人間は本来、嘘をつくように生まれついているようなんです。たぶん進化の途上で生き残っていくために、言葉とともに、嘘をこしらえる能力が必要だったのではないでしょうか。
小川洋子さんの文章を読んで、すこし思考を止めてから、ハッとした。嘘をこしらえる、という小川さんの表現には、嘘への肯定感というか、そんな人間の有り様に向けられた温かな眼差しのようなものが感じられた。
そうか。いつのまにか、嘘はつかないもの、つくべきでないもの、という意識が身体に刷り込まれていたけれど、生きていくために嘘をこしらえることも、さりとて大切なのだ。人間ほんらいの温かみがあれば、嘘は、生きるための物語に昇華されるのだろうか。