文部科学省は4日、全国の教育委員会などに「オミクロン株に対応した学校における新型コロナウイルス感染症対策の徹底について」と題した事務連絡を発出し、合唱や演奏、調理実習の自粛を要請したほか、部活動についても制限を求めました。共同通信によると、「年明け以降、合唱会の練習や管楽器の演奏を通じてクラスターが発生した事例が報告され、制限強化が必要だと判断した」ということです。

 

 文科省のホームページを確認したところ、書面がアップロードされていました。

 

 通知では「オミクロン株による感染が急速に拡大している」としたうえで、「特に感染リスクが高い教育活動」として

 

(1)各教科等

 【各教科共通】長時間、近距離で対面形式となるグループワーク、近距離で一斉に大きな声で話す活動

 【音楽】室内で近距離で行う合唱、リコーダーや鍵盤ハーモニカ等の管楽器演奏

 【家庭、技術・家庭】近距離で活動する調理実習

 【体育、保健体育】密集する運動や近距離で組み合ったり接触したりする運動

 

(2)部活動等

 ・密集する活動や近距離で組み合ったり接触したりする運動

 ・大きな発声や激しい呼気を伴う活動

 ・学校が独自に行う他校との練習試合や合宿等

 

 を列挙しています。

 

 これらについては「衛生管理マニュアル上のレベルにとらわれずに、基本的には実施を控える、又は、感染が拡大していない地域においては慎重に実施を検討する。その他の感染リスクの高い活動についても、同様の考え方により対応する」と求めています。

 

 「感染収束局面においては、可能な限り感染症対策を行った上で、感染リスクの低い活動から徐々に実施することを検討して差し支えない」と記していることから、普通に読めば、これらの制限は無期限ではなく、オミクロン株の収束までと解釈されます。

 

 一方、「衛生管理マニュアル」の「レベル1」は「安定的に一般医療が確保され、新型コロナウイルス感染症に対し医療が対応できている状況」「新規陽性者数ゼロを維持できている状況」ですが、「レベルにとらわれずに控える」のであれば、なかなか再開できないとも読めます。

 

 どちらにも読み取れるわけの分からない「霞が関文学」になっているのは、文科省が責任を取りたくなく、現場に判断を任せたい姿勢の表れかもしれません。

 

 さて、授業や部活動の制限対象として例示された「密集する活動や近距離で組み合ったり接触したりする運動」とは何でしょうか。

 

 通知では具体的な種目を例示しておらず、現場判断に委ねています。個人的な解釈では、中学校の授業で必修化されている武道やダンスはアウトでしょう。実施している学校は少ないでしょうが、相撲も制限の対象でしょう。サッカーや野球、ハンドボール、バレーボール、バスケットボールも「密集。近距離接触」「激しい呼気を伴う活動」の基準からすると、該当しそうです。高校だとラグビーやアメフト、ホッケーもできなくなるでしょう。

 

 陸上競技やテニス、卓球は一人で行う場合には感染リスク上の問題は生じないように思えますが、「激しい呼気を伴う」ので文科省的にはダメでしょう。そもそも、激しい呼気を伴わない運動競技は弓道、アーチェリー、ゴルフなど数えるほどです。

 

 文化部では合唱部、吹奏楽部、演劇部はアウトでしょう。書道部や美術部などはセーフと考えられます。何をやるのか、やめるのかで学校現場は判断に苦しみそうですし、線引きが難しいと捉えれば部活動を一律に休止するところも出てくるかもしれません。

 

 授業における合唱の自粛も要請されていますので、事前の準備期間を考慮すると、卒業式や入学式で校歌や国歌、お別れの定番ソングなどを歌うことも難しくなるでしょう。

 

 個人的には、せっかく行われるようになってきた式典の国歌斉唱(あまり歌わない学校もありますが…)が、廃れてしまう懸念もあると捉えています。今でも、感染症対策を口実に「したくないことはやめる」という風潮がありますから、歴史が逆回転してしまうかもしれません。

 

 感染症対策の最大の犠牲者は子供たちです。子供たちはオミクロン以前から、重症化リスクが著しく低いにもかかわらず、感染拡大の要因として被害を受けています。人と人とが触れ合わないことが教育であるなら、学校に通学する必要はありません。勉強だけなら、スタディサプリを活用して自宅で学習する方が効率的でしょう。「コロナが流行っているから仕方ない」と捉える方は多いかもしれませんが、学校教育の意義を否定する大変罪深い通知だと考えます。

 

 文部科学大臣が教育課程を編成する際の基準として定める「中学校学習指導要領」(平成29年告示)では、部活動の意義について「スポーツや文化、科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等、学校教育が目指す資質・能力の育成に資する」(第1章5の1のウ)と明記しています。

 

 さらに、指導要領の解説書では「部活動は、異年齢との交流の中で、生徒同士や教員と生徒等の人間関係の構築を図ったり、生徒自身が活動を通して自己肯定感を高めたりするなど、その教育的意義が高いことも指摘されている」(126P)と説明しています。部活中止が長引けば、子供たちの体力低下に拍車をかける可能性もありますが、文科省や政府は一体どう考えているのでしょうか。

 

 文科省の外局である文化庁の都倉俊一長官は昨年5月、「文化芸術活動は、断じて不要でもなければ不急でもありません。このような状況であるからこそ、社会全体の健康や幸福を維持し、私たちが生きていく上で、必要不可欠なものであると確信しています」とするメッセージを出しました。私はこの内容に共感しますし、このような考え方を打ち出した文化庁、ひいては文科省にも敬意を表していました。

 

 今回の文科省の通知は結果的に、学校の授業における音楽や調理活動、グループワーク、主に運動系の部活動について「不要不急の存在」として認定したことになりやしませんか。他人に近づかず触れ合わないことが、果たして教育なのでしょうか。そのような環境で育った子供たちは、どんな大人になるのでしょうか。全国一斉休校などに踏み切らなかった点は評価できるにしても、首をかしげざるを得ません。

 

 オミクロン株は感染力が高い一方、重症化リスクは低いとされます。医療従事者からも「ただの風邪レベル」との指摘が相次いでいます。このため、欧州ではデンマークやスウェーデンは規制を撤廃し、「元の日常」に戻す方針です。イギリスなど日本より被害が大きな国でも規制緩和が相次いでいます。

 

 にもかかわらず、我が国では、延長論もささやかれる「まん延防止等重点措置」をはじめ、規制強化ばかりです。外国人の新規入国を原則禁止する「鎖国」もいまだに解除されていません。参院選に向けた短期的な支持率対策としては妥当なのかもしれませんが、我が国の将来を見据えると、正しい選択とは決して思えません。

 

 文科省には速やかな通知の撤回や修正を求めたいですし、現場の教育委員会や学校は、教育的意義を踏まえ、部活動等の適切な実施に向けてできる限り努力してほしいと願うばかりです。