NHKが毎月実施している世論調査(「政治意識月例電話調査」)をめぐり、回答者における高齢者の割合が大きすぎるという指摘が一部SNS上で話題になっていました。近年の政治は世論調査を意識することが多く、とりわけNHKの調査は信頼度が高いとされます。気になったので直近の2月調査を検証したところ、回答者全体における高齢者の割合は、実際の人口分布よりかなり高いことが確認できました。


 2月の調査(=18歳以上が対象)において、回答者全体における「70歳以上」の割合は4割近くを占めており、人口推計上の人口分布(=18歳以上の人口を分母として再計算した割合、以下略)の4割増しとなっています。「60~69歳」も2割弱を占め、人口分布の3割増しです。これらを合わせると、回答者全体における「60歳以上」の割合は、半数を大幅に超えます。

 

 

 「50~59歳」や「40~49歳」の割合は人口分布と大きな差はありませんでしたが、若年層の割合は大幅に低下していました。本来は回答者全体の1割超となるはずの「20~29歳」は5%弱しかおらず、4割程度しか捕捉できていませんでした。

 

 NHKのホームページでは、世論調査の回答者について「特定の地域、年齢、性、職業に偏らず、日本にお住いの方々の縮図となるように選びます」と説明しています。ですが、実際には高齢者の意向が反映されやすく、若年層の考えをあまり映し出していません。

 

 世論調査と言えば、昔は固定電話を対象とするのが定番でした。ただ、携帯しか持たない方が増えてきたため、NHKは調査の精度を高めるべく、固定電話だけでなく携帯にもかけています。ですが、調査の回答率は固定電話が67.7%と高い反面、携帯は51.3%にとどまっています。固定電話を持っていない人が多いとみられる若年層は、携帯への調査を活用してもなお、データを取りにくいのでしょう。若年層は、選挙離れと同様に「回答離れ」が生じている可能性もありそうです。

 以上をもって「NHKの調査は信用できない」とまで言うつもりはありませんが、高齢者と若年層で回答にそれなりの差異があるような設問では、調査結果に一定の歪みが生じていると考えられます。

 

 NHKの2月調査では、新型コロナウイルス感染症の対策についても訊ねています。「まん延防止等重点措置」の延長については、「適切だ」と答えた割合が49.4%で、「緊急事態宣言にすべきだった」(25.5%)、「延長せず解除すべきだった」(15.4%)を大幅に上回っています。

 

 ですが、事柄の性格上、まん防延長の支持率は高齢者が高いものの、若年層は低いといった「世代間ギャップ」が存在するかもしれません。この格差がかなり大きいと仮定すると高齢者重視の調査では、まん防延長を支持する割合が実態より多少高めに出てしまっている可能性があります。NHKの調査は年代別の回答結果を公表しておらず確かなことは言えませんが、世代間の意識の違いがあるかどうかは知りたいところです。

 

 本来の人口分布より高齢者の回答割合が多くを占める傾向は1月の調査でも確認できました。2月調査だけ例外というわけではなさそうです。

 

 なお、ツイッターでは、NHKの2月調査をめぐり「回答者の9割が高齢者」、「固定電話しか調べていない」、「平日にしか調査していない」(=実際は休日の3連休に調査)といった誤解が拡散しています。高齢者の意向が多く反映されているのは確かですが、事実誤認も多いようなので、その点については否定しておきたいと思います。

 

 

 

 回答した年齢層の検証作業は以下の手順で行いました。


 【➀NHK世調の元データ】

 NHKの2月調査の回答者における各年齢層の割合を確認。
 

 【②NHK世調の元データを補正】

 NHK調査で年齢について回答しなかった割合(5.1%)を除き、年齢層が判明している者を分母として各年齢層の割合を再計算。
 

 【③人口推計の元データ】

 総務省の人口推計(2022年1月報)で、各年齢層の割合を算出。
 

 【④人口推計を18歳以上人口に合わせて補正】

 NHK調査は18歳以上の「成人」が対象。このため、総務省人口推計における各年齢層の割合を、NHK調査の年齢層(17歳未満を除いた母集団)に合わせて再集計。人口推計上の年齢層は5年刻みなので、「18・19歳」の人口の割合は「15-19歳」の5分の2として算出。


 【⑤NHKと人口推計のそれぞれの補正値を比較】

 ②を④で割ることで、NHKの調査が各年齢層においてどの程度捕捉できているのかを試算。