大和市議会は18日、金子勝前副市長が突然辞職した問題をめぐり、議会運営委員会を開きました。副市長辞職の理由は、大木哲市長のパワーハラスメントを止められなかったことだと報じられています。この日の議運委では、調査権限の強い百条委員会という手法も含めて様々な意見がありましたが、最終的には、調査特別委員会を設置することで全会派が合意しました。一方、大木市長は議運の終了後、「パワハラは捏造だ」として副市長を相手取って裁判を起こす考えを示しました。前代未聞の事態です。

 

 両者の主張は真っ向から対立しています。前副市長は①精神的な不調で休んだ職員の存在②幹部会議で降格を示唆する発言③職員に対する叱責―などのパワハラがあったと指摘します。これに対し、市長は「捏造」「虚偽」と反論しています。

 

 ◆パワハラ疑惑をめぐる市長・前副市長の説明(図表=筆者作成)

 

 個人的には、「捏造」という言葉には、強い違和感を覚えます。岡田康子・稲尾和泉著の『パワーハラスメント<第2版>』(日経文庫)では「ハラスメントは、だれもが被害者にも加害者にもなる問題なのです。そのことを自覚していない人ほど加害者になってしまいます」(P94)と指摘しています。仮に加害者にその気がなくても、実はパワハラに該当するかもしれません。被害者がそのように受け止めたかもしれません。

 

 とはいえ、「思った」だけでパワハラを認定すれば、冤罪が多発する可能性もあります。このため、パワハラには①優越的な関係②業務の適正な範囲を超える③身体的もしくは精神的な苦痛を与える、または就業環境を害する―といった3つの要件があります。その行動も6パターンに類型化されています。これらに照らしながら、事案を個別に見ていくことになります。

 

 市長の提訴方針は素直に受け止めれば、無実であると立証したいということなのでしょう。記者向けに発表した市長コメントでは「本当にパワハラで苦しんでいる人たちにとってもマイナスであり、捏造問題が二度と起きないよう裁判で訴えたい」と記しています。

 

 ただ、額面通りには受け取れません。俗に「スラップ訴訟」とも言われますが、立場の強い者による提訴は、相手側の言論や報道などを封じ込める効果を持ちます。

 

 さらに、大きな思惑もありそうです。市長は18日夕、NHKの取材に応じ、市議会の調査について「裁判が始まるので、大変申し訳ないが語ることはできない」と話しました。これは「裁判で係争中である」ことを理由に、議会の調査に協力しないと言っているのと同じであり、調査のハードルが上がりました。それ以上はここでは差し控えますが、提訴は高度な政治戦略に基づいていると捉えるのが自然でしょう。

 

【NHK】https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210518/1000064571.html

【TVK】https://news.yahoo.co.jp/articles/b3ef2a980f915ab5015452722d93636e08a1d4e0