私と

       ギターを弾く人…


ギターは即興演奏で、
私のセリフや動きに
その場その場で
音や曲をつけてくれていた・・・


     ステージ上にはその2人だけ



そんな状況の中、


私はある瞬間

               全てが吹っ飛んだゲッソリ



まさに  頭が真っ白な状態だった



本当に
頭の中に何も浮かんでこない…


    自分でもびっくりした滝汗




ふと遡って思い出したり、
アドリブで何とか繋いでみたり、



何かしらできたことが

全くできず、



間をとっているように動きつつ…


           頭が真っ白・・・


その状況の経験値がない私の頭は、

自分がその状況に陥った事に
さらなるパニックを起こして


  頭の中は 大パニック だったアセアセ




どーにかこーにか
その場を乗り切り、


      無事(?)終わりを迎えた





元になった話はあるけれど、
自分一人用に書き換えた台本だから

   どこをどう間違えたとか
   どこを飛ばしたとか

自分にしか分からない…


後で思い返したら
頭真っ白の後 結構すっ飛ばしてたゲラゲラ



お客様やスタッフは
   ゆったりした「間」
として捉えてくださってたけど、
(もしかして…と思った人もいるハズ)

ギターの方にはバレバレだったにやり




そうして

ライブを終え、
お客様達と挨拶をし、


    にぎやかな時間も終わりを迎え…

            


更衣室へ行き、
1人 帰り支度を始めた


前日に主人に伝えた通り、
そのまま家に帰るつもりでいた
 

ふと 
何気なく携帯を開くと

メールが届いていた 



                主人からだった






      「手をにぎりに来てほしい」




それだけが書いてあった






メールをほとんど打たなくなった主人


その主人から届いたメールが


     「手をにぎりに来てほしい」





送信された時間は
もう何時間も前だった

 

でも

とにかく主人の所へ行こうと思った





主人の病院の中での

       さみしさや…不安や…

メールを打った気持ち…



今からでも病院へ行って、






              主人の手を握りたい





義父から

     「ライブ当日は遅くなるから
        そのまま家に帰るんだろ?」


そう確認された時、


  「当日は病院へ寄らず帰ります」


と答えていた私。





店のスタッフでもある義母に、

主人のメールの話…

  そして
これから病院へ行くということ…


それを伝えて


娘と一緒に帰ってほしいと頼み、
    




すぐに病院へ向かった





陽はとうに落ち、辺りは暗く…


建物内の明かりが煌々としていて
夕闇の中に
病院の建物が浮かび上がっていた



病院内のエレベーターを降り
  廊下を進む…


面会時間も迫り

院内に人影も少なく

   静まり返ったその中を、

私の足音だけが忙しなく響く…




ナースステーション越しに

ガラス張りの扉の部屋が見える…




部屋の明かりはついている

遠くからでも主人の姿が確認できた




また  今日も・・・

ベッドの脇で

俯いた姿勢のまま車椅子に座ってる



          「明ちゃん来たよ」
    (私は主人をこう呼んでました)
 

私は主人に向かって声をかけた







 その声に

 ゆっくり首を上げつつ、

 ぼんやりした顔で目を開けながら


   「あれ…どうした…」


    「終わったのか…?」
 


夢と現実の境目にいるようなのに

私のライブの事を気にかけていた



   「来ないんじゃなかったっけ…」



表情はほとんど変わらぬまま、

主人はそう続けた



  「メールくれたから

     手を握りに来て欲しいって」


 そう言って私は主人の手を握り、


      「来たよ、明ちゃん
          手…握りに来たよ…」

そう声をかけ続けた




主人はその事を覚えているのか、
          状況を分かっているのか、

私にはハッキリ分からなかった





    「あぁ…そうか…そう…」


          「ありがとう…」



手を握りられたまま、

やや俯いた姿勢のまま、

主人は私にそう呟いた…




朦朧とした感じで
表情もそんな変わらないけど、


   ライブは無事終わったのか…
   私が一人で来て 娘は大丈夫なのか…


そんな話を
ポツリポツリと聞いてきた



主人の意識の底で
常に 私や娘のことが回っていた





こんな状態になってるのに…ショボーン





      主人にずっと生きていて欲しい


という気持ちは もちろんある



でも

 主人の姿をみていると、



         主人に楽になってほしい


という思いが湧いてきた…


それが今の主人にとって、
どういう事を意味するかは
よく分かっている




でも

毎日 毎日 主人の姿をみていると


        主人を楽にしてあげたい



という思いは

ドンドン強くなっていった・・・